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103/132

103.リクレス城――91

投稿ミス申し訳ありません。

昨日の分と合わせ、本日は二話更新となります。

「これで……最後か」

「お疲れ様。なんとか間に合ったみたいダね」


 当初の予定通り不眠不休で仕上げた三百の短剣、そのラスト一本に魔法を付与して一息つく。

 夜明けにはまだ少し時間があるが……今から更に手を加える余裕までは無いな。


 積み上げられた短剣の一つを手に取り、軽く振って具合を確かめてみる。

 魔力を通してやれば、微かな振動音を伴って刀身を包むように魔力の刃が生じた。

 切れ味も硬度も満足のいく出来だ。これなら餞別には十分だろう。

 さて……剣は仕上がったが、やるべき事はまだ残っている。

 工房の後片付けを済ませると、俺は来たとき同様の速度でリクレス城へと駆け戻った。


 ――天武剋流が気の型、水鏡。

 それはどんな状況でも平静を保ち、実力を十全に発揮するための技。

 本来は相手の精神攻撃に対抗したり、窮地にあっても本来の力を引き出したりするための技術だが……。

 特に最近は戦闘以外の用途で頼る事が多い。

 疲労が蓄積してきているのは事実だが、それでも判断や手元を狂わせる事なく料理を続ける事が出来る。


「――ま、こんなものだな」


 別にキッチンは俺の貸し切りというわけでもない。

 密偵たちに作るのとは別に普通に城内で出される夕食の調理だってあるし、俺が長々と占拠するなど以ての外だ。

 可能な限りの質を維持しつつ早めに完成するよう意識した料理を引っ込めて撤退。

 それから少し通常業務をこなした後、俺は今回のために確保された大部屋の一つへ向かった。


 ミア様に聞くまではてっきり普段の修練場に集まるものと思っていたが、今回は密偵たちを労うのが主目的という事で大部屋を一つ開けて貰えたらしい。

 エストさんの手引きでしばらく部外者は近づけない城の片隅には、久しぶりに見る顔ぶれが既に揃っていた。

 一般人に紛れる時の普通の服装ばかりだが、見知った顔を間違えるはずもない。

 欠けている者が居ない事を確認して小さく安堵の息を吐く。


「しかし……俺が音頭を取るのか?」

「彼らの師はシオンさんですから。お疲れでしょうが、もうひと頑張りです」


 料理を運んでくるのを手伝ってくれたリディスがそう言って俺の背中を押す。

 強くは逆らえず壇上に上がると、密偵たちの意識が向けられたのが分かった。


「あー……こういうのは不慣れなんだが。とにかく、皆無事なようで何よりだ。せめてもの心尽くし、受け取ってもらえたらと思う」


 こんな場で振るうような長広舌には縁もなく、言葉は端的に切り上げる。

 逃げるように壇を降りると、密偵たちの間から静かな拍手が上がった。

 勇者時代に経験したような宴とは若干様子が違うが……大丈夫、だよな?

 とりあえず用意した料理は好評なようだ。


「ところでシオンさんは食べないんっすか?」

「ああ。これはお前らの為の料理だからな」

「でもあっちでは……」


 部屋の端に立っていると、フルーツサンドを片手にハンジが話しかけてきた。

 その指さす先には密偵の中に混ざって料理を食べているリディス。


「……止めてくるか?」

「いや、大丈夫っす。量の方もまだ余裕はありますし……それにしても、いつにも増して美味しいですねー。疲れも吹き飛ぶ気がします」

「そう言ってもらえると俺もありがたいな」

「いつの間にかオレらの間じゃシオンさんの料理が故郷の味みたいな感じになってるっすからね。エストさんの腕前も知ってはいるっすけど、あの方はご多忙っすし」

「故郷の味、か……随分と荷が重い話だな」

「今のままでもご覧のとおりに大好評っすよ……それじゃ、オレもおかわり頂いてくるっす」


 ――そんな感じで時折俺の方に来る密偵たちと話しながら彼らの様子を見守る事しばし。

 用意した料理の数々は、ちょうど良さそうなタイミングで無事に平らげられた。

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