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15.リクレス城――9

 一度引き返して馬車で城に帰還すると主張するミア様を背負い、縛り上げたジャリ一味を引きずって駆けることしばし。

『鎧が無かったら死んでるとこダよ』

 鎧があったから引きずってきたんだよ。


「――シオンさん、聞いてます?」

「も、もちろん聞いてる」


 一味をエストさんに引き渡した俺は、リディスの説教に遭っていた。

 強く包帯を締められて腕が痛い。

 二人になったところで手傷を負った経緯を聞かれ、事情を話した結果がこれだ。

 カルナが居るから安静にしてれば数時間で直るんだが……。

 まあリディスにも心配かけたのだって事実だし、そう考えると申し訳ないな。


『そういう時は我慢しないで痛がるもんダよ』

 そ、そうなのか?


「……とにかく!」

「お、おう」

「せめて、相手が攻撃してきたら反撃してください。証拠が残らないくらいのスピードが出せるなら尚更です」

「そうは言うが、それでミア様の立場が悪くなるような事があれば――」

「はぁ……シオンさん」


 懸念を伝えようとすると、いよいよ呆れの表情を濃くしてリディスは溜息を吐く。

 改めて肩に置かれた手がずっしりと重かった。


「考えてもみてください。相手が直接攻撃に出ているような状況ですよ?」

「あ、ああ」

「正直シオンさんが倒れるとは思ってないです。けれどそんな状況でシオンさんが負傷して、万が一にもミア様に危険が及んだら?」


 …………!

 まだ未熟な勇者だった頃、悪魔の一撃をまともに喰らった時のような衝撃が走った。

 少しでも迷惑にならないよう賢しらに気を回した挙句、優先順位を取り違えるとは何という不覚か。


「立場どころの話ではないでしょう? ……私が言いたい事、伝わりました?」

「済まんな。危うく取り返しのつかない過ちを犯すところだった」

「最低条件として、シオンさんさえ万全ならミア様の安全は保証されているようなものなんです。それを心に留めておいてください」

「肝に銘じておく。……じゃあ、俺はこれで」


 俺さえ無事なら……ね。

 特訓の量、増やすか。



 ……その翌日、城のある部屋で。


「――ふッ」

「……何してるんですか?」

「ん? ああ、リディスか。普通に掃除してただけだ」

「一瞬で完璧に一部屋分の掃除を済ませるのを普通とは言いません。仕事と訓練を混同してるようだとエストさんに怒られますよ」

「純粋に趣味だ」

「仕事中に遊ぶのは論外です」

「……済まん」



 更に翌日、庭の手入れをしながら。


『――ところでシオン』

 何だ?

『この庭園も随分と様になってきたよねぇ?』

 元からだろ。

 俺が執事任される前からも、そして今もこの庭の手入れしてる人たちが居るんだから。

『細かいことは良いんダよ。それで、この庭――そろそろ()のレベルに進化させてみないかい?』

 はぁ……平和って良いなぁ……。

『せめて何かリアクションが欲しいんダよ!』

 これからの季節、ちょっとハーブの類を多めに育てとくのも良いかもな。

 今度エストさんに相談してみよう。

『庭関係の事ならシエナにって言われてなかったっけ?』

 あー、そういやそうだったな。

『ところで、ちょっと量が欲しい草があるんダけど――』



 その日の夕方、休憩時間。


「シエナさん、少し時間を頂いても――っと」

「同年代だし堅苦しくしなくても良いって、言ったわよね?」

「それでもシエナさんは先輩で上司ですから」

「あぁもうゾワゾワする! そのアタシが言ってんだから素直に聞いてなさいよ」

「う……分かった。それで、前借りた本なんだが――」

「ああ、常識を知りたいってヤツね。読み終わった? ちょうど良いわ、実物見ながら内容振り返りましょ」

「…………刀剣について半日語り続けられる程の知識って、常識なのか……?」

「何か言った?」

「……いや、なんでもない」


 だから片手の指の間に四本の刀剣挟んだまま部屋から出てこないでほしい。

 見つかったら流石に注意対象だろ。



 戻った城に待っていたのはありふれた日常。

 ジャリ一味を捕えてから一週間の時が流れた。

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