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side海月
玲音の問題発言のあった日から二日が経った。
あの時の発言の後は男子に質問攻めとか、玲音との関係を迫られたり、新島にぼこられたりしながらも何とか切り抜けた。
それからの転校生―――玲音の様子だが、クラスの皆としっかりなじんでいた。
まあよく考えてみれば絶世の美女な訳だし、まだ会って日も浅いが優しい奴だと思う。
それだけでクラスの皆となじめる理由としては充分だな。
……なじめない奴もいるとしてはいるんだがな。
恥ずかしくてまともに喋れない奴、女に興味のない男子♂
そしてなにより意外だったのが瑠奈だ。
占いうんぬんで楽しみにしてた転校生で仲よくなるかと思ったんだけどな。
今は昼休み。
そして玲音が来てから毎日の昼休みは玲音のせいで身動きがとれない。
玲音のせいだけではないんだが……。
「ねぇ海月! マグロとサバだったらやっぱりサバだよねっ♪」
いつのまにか君付けをやめて名前で呼んでくる玲音と……
「何言ってるの? 海月は魚は好きじゃないんだよ?」
何故かすごく玲音の事を嫌っている?のかな、瑠奈が俺をまきこんで話しをしている。
傍から見れば美少女二人に挟まれてうらやまけしからん!
とか言われるかもしれないが、当の本人である俺はまったく嬉しくない。
「……うっさいぞお前ら。 あと、玲音近すぎだから」
「え~。 海月いい匂いするもん♪」
「む……」
これが何日も続くと思えば鬱にもなる。
ちなみに言うと俺はマグロ派だ。
◇
―――放課後
「瑠奈、海月~!6時になる5分前くらいに教室にきてねっ♪」
今日の授業も終わり、ホームルームを終えて帰ろうとしたときに、玲音にいきなり呼び止められた。
周りの皆はなんだ、いつもの三人か、と謎の納得をして帰っていく。
失礼な気がするのは何故だろうなあ。ん?
「やけに時間にこだわったような言い方だな。 何かやることでもあるのか?」
「んふふー♪ 秘密だよーっ♪」
秘密か……
玲音ってあんまり自分の過去の話とかしないんだよな。
俺みたいに親関係で色々あったかもしれないから無闇には聞けないし。
「お前秘密多いよな……。 それより瑠奈、お前部活大丈夫か?」
瑠奈はもう少しで大会だからな。
「ん。今体休めとけって言われてる。だから大丈夫」
「そっか。 んじゃあ6時前くらいにここにくればいいんだよな?」
「うんっ♪ 皆とお別れしといてね~♪」
「……ん?ああ、わかった」
お別れ?
何かひっかかる言い方だな。
と言っても実際お別れをわざわざ言うような相手は瑠奈とレヴィンと……新島ぐらいしかいなかったりするんだが。
新島はもう帰ってるだろうし、今の時間だとレヴィンは管理人さんに世話されてるだろうしな。
今から家に帰るとなると6時は過ぎる。
「あー、俺はこのままでいいわ。別に夜遅くなっても困らないしな」
「私もこのままでいい」
瑠奈も特にないみたいだな。
玲音のことだし3人で校内かくれんぼとかやるんじゃないだろうか……
「えっ! あと一時間近く時間あるなあ……」
何か予定が崩れたのか、玲音は手を顎にあててう~ん、とうなっている。
そして案の定こうなる。
「じゃあかくれんぼでもしよっかっ♪」
◇
―――一時間後
「あ、もう時間だね!海月、そこの机の下にいるんでしょ?出てきて~!」
「え?何俺ばれてたの?」
開始から今まで一度も見つからず、瑠奈と玲音だけのかくれんぼの攻防になっていたのだが……。
「んふふー、匂いで分かるよっ♪」
「犬かお前は」
「私は勘で分かる」
「勘で分かっちゃうんだ!?」
ったく、手加減されてたのかよ……。
そんなことより、最初に思ってた6時からしたいことってのが分からないな。
かくれんぼか何かの遊びかと思ったが、よく考えれば時間などどうでもいいし、なによりもうやってしまった。
「……あと5分だね。それじゃあそろそろやらないと……」
いきなり玲音が思案顔を始めた。
珍しすぎる。
「そろそろやる?何のことだ?」
「ん~とね、簡単に言うとね?……力が満タンまでたまったんだっ♪」
「「?」」
玲音の言葉に俺と瑠奈は首をかしげる。
それでも玲音は笑顔で続ける。
「それとね、今しかないんだ。この時期、この瞬間。……あとは成功するかどうかなんだけどね」
「……? だから何の話なんだ?」
「……海月も瑠奈も、この世界に思い残しはない?」
「この世界……?思い残し……? おい玲音、これじゃ死ぬみたいじゃないか?」
玲音はいつになく真面目な雰囲気で話す。
瑠奈も何かを察したのか俺の手をにぎってきた。
瑠奈が手を握ってくる時はいつも怖い時だったな。
俺もいつもと違う雰囲気、何かが起こる気がして緊張してきた。
玲音の思ってもみなかった発言に少しパニックになりそうだ。
どうかんがえても今から死ぬみたいに聞こえないか?
