14.フィムフ近郊――2
「「「だぁああ!」」」
「「「死ねぇえええ!」」」
「「「――――ッ!?」」」
っと……流石にキツいな。
一呼吸で最高速度を引き出し、ひとまずミア様の傍へ移動。迫っていた武器を全て逸らす。
まったく、もしミア様に当たるような事があったらどうするつもりだったんだ。
騎士たちの動体視力を超えた速度で動いたから、俺が何かしたって証拠は存在しない。
「ッ、の野郎!」
「舐めやがって……!」
「ぶち殺したらァ!!」
……諦める気配無し。
寧ろ激昂して先程より殺意が増した。
『……どうしてアレで諦めるような相手ダと思ったのさ』
普通よっぽどの理由でもないと実力の読めない相手になんか挑まないだろ?
『世の中にはキミより救いようのない馬鹿もいるって事ダね』
なんで俺サラっと貶されてんの?
「――ふっはははは! これで終わりだぁ!」
「は?」
さっきからコソコソ動き回っていたジャリが腕を俺に向けた。
飛んできた小さな矢は……まあ、回収しておくのが無難か。掴んでポケットに突っ込む。
いや、その矢って最初から地味に見えてたけど暗器のつもりなのか?
そして不意打ちならなんで攻撃の前に宣言するんだよ。
「さて、ミア様この状況いかが致しま――くッ!」
「シオン!?」
不意に飛来した無数のナイフ。
ジャリ一味の方に注意を向けていたせいで完全には反応しきれない。
一本を掴んで他の刃を弾くが、絶妙なタイミングで第二射が放たれた。
距離といい配置といい、咄嗟に対処できるものではないが……守るべき主を巻き込みかねない力技など論外。
凶刃がミア様に当たる軌道の全てに左腕を割り込ませて阻む。
「……何とも割に合わん話だ」
突然死角から襲い掛かってきた新手は周囲の草原に溶け込むような緑衣の男。
力量は恐らくジャリ一味とは別次元。
参戦の気配も無かったし、通りすがりくらいにしか思ってなかったが……まさかミア様を狙ってくるとは。
潰――っ?
不意にぐらりと視界が揺れた。
『あ、まダそこまで毒の耐性ついてないから』
しまった……忘れてたが、今は生身か!
毒が回らないよう傷口の周りの肉を抉る。
対処が遅れたのが響いた。左腕は治るまで使い物にならないだろう。
愚痴のような一言を零し、緑衣の男は躊躇なく身を翻していた。
毒への対処を済ませた時にはその姿は既に小さくなっている。
得物を抜く間も惜しんで飛ばした拳撃は弾かれたのが見えた。
チッ……逃がしたか!
「よく分からんが喰らえッ!」
「手負いでいつまで戦える!?」
「…………」
そういや居たなコイツら。
さっきの刺客を完全に無視してやがる。
この程度の攻撃なら、片手でも気付かれずに流すくらい造作もない。
わざわざ意識を割く必要も無いな。
「改めて、ミア様――ミア様?」
「……どうして」
「?」
「どうして反撃しないのよ! こんな怪我までして!」
「(ですが、相手は仮にも貴族との事。万が一にもミア様に手間を取らせるような事態を招くことがあれば――)」
魔法も併用して主にだけ聞こえるように囁く。
懸念の言葉は言い終えるより早く断ち切られた。
「馬鹿っ! こんな木端相手に、そんな気回しは要らないわ!」
「左様でしたか」
「「「――――――」」」
なら遠慮しなくても良いか。
敵全員の首筋に手刀を打ち込む。
最後の一撃と同時に、初めに気絶させた騎士が落馬した。
ミア様に無用の心配をかけてしまったな……。




