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125.リクレス城――107

「使用人が単身バルクシーヴに飛び込んで人質にされている要人を救出し、おまけに乱心した要人たちに掛けられていた洗脳まで解き、事態を無事に解決しました。……なんて、ね? その気になれば誰が相手でも気軽に暗殺できる最上級の個人戦力、洗脳を解除できる技術力。一つたりとも公にするわけにはいかないわ」

「こちらも、そのような事を求めるつもりは――」

「秘密を秘密のままにするにはバルクシーヴの連中にも真実は伝えられない。でも、そうしたら貸しが貸しにならないじゃない?」

「…………」


 今度はセイラが黙考する番だった。

 あんまりな言葉とは裏腹に、ミア様は出方を探るような目でその様子を窺っている。

 やがてセイラがゆっくりと口を開く。


「……元は独立国だったバルクシーヴ周辺領も、多くが反乱軍に協力する意思を示して軍を動かしています。その中にはラージア領も含まれていました」

「それは残念ね」

「そしてもう一つ。行軍の中、高名な将軍であるウェンディ・ラージアその人が、国家を惑わせた罪によって投獄されたのだと」

「……だから?」

「先日、リクレス領は彼女に窮地を救われたのだと聞き及んでおります。彼女を救う術がありながら見捨てるというのは、僭越ながら不義理に他ならないのでは?」


 ウェンディの言葉に対してミア様は大きな溜息で応じた。

 瞳に冷ややかな光を宿し、呆れを隠しもしない声で冷ややかに告げる。


「何を言うかと思えば、まさか情に訴えてくるとはね……興ざめだわ。リディス、つまみ出して」

「畏まりました」

「……いえ。お手を煩わせはしません。失礼します」


 まだ説得を諦めたわけではないのだろう。

 可能性を完全に断つ事を避けたか、セイラはそう言うと自ら執務室から退室した。


「――ミア様」

「私はね、義理や情では動かないの。リクレスの女狐が勘定に入れるのはいつだって自分の利益だけよ」


 俺の言葉を遮り、ミア様はどこか自嘲的にそう零す。

 それが対外的な建前に過ぎない事は知っていた。

 だから俺は黙って次の言葉を待つ。


「盟友サマにはまだ利用価値があるわ。それに洗脳云々が本当なら、セム=ギズルが調子づくのも面倒ね」

「ミア様……!」

「大体あっちが悪いのよ! 仮にも大国がこんな形で崩れるなんて想定してないし、密偵の人数だって限られてるのにそこまで面倒みられるわけないじゃない!」


 成り行き次第では止められてでも城を抜け出すつもりだったから、ミア様の賛同が得られた事にほっと胸を撫で下ろす。

 ひとしきり不満を吐き出した後、ミア様は今回の任務についてまとめた。


「第一目標はウェンディ殿の救出。この際あまり複雑な事になるようならウチまで拉致してきてもいいわ。第二にセム=ギズルの洗脳があれば、これを可能な限り解除してくる事。出来る?」

「造作もない事です」

「あと改めて念を押しておくけど、勿論アンタが五体満足で帰ってくるのが前提よ? その為なら所属がバレようが何だろうが構わないから。分かったわね」

「仰せの通りに」

「万が一傷でも負って帰ってきたら、大陸中でアンタの名誉を地に落としてやるから。余計な気なんて回さないのよ」

「……承知しております」


 ……俺はいったい何だと思われているのだろうか。

 心配されているのは素直に有り難いのだが。

 微妙に上がっているハードルも含め色々と言いたい事を呑み込み、俺は準備のため執務室を後にした。

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