終末の日
その場ではわけも分からず、ただただその陰謀の真実に心だけで腹を立てているだけだった。
俺は何もせずに死ぬのか?いや、ガイルを討つ。それが、親友としての俺の最後の使命なのかもしれない。
だが、討ったとしても結局死ぬのは当然であり、必然的だった。ラグナロクは一度作動開始のパスコードを解除すると、キャンセル不可能になり、また、一定の場所に転移するサウィッドシステムでさえ、すでにガイルの零体はあの惑星アースガルズに送り込まれているのだ。
でも、俺は顔にくしゃくしゃな眉間じわがよるほど気が納まらなかった。再び銃を固く握り締めた。
「なあ、おまえはなぜそんなに自由が欲しい?そこまで犠牲者を出してまで理想を現実にすることが必要なんだ?」
奴の心臓に銃口を向ける。すると、こちらの銃すらも気にせず、気軽に笑いながら、こう答えた。
「力だよ。」
「何だと?」
「どういうことなの?ガイル。」
俺も姉さんもガイルの回答があまりにも意外すぎたせいか、若干戸惑いを見せながら聞いてみる。
「そう・・・力。だってよく考えてみてよ?力さえあれば人はおびえる。だからこそ、本当の力で人を超える・・・だから本当は僕たちには何事にも縛られずに力によって世界を変えることができたんだ。だから、今こそ知らせなければならないんだ。そうこの、ラグナロク:birth
でねぇ!」
birth・・・
誕生を意味する言葉だ。つまり、この名称は[新たなる世界の誕生]を意味しているのだと思われる。でも、そんな間違った答えに黙ってはいられなかった。
「でも、そんな誕生は偽りよ!あなたが想像する世界なんて、誰も欲しがらない!」
まさしくそのとおりである。だが、これに対して更なる予想外の言葉で俺たちの考えを覆した。
「そこまで人間の在り方を分かってないとわね・・・」
「[人間としての在り方]・・・だと?」
「そう、人間とは力を存分に奮い、それを自らの利益の為だけに利用し、無力な者だけがこの世界から去っていく。結局、人間なんて力があれば他のものなんて要らないんだよ・・・」
「なんだと・・・」
またしても疑問を覆すガイルに反論する友が一人いた。
「おまえは間違ってる!人は互いを知り、互いの喜びを分かち合い、そして人は成長していくんだ!そうだったろ?俺たちも・・・」
友を立て直すため、自分の考えを述べるとガイルが頭を抱えていた。
「やめろ・・・やめろ・・・!おまえの存在そのものが僕を苦しめる・・・!」
「何・・・?」
「まあ、いいさ。ここで終わりなんだから、もう時間もないしそろそろ消えてもらおうか・・・。」
頭を抱えながら、歩くガイルの後ろにデジタル時計が見えた。もうすでに時間は午後8:59:41。刻一刻と迫る地球の終わり。それを考えると頭の中が真っ白になりそうな気分だ。
「ラグナロク作動開始。サウィッドシステム展開、全ての転移準備完了しました。」
いつの間にか経っていた時間を思い出させるようにアナウンスが流れる。
だんだんと消えていく光。何もかもを失った俺は前を見ると少しずつ目の前のものが消えていくようだった。何も見えなくなりそうだったが、何かガイルが俺に対して語っているのだけが見えた。だが、その音は聞こえることはなかった。その声が聞きたい。自分の友であったガイルの最後の声。それを聞けなかった悔しさはあの世にいても忘れることはないと思う。
そして、俺は目を覚ます。あの新たなる世界で。