「あ、ちがうよ?死にはしないよ。ただこっちに戻って来れない……かな?」
「死にはしない?だけど戻って来れない?」
おいおい、これじゃあまさかの異世界とかか?
新島に半分強制的に読まされたファンタジー小説で確かこういった場面があったはずだが……。
「……私は海月といられるのなら何でもいいよ」
「瑠奈は海月といつもべったりだったもんね、あっちでも変わらないよ♪」
「お、おいお前ら何話進めてんの? これじゃまるで異世界に……」
俺が言葉を続けようとした瞬間に、玲音は俺の方にサッと顔を向けて言った。
「そ、異世界だよ? 大丈夫!この世界での二人はいなかったことになるからっ♪」
「……え? 何嘘ついてんの? そんなファンタジー小説みたいなことがあるわけないだろ!?」
俺が言葉をかけるが玲音は何やらぶつぶつと言いながら目を閉じ集中していて、全く聞こえていない。
3秒も経っていないだろうか、呪文らしきものをつぶやいていたのを止め、目を開き、薄くぼんやりと光りだした両手を俺と瑠奈の方に向ける。
「おいおい……何のマジックだよ……」
俺はもう完全にマジックの類だとは思えなかった。
転校生の玲音がなぜ俺と瑠奈に目をつけたのか、会ってまだ日も浅いのに俺はまぜ玲音とここまで打ち解けられたのか、玲音の最初からの俺と瑠奈への態度……
今思えばすべてがおかしかった。
玲音が最初から仕組んでいたのか?
なぜ俺たちなんだ?
そしていきなりの異世界召喚……?
なんだよこれ……。
隣で手をにぎっている瑠奈も表情は相変わらずだが、手汗がはんぱない。
やはり俺と同じ状態なんだろうか。
「―――時空魔法 勇者召喚」
玲音がその言葉を俺たちへとかけたと同時に、俺と瑠奈の足元がいきなり光りだす。
円形の文様が浮かんで、アニメかマンガでしかみたことのない特殊な模様が描かれだし―――
「ちょ、なんだよこれ!まさか本当に……っ!」
「……っ! 海月……っ」
そして俺たちは光にのまれ、消えた。
side海月―――end
残された玲音は―――
「あっちの世界で会おうねっ♪ 勇者達」
二人をあちらの世界に送りこんだことで、彼女はかなり消耗していた。
あちらの世界での事象を利用し、はるかに低いコストで召喚させたが、やはり彼女では荷が重すぎた。
「やっぱり魔法は苦手だなぁ……」
そう、彼女の種族には、彼女が特殊なだけであって、彼女以外にあのような魔法を使う事はほぼむりだからだ。
力を使いきり、へたりと座りこむ彼女には、まだ仕事が残っている。
自分をあちらの世界に飛ばすこと。
そうしないかぎり、おそらく二度と海月と瑠奈には出会えないだろう、そう思っているからである。
今から魔法を行使するにあたって必要な力―――精神力を蓄えるのにかかる時間と労力を想像して少し顔をゆがめながらも、彼らに会うためならそれも必要と割り切り、頑張る事にしたのだった。
急 展 開
今までがロースタート過ぎたのでしょうかね。
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