エピローグ
「はい、起きてー」
「「「ッ――!?」」」
脳内に直接響くような声。
咄嗟にその場から飛びのこうとするが、身体は金縛りにでもあったように動かない。
周囲を確認すれば、仲間も三人とも同じ状況らしい。武装は解かれ、ご丁寧に負った傷まで治され、会見時のような平服で膝をついている。
場所はリクレス城にあった謁見の間。
視線の先ではカルナが玉座から私たちを見下ろしていた。
「貴様は……」
「うん、みんな状況は理解できているようダねー。感心感心」
「今のはなんだ? テメーが見せた幻覚か?」
「確かにあった過去の事さ。まずは自己紹介を、と思ってね。あぁ、君たちの事は生まれる前から知ってるんでお構いなく」
身体はまだ動かない。自由に動くのは口だけだ。
何が目的だ?
敵の空気に呑まれないよう、改めて意識を強く持つ。
……これまで世界の歴史を裏側から操ってきた、神とでも呼ぶべき全ての災いの元凶。
最高戦力である私たち四国の王は、それを討つ為ここまで来た。
死闘の末に番人を打ち倒し、守っていた扉を開き……。
「落ち着いてきたかな? まずはおめでとう。君たちの力、知恵、精神は十分合格ラインにある。何人か脱落すると思ってたけど、嬉しい誤算ダね」
「はっ、知った事じゃないね。アタシたちはお前を――」
「殺しに来た、ダろ? うんいいよ、勝手に眠るから」
飽きたのだと、その悪魔はのたまった。
契約から解放され、悠久の時を生き、全ての生命を弄び。
そして、自らが手放した後の世界を管理する者として私たちを選んだのだという。
「というわけで、君たちには老いることも病むこともない生命をプレゼントしよう。死ぬこと自体は許されてるから安心していいよ。君らが全滅した頃にまた起きるとするかな」
「好き勝手言ってんじゃねぇぞテメェ!」
「不満かい? 潮時ダと感じたら自分で終わらせればいいダけ、良心的じゃないか」
「そういう話ではないのです!」
「はいはい、っと。ところでボクがわざわざ直接話してるのはなんでかっていうと、他の準備に力を割いてたからなんダけど」
「…………」
玉座のカルナが指を鳴らすと、空間全体に無数の魔法陣が浮かび上がる。
意外にも解析は容易だった。
その効果は……通信、か?
「そして、君たちをここに招いた理由でもある。折角ダし僕が見てきた全てを受け継いでもらおうと思ってね」
「ッ……!」
息が詰まった。
拘束を振り切ろうと全霊を振り絞るも身体はまるで言う事を聞かない。
代わりに悲鳴のような叫びだけが迸った。
「冗談ではないぞ! 全てだと? 耐えられる訳が無い!」
「怖がらなくていいよ。準備してたって言ったろ? もう君たちの方の下準備は済んだし、素養があるのも確認されてる」
「ま、待て――」
「巫山戯た事言ってんじゃねぇぞコラ!」
「お次は英雄の時代。獣人、魔法が歴史に現れる頃ダね」
――それじゃあいってらっしゃい。
悪魔の声と重なって、魔法陣の輝きが全てを塗り潰した。
というわけでカルナの玩具エンドです。
シオンの物語としては前話で終了ということになりますね。
拙い作品でしたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
しばらく間を空けることになりそうですが、次作にも目を通して頂ければ幸いです。




