忍
「秀人」
「なんだ、気づいてたんですね、旦那。」
咲が来てから2日。咲が悪い人間には見えないけど…俺も彼女の話を鵜呑みにするわけにはいかない。この2日間、忍びの秀人に彼女の周辺を探らせていた。探るという行為自体、彼女には悪いが…俺には責任がある。もし、彼女が敵が送り込んだ密偵だったら…家の者だけでなく、藩や藩主である陽虎に迷惑をかけることになるからな。
俺は部屋で書類に目を通していたが、秀人の名を呼んだのは、姿を見せなくても秀人が俺に会いに来たのは気配で分かったからだ。秀人が俺の元に来るときは気配を消さない。俺が気づいているのをわかっていながら、秀人はいつもこのように言って姿を見せる。咲のことで報告に来たのだろう。
「で、なにかあった?」
「なんにもわかりませんでしたよ。未来から来たって話を信じろとは言いませんけど…少なくとも今の時代に彼女の痕跡は何一つありやせん。ところで…旦那はああいう女がタイプなのかい?なかなかかわいいと思いますけどねー俺は。」
そういってにやにやしている。…まあ、秀人の情報は間違いないだろうな。いい加減そうに見えるが、秀人の能力はその辺の忍びとはくらべものにならない。諜報活動も徹底している。
「…ご苦労でしたね。」
「…相変わらずつれねーのな、旦那は。…仕事もそこそこにしてたまには息抜きしたらいいんじゃねえかなー…働き過ぎだよ、あんたは。」
「余計な心配だな。俺は大丈夫。…お前も無茶しないようにね。」
俺は陽虎の右腕であり続けると誓った。その俺の右腕的な存在である秀人がいなくなれば、俺