1-5
活 動 再 開
入院してたなんて言い訳にならんな!
side海月
「……痛っ……ここは……」
どこだここは……
いや、なぜ俺は倒れているんだ?頭を打ったのか頭がズキズキと痛む。
俺はあたりを見回す。瑠奈が隣で倒れていた―――
「お、おい瑠奈!大丈夫か!?」
俺は優しく肩をゆらしながら意識の確認をする。
「……ん……海月……?」
瑠奈は意識がもどったのか、ゆっくりと体を起こした。
「よかった……瑠奈は体に何ともないか?頭が痛いだとか」
「ん……私寝てても受け身とれるようになってるから」
「それ何ていうパッシブスキル?」
毎度ながらの瑠奈の高スペックさに驚きつつ、改めてあたりを見回し、自分が今いる状態を確認する。
部屋の広さは学校の教室をすこし狭めた感じ……。
壁の作りは石か?見た感じ簡単に壊せそうなものじゃないな。
明らかにやばそうな模様が壁に書かれている。
「……ここはどこだ?……何かやばいことがあったのは微かに覚えてるんだけどな……」
「え?海月覚えてないの?……あの時教室で玲音が―――」
瑠奈が何かいいかけたその時だった。
「―――目が覚めたみたいだね、勇者君達。まずは自己紹介からだ、僕はレオーネ、ここグランバル国の王をやってるんだ」
レオーネと名乗った男―――おそらく20台前半と思われる若さを持っている。
それよりも気になる言葉が出たな……。
「……勇者?王様?おいおい何のドッキリだよ……」
「……海月頭でも打ったの?玲音が私たちを異世界に飛ばしたんだよ?」
確かに頭は痛いが……
「……玲音……異世界……あっ!」
全部思い出した。
あいつ―――玲音が夕方教室に呼んでそれからいきなり―――
「玲音……あいつは一体……」
「んー、僕は自己紹介したよね?次は勇者君達の番だよ?」
「「っ!」」
なんだこの威圧感は……!
全身に寒気が走り、体が無意識に身構えてしまう。
表情はにこやかに、だが相手に有無を言わさない正に王の気迫…。
俺と瑠奈は互いに頷き合い、とにかくこの場を凌ぐことに専念する。
「……神田 海月、日本では学生……です」
「渚 瑠奈です、海月の幼馴染で、同じく日本の学生です」
「……海月君に瑠奈ちゃん……ね、うん、覚えた。さっきはごめんね?そっちもいきなりで思うところもあったかもしれないけども、こちらとしても時間はあまりなくてね?」
さっき……とはあの威圧を受けた時のことだろう。
現代日本では確かに感じたことのない威圧、親に怒られるときや、頑固な先生に怒鳴られる時と似ているとも思えたが、これは質が違う。
正にライオンを目の前にしたウサギの気分だった。
動けば殺される、動かずともいずれ殺される。
そんな威圧だった。
「……まあ、この気に耐えれたなら見込みありだね!さあ、まずはこの世界の情勢と、君たちの役割を―――」
「ちょっと待ってくれ!」
俺は扉へと振り返り歩いていこうとするレオーネを呼び止めた。
このままだとこの男に流されてしまう。
そうなる前に聞きたいことがいくつかある。
「ん?なんだい海月くん。」
レオーネは首だけをこちらへ振り向け、にこやかな笑みを見せてきた。
「まずは……ここはどこだ?日本じゃないみたいだが……異世界なんてとてもじゃないがそんなファンタジー信じられない。 グランバル国とかいってたが俺の知る限りそんな国は聞いたことがない……どうなんだ?」
「ふむ……まあ当然の疑問だね。質問はふたつかな?ここはどこか、ここは本当に異世界か。まずは君たちの世界とは違うことを証明したほうがよさそうだね」
そうやってレオーネは完全にこちらへと振り返り、右手の手のひらを上へと向け、目をつむった。
「我は炎を求めし者 その形を球体にし我の手に顕現せよ―――ファイアーボール」
言い終わると同時に、レオーネの手のひらの上にはバスケットボールほどの大きさの火の玉が浮かんでいた。
「これは……魔法……なのか……」
「……綺麗……」
「そう、これが魔法。僕は人間族だからあまり魔法は得意な方じゃないんだけど……しっかり詠唱すればこれぐらいのことはできる」
これが魔法か……。
確かにこんなものを間近で見せられては、地球では無いと思え―――
いや、ちょっとまて、あの時玲音が俺らに対してやったことは魔法じゃないのか……?
「さて、ここが異世界だという証拠はみせたし、あとはここはどこかという説明かな?それも含めて説明することはたくさんあるから、とりあえずついてきてね」
俺が玲音のことを聞く前に、レオーネはさっさと扉を開け、進んでいってしまう。
「さあ、勇者様、こちらへ」
レオーネの後ろに居た兵士―――だと思われる人たちが案内してくれる。
さっきから勇者勇者って何なんだ……。
いや、さすがに俺も予想は立っているんだが認めたくない、というのが強い。
異世界召喚―――王様の時間がないという言葉。
新島から勧められたファンタジー小説では鉄板な展開だろう。
まあこれもすべて説明があるのだと思う。
俺は瑠奈と再び頷き合い、兵士の後を追った―――
◇
sideレオーネ
「レオーネ様!異世界人の召喚に成功しました!」
兵士の一人が僕の部屋へと報告に来た。
「ん、予定道理の時間だね。しっかり成功したみたいだ。ご苦労様、下がっていいよ」
「はっ!」
兵士を下がらせて、異世界人を召喚するための特別な魔方陣を施した部屋へと向かう。
そこには―――
「……二人?文献には勇者は一人って書いてあったけどなあ……しかも片方がアレだと駄目かな?」
勇者召喚―――それは異世界からこちらの世界へと召喚し、召喚される際に異世界人が得る強大な力を使い、代々魔王を退治する際に使われる人間族に伝わる秘術。
これまでの召喚はどれも年は若く、ある程度異世界―――ファンタジーの知識を有している者が召喚されてきたが、二人召喚されたという事実は確認されてなかった。
勇者が二人―――普通に考えれば強い者が二人も得られたのだ、嬉しくは思えど落ち込む事などないと思われるかもしれないけど。
「うん……やっぱり男の子の方はだめだね、まったく魔力を感じないや。でも女の子の方はすごいな……この状態でも僕と同等……かな?」
男の子の方は何かトラブルがあって一緒についてきてしまったのかもしれないね。
まあもう戻れないからどうしようもできないんだけど……。
「……痛っ……ここは……」
あ、男の子の方が先に目覚めたみたいだね。
さて、この時代の勇者は二人、この世界を救ってくれると信じて、精一杯導くとしますか。
僕は勇者達がいる部屋を透視していたのをやめて、ゆっくりと部屋へと近づく。
なんで透視していたのかって?
そりゃあどんな勇者か先に確認するためさ。
相手が興奮して今にも暴れそうだったときは部屋に入る前に眠らすこともできるからね。
……あの女の子には聞きそうにないけど。
僕は部屋を開く、なるべく第一印象を良くしたいからね、まずは自己紹介。
「―――目が覚めたみたいだね、勇者君達。まずは自己紹介からだ、僕はレオーネ、ここグランバル国の王をやってるんだ」
さて、君たちは僕にどんな未来を見せてくれる?
sideレオーネ――― end
誤字脱字、意見感想ありましたら報告お願いします
新しい作品書き始めました。
できればそちらも見てやってください笑




