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  05-レディーだから大丈夫

「はあっ、はあっ、はあっ、」まったく酷い目にあった。


コンビニからの帰り道、三奈美たちが風呂から上がる前に間に合わそうと、ペダルをガムシャラに踏み込む。

毎朝、余裕で遅刻する時刻に家を出るが、5kmもがいて三日に二日は間に合わす。自転車にはチョット自信が有った。


車の少ない四車線を、イッキに右折して脇道に入る。商店が減り、田んぼと住宅ばかりになってくる。近所の角で減速して、もう一度踏み直そうと思ったが、そこからは自転車を降りて、押しながら息を整えた。


三奈美が自分で買いに行くと言うのを、小学生だから眠くて待てないとか、急にユキが子供ぶって邪魔をした。

それに、オレより戦闘力が高くても、深夜に女の子一人行かせるのは抵抗がある。


しかたなく自分で買いに行くコトを決めたが、最初から二人の仕向けたイタズラだったような気もする。


ガレージの前まで来ても、まだ息がはずんている。その息を押し殺して、車と階段の間をすり抜ける。

”ガスッ”とドアミラーがワキ腹に引っかかったが、うめき声も押し殺した。


階段の裏の壁際に自転車を停めて、母屋に向かおうとすると、頭の中で三奈美のコエが聞こえた。


(幸男くん、もう二階にいるから、そのまま上がってきて)


オレは反射的に上を見た。階段を裏から見上げると、出かける前に見た捲れたスカートを連想した。今、三奈美が出てくれば、パンツが丸見えだな、と思ったが、パンツはオレが抱えたバッグの中だ。

じゃあ、今は――

手元を見て、あらためて恥ずかしくなった。


気を落ち着け、音を立てないように階段を上る。

他に音が無いとスニーカーでも、無音、というワケにはいかないのが分かる。オレ一人なのだから、普段程度の注意でイイのだけれど。


ドアの前でエロいコトを想像し、ノックをしようか迷ったが、どうせ気づいているだろうから、そのまま入った。


「ユキオ…… キモっ!」コタツに入っていたユキが、奥にいる三奈美のところまでワザとらしく逃げて行く。


(おかえり! どうだった? こっちは問題無かったけど)三奈美は背中を向け、クローゼットの鏡を覗き髪を乾かしている。素肌にロングのトレーナー以外、何も身に着けていないように見えた。


「あっ、まー、なんとか、たぶん希望どおりじゃないと思うけど」


体を反らすたび浮かび上がる、みごとなカーブの小さなお尻は、布の中に収まりかねている。

スーっと伸びた脚が、柔らかそうで艶かしい。


「ありがとう。大変だったでしょ」三奈美は振り返り、声に出して言った。残念ながらクビに掛けたタオルが、胸先をしっかりガードしている。


「でっ、どう? 恥ずかしかった?」そう聞く三奈美は今の格好、恥ずかしくないのか?


「そりゃあー当たり前に恥ずかしかったよ」オレの頭の中で、買い物の情景が高速再生される。

直接読み取れる三奈美たちは、ソレを見てニヤニヤしている。


オレは居心地が悪くなり、よけいなコトを言った。


「その格好、寒くない?」


「ん、寒いよっ! でもコレはお使いのお礼だから、がんばって期待に応えてみた」三奈美はクルっと回って見せたが、遠心力は期待に応えてくれない。


「お姉ぇーちゃん! サービスタイムはイイから着替えようよぉーっ 」


ユキはガラの悪い、派手なスカジャンに着られている。どういう仕掛けでズリ落ちないのか、七分丈になった短パンがモソモソして動きづらそうだ。未使用のまま袋に押し込み、存在さえ忘れていた悪趣味な貰い物だ。


「ユキオー、れいのブツを」


オレは中身を出さずに、黙ってバッグごと手渡した。


「コレで足りるかね? 釣りは取っておきたまえ」ユキは代わりに一万円札を差し出した。


「偉そうだなーっ、いらないねー」笑いながらオレは両手を後ろで組んだ。


一つ一つは思ったほどじゃなかったが、全部合わせると五千円を超えていた。財布にそれだけ入っているコトはめったになくて、別の日ならもう一つ、恥を重ねるところだ。


「ごめんね、アタシ払うから」三奈美があやまる。


「イイから、受け取れないんだ」


父は男尊女卑の差別主義者で『女に手を上げるな、金は出させるな』とフェミニストが聞いたら、怒り狂うようなコトをオレは教え込まれてきた。


「じゃっ、次に着替えるとき、脱ぎたてを返してやろー、ネットで売れば儲かるし、自分で使ってもイイんだぞ! ねっ、お姉ぇーちゃん」


「ゼッタイ返しません!」三奈美はそう言うが、女からプレゼントを貰うなとは教えられていない。


「え~と、下の引き出しにセーターとか、新品のシャツも有るし、風邪引くから、イヤじゃなければ使えるものは何でも使えばイイよ……

あっ! ユキ、Sサイズも子供用も無かったんだけど、レディーだから大丈夫だろ?」


「イエス・アイム・レディ!」ユキは親指を立てたコブシを突き出し、ニカッと笑顔をつくった。

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