お城
着いたお城は、私の想像よりも小さめだった。でもお堀の周りの桜がとてもきれい!それに、こじんまりとしているけど、つくりが丁寧なのが素人目にもわかる。
お城に入ると、男の人が部屋に案内してくれた。
「こちらでお待ちください。」
部屋を見渡してみる。お城の中にしては、地味な気がしたけど…
「…最初は質素な部屋だと思ったけど、よく見ると掛け軸もお花もすごく上品ですね。」
「すべて陽虎の趣味だよ。」
「はるとら…?」
「このお城の城主ですよ、咲さん。これからお会いする方です。」
「あいつの趣味は昔からいい。…それにあいつは料理も得意だぞ。」
「…お殿様なのに…ですか?」
「…お殿様が料理を作ってはいけないか?」
ふすまの向こうから声がした。振り向くと、質素ながら品のいい着物を着た男の人がいる。
「待たせたな、高久、あきさん。…こちらの御嬢さんが、例の?」
「ああ。咲、これが陽虎だ。」
お、お殿様っ!…言われてみると、風格ある…若いけど…
「お、小笠原咲と申します。」
「咲は未来からきたそうだな。」
「は、はい。…え、でもなんでそれを…」
「高久から既に聞いているよ。」
「…はやっ!」
「俺と陽虎は密に情報を交換してるからな。」
「へ、へえ…」
まあ、家臣とお殿様だもんね、そうだよねー。
「…ところで咲、未来の料理は、今の料理とは変わっているのか?」
「ええ、だいぶ違いますね。」
「今度教えてはくれるかい?」
「…は、はい!」
お殿様ってもっとお堅い人を想像してたけど…陽虎さんはいい人みたい!
_______________
あのあと、陽虎さんと雑談をして、私とあきちゃんは、高久さんのお屋敷に帰ってきた。高久さんは陽虎さんとお話しがあるからと言って、お城に残った。帰り道、あきちゃんに高久さんと陽虎さんのお話を聞いた。
「高久様は、幼少のころから殿にお仕えしていらっしゃるんです。なので、高久様は殿にとっては家臣というよりは、幼馴染で相談相手といったところでしょうか。」
「だから、お殿様のこと呼び捨てにできちゃうんですね…。」
おかしいとは思ったのよ、さすがに。仮にも一国のお殿様なのに、家臣に呼び捨てにされるなんて。
「ええ。しかし、公式の場では慎まれていますよ。今日お会いになったのは、咲さんと殿を会わせるためみたいです。殿と家臣という立場ではなく、ご友人としての立場で会いに行ったのですわ。お仕事のためにお城に行かれる時は、明久様が一緒なんです。そういう時は、わたくしがお供することはありません。」
「そうなんだ…それにしても、なんで高久さんは私と殿を?」
「それは、咲さんが高久様のお気にいりだからですわ。ふふふ。」