初夜01-特別ダカラ!
意識が帰ってくる ――
遠くから帰ってきて、目を覚ます……
薄いクリーム色、ランダムに縦じまがボンヤリしている。自分の部屋の壁紙だ。
なじんだベッドの中、父が騙されて買ってきた、高級羽毛布団に包まれている。
本当に高級かどうか疑わしいが、使い心地がいいので、気に入っている。
しかし、
さっきまで、もっと暖かいものに、包まれていたような感触が……
背中で、テレビの音がしている。
寝返りを打つと、15センチの距離で、小さな少女と目が合った。
「ウオッ!」オレは思わず声を出し、起き上がった。
「大丈夫?」大きいほうの少女が、心配げな顔でコッチを見る。姉妹なのか、どことなく似ている。タイプが違うのに印象が似ているのは、二人とも美人のせいだろうか?
「えっ!…… 何っ?…… 何でココにいるんだぁ?」
真夜中オレの部屋で、知らない少女が、テレビを見ながらミカンまで食っていた。
「アタシ、波多三奈美、キミの名前は?」大きいほうが唐突に聞いてくる。
「えっ?」呆気に取られていると、小さいほうがオレの代わりに答えた。
「古川幸男……って!お姉ぇーちゃんも知ってるくせに」
「調べたのかっ!」オレは焦って部屋を見回した。
スッキリと片付いている。
母親がいないので、散らかし放題、ヤバい物も大抵出しっぱなしにしているのに。
コタツの上にあったはずの、エロい物は何処へ行ったのか?
「べつに調べたってワケじゃないけど、まあ、その、勝手に
入ってきちゃうってゆうか…… あっ、そうだ!、この子の名前もユキオなんだよ」 波多三奈美は、歯切れ悪く誤魔化す。
名前が同じコトに、オッ、と引っかからないでもないが、それよりオカズの行方と、明らかにソレを見られているコトのほうが気になった。
「ソレなら、ベッドの下の引き出しだよ!」雪緒が教えてくれる。「エッチなモノは、ベッドの下にしまうんだって、お姉ぇーちゃんが……」
ビクン!と体が反応し、悪寒が走った。
「ユキちゃん!」三奈美が慌ててさえぎる。
おそらく赤面していたであろう淡い火照りは、オレの顔から消えて無くなった。
(心を読まれた!)今、やっと公園の記憶とつながった。
(人殺し!)(バケモノ!)(人殺し!)(息ができない!)
目の前の可愛らしい姿が、すぐにも醜い悪魔に変貌しそうな気がした。
「酷いなぁ~、悪魔になんか、ならないから」三奈美はのんびりとしたトーンで話し始めた。
「だいたい、そんな大したコトじゃないんだけど……
人の気持ちが良く分かる、チョット力持ち、てコトで、恐がるようなコトじゃないって」
(そう言われれば、そんな気もする)
「でしょっ!」
(そんな気がするのが、オカシイのは分かっている)
「そう、オカシイよね、最初に心の声を聞いたのは、キミのほうなんだから」
「アレは、キミが聞かせたんじゃないか?」
「人を殺したコトなんて、誰にも知れれたくないよ……」三奈美の表情がくもった。
「それは、そうだろうけど…… じゃあ、何で?」
「キミには、特別な力が有るってコトじゃない?」
「有るワケ無いだろっ、そんなモン!」自分が特別じゃないコトは、自分が一番よく知っている。
「気づいてないだけだって、少なくともアタシにとっては特別、ダ カ ラ !」
・・・・・・(しまった!)不意を突かれて返しそこなった。
「ユキオッ! なに照れてるんだよ、バ~カ」小学生が容赦なくツッコんできた。
「ユキオって呼ぶなっ!オマエもユキオじゃないかっ!」オレは恥ずかしくて、少しむきになり、声が大きくなっていた。
”ドッガッ!” 母屋のほうで音がした。