112.リクレス城――96
「ふぅ……こんなものか」
「随分と張り切ったもんダねぇ」
「実際ウェンディはリクレス領にとっちゃ恩人だからな。力も入るさ」
目の前には完成した大剣。
基本的には素材そのままの見た目で、刃の部分だけ保護に使った魔法の関係で血色に縁取られている。
色を染める素材をカルナが出し渋ったからだが、ウェンディは密偵たちと違ってこの武器で隠密性を求められる事も無いだろうし別に構わないだろう。
魔法の面では以前作った短剣と同じものに加え、斬った敵の生命力を奪って魔力として使い手に還元するもの、そして余剰の魔力を高熱と電撃に変換するものを付与した。
以前目にしたウェンディの動きをトレースしながら試しに振ってみるが、問題は無さそうだ。
「時間にはまダ少し余裕があるね。どうする?」
「そうだな……いや、もう完成でいいだろう。お前には何かまだ案があるのか?」
「身体強化の度合をもっと強くするとかー、致死の呪い付与するとかー、魔力で新しい腕なんか作ってもいいかも」
「却下だ」
とりあえずカルナにマトモな考えを出すつもりが無いのは分かった。
改めて考えてみるが……やはり、特に思いつくものは無いな。
何よりこっちでは、他の魔法を考慮する必要が無いのが大きい。
対魔や退魔が本来は複雑な相性関係もあって面倒なんだが、その要素を無くすとだいぶシンプルな形に落ち着くものだ。
「まぁ、遅れるならまだしも早く戻る分には問題も無いはずだ。帰るぞ」
「はいはい」
工房の片付けを済ませてリクレス城に戻る。
城では帰還したウェンディたちとの晩餐が既に始まっているようだった。
一使用人の身で途中参加する名目も無いが、用意した大剣はどうするべきか……。
ひとまず空いていた風呂で汗を流し、部屋に戻って待つ事にする。
アルマに借りた本を読んでいると、密偵を通じてミア様から呼び出しが掛かった。
「――お待たせいたしました」
「シオン、例のものは見つかった?」
「はい」
晩餐が開かれていた大部屋では、空になった食器を使用人たちが片付けているところだった。
ミア様に一礼し、持ってきた大剣を前に出す。
滲み出るような赤いオーラを纏うそれを見て、ウェンディがごくりと息を呑んだ。
「それは……?」
「――、我がリクレス家に代々伝わる大剣ですわ。非力な私には持ち上げる事も出来ずしまい込んでいましたが、ウェンディ殿であれば担い手として不足は無いでしょう」
「……ああ。心して受け取るとしよう」
……?
心なしか二人がとんでもない怪物でも前にしたかのような雰囲気になっているが、どういう事だろうか。
内心で首を傾げつつウェンディに大剣を手渡す。
「ところで、この剣に銘はあるのか?」
「見たところ、剣そのものには彫られていないようですね。無かったとは考えにくいですが、文献の方は失われておりまして……」
それから少し歓談が続いた後、その場は解散となった。
そして場所は移り執務室。
「――シオン」
「はい」
「何よあの禍々しい魔剣! どういう素材で作ればあんなのになるわけ!?」
「とある怪物の骨を――」
「呪いの武器じゃない! ウェンディ殿に変なリスク負わせる代物じゃないでしょうね!」
「も、勿論です」
悪意の類は込もっていないが……禍々しいか……。
その辺りの感覚は俺もカルナも素で鈍いらしいからな。
事前に誰かに確認してもらうべきだったか。




