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127.ネルディア――2

「「…………」」


 どのみち大した手間ではないが、殺気一つで敵を倒せるのは楽でいい。

 見た目にはこれまで通り立ち続けているが、塔の番をしていた二人の兵の意識は容易く刈り取られた。


『うーん、下っ端から引き出せた情報としては上々って感じかな?』


 気絶した兵から必要な記憶を読み取ったカルナが俺の意識に塔内の地図を送り込む。

 剣の気配と照らし合わせれば、通るべき道は自ずと浮かび上がってきた。

 魔法を用いて姿を消し、気配も絶てば巡回する兵に見つかる事は無かった。

 秘宝の影響下にあるせいか、目の前でひとりでに扉が開いても警戒を高める以上の行動をとる事さえない。

 最後に施錠された扉を両断すると、目当ての刀は宝物庫のような空間に転がされていた。


「あ、幾つか駄賃代わりに貰うね」

「……リクレス(ウチ)の不都合にならない範囲でな」

「分かってるって」


 隣では実体化したカルナが幾つかの品を異空間に放り込んでいく。

 本来の持ち主には悪いが、俺が剣を回収した後に火事場泥棒の被害にでもあったのだと思ってもらおう。タイミングが後というかほぼ同時なのは些細な事だ。

 ここでバルクシーヴが宝を失った事が後々ミア様の不利益になるのは本意でないので、そこだけ釘を刺しておく。

 さて……。

 ウェンディは思いの外この剣を大切にしていてくれたらしい。

 剣に残った彼女との繋がりを元にその居場所を探る。


 ……やる事は剣を探した時と変わらない。

 誤算があったとすれば、ウェンディの居場所が塔の地下にあった事。

 そして、そこにはちょっとした迷宮のような空間が広がっていた事だろうか。

 地図を引き出せる巡回の兵も居なかったため少々手こずったが、カルナの助言もあってどうにかウェンディの囚われている部屋まで辿り着く事ができた。


 外側から施錠された扉を叩き斬って中に押し入る。

 無数の魔法陣が描かれた部屋の中央には怪しく光る巨大な水晶。

 そして、向かいの壁にはウェンディが拘束されていた。

 まずは目障りな水晶を破壊し――。


『ちょ、ストップ!』


 ……カルナの制止に、不本意ながら剣を止める。

 ただ、コレを放置するわけにもいかない。

 着ていた上着を巻きつけて光を抑える。


『そうダね、その水晶は参考までに貰って帰るとしようか。魔法陣の方も最低限の写しは取れたから、長居までは要求しないよ』


 そんな思念と共に水晶の気配が少しだけ変化する。

 ウェンディに配慮して水晶を回収する際に偽物とすり替える形にしたらしい。

 器用な真似をするものだと思いつつウェンディの手足を縛めていた鎖を砕く。


「ご無事でしょうか、ウェンディ殿」

「……遂に正気を失ってしまったらしい。有り得るはずのない幻覚が見える」

「この剣が見えておいでなら、少なくともそれは現実ですよ」

「そうか。…………なら、いつまでも呆けているわけにはいかないな」


 剣に施した魔法が働いてくれたらしく、ウェンディは正気を保っていた。

 それでもこの状況は堪えていたようだが、ふらつきながらもしっかり剣を手に取る。


「……よし、もう大丈夫だ。無様な姿を見せた」

「いえ、大事無く何よりです」

「一体、今この国に何が起きている?」

「私が把握している範囲の事であればお教えします。移動しながらでも宜しいですか?」

「無論だ」


 頷いたウェンディと共に、俺がここに来た経緯やセム=ギズルの秘宝についての推測を伝えながら地下を走る。

 話を一通り聞くとウェンディが口を開いた。


「……先ほどのアレが私の洗脳を試みるものだったのだとすれば、他にも同じような目に遭っている者がいるかもしれない」

「ふむ……」


 ウェンディが洗脳を跳ね除ける事が出来たのは、剣に込めた魔法によって彼女自身の魔力的な免疫が高まっていたからだ。

 かつてセルバも操られていた事から、普通の人間に抗えるものではないと思われる。

 だがその一方で、確かにこの地下空間には他に囚われている人間の気配があった。

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