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導入-見ちゃった

十二月某日 午後十時四十七分



〈人を殺した!〉


突然、何処からか、女性の青ざめた声が聞こえた。


”キーッ、ズザザ!” オレは方向感覚を失って危うく転びそうになり、慌てて自転車を止めた。


〈人を殺した…… あんなに気をつけていたのに……〉


やけにハッキリしているのに、どの方向から聞こえたのかサッパリ分からない。おもわず振り返り、ゆっくり前を見て、もう一度振り返った。


確かに石垣に囲まれているので、その反響のせいかも知れない。

だが、それにしては……



城跡公園は、いくつかの広場や施設が、石垣に囲まれた通路でつながれ、簡単な迷路みたいな造りをしている。通路はアスファルトで舗装され、道幅は広く、カクカクと折れ曲がっている。


恐怖と好奇心で、キョロキョロ様子を伺いつつ、自転車を静かに押していく。


この先は、左側の石垣がきれ、東側がひらけて広場があらわれる。

通路脇にある四段ほどの階段を上ると、30センチ四方のコンクリートが敷き詰められた、鴨の池広場だ。


北側には、学校の自転車置き場みたいな、前面を開放にした細長い休憩所があり、丸太を半分に切ったベンチが並んでいて、広場をはさんで南の鉄柵の向こうには、お堀からつながった池に、名前のとおり鴨が数羽浮かんでいる。


対岸はさらに石垣が高々とそびえ、東側は密度の高い生垣と、お堀がスグ外の国道と遮断し、西側は通路をはさむものの、ヤッパリ石垣で囲まれ、この公園では最も人目につかない。


自然とカップルが集まってくる。デートなど縁のないオレは、普段なら何も見えない振りで、トットト通り過ぎるところだ。


いったん、手前で自転車を停め、石垣のきれ目から、顔だけ乗り出し左を覗き込んだ……


街灯の下にふたつ影がある。



小学校低学年らしい少女と、オレと同い年くらいの女子高生、おそろいの制服を着ている。

暗くて刺繍までは確認できないが、普通すぎるセーラー服は清女に違いない。


呆然としている少女たちの視線の先に、冗談みたいな光景がころがっている。


硬い地面にできた、赤黒い水溜り。


寝そべった男の首は、数回転して千切れかかり、腱とか髄とか血管とか、よく分からないモノで、どうにかつながっていて、胴体から流れ出す血液のさざなみに、ゆらゆら蠢く頭部が、まるで別の生き物のように笑っている。


あまりの現実離れに、状況を理解できず、オレの喉は数秒遅れで、やっと悲鳴をあげようとした。


〈ダメッ!……

       声を出さないでっ!〉


直接、頭の中で言葉が破裂した!


オレの喉は、閉じたままくっ付いてしまい、声と同時に呼吸までも止まってしまった。

パニックを起こし、一瞬で苦しくなる。

体が硬直し、世界が歪む、霞んだ目から少女たちが消えていく。


「ゴメンねっ……」

今度は耳元で優しく聞こえた。


フッと力が抜ける、スーッと空気が肺に浸み込む、頭の中に心地よく何かが流れ込むと、意識が遠のき膝から崩れそうになる。


誰かが抱きとめる。

きっとアノ娘だろう……

それは、やわらかく、あたたかく、以外に力強かった。


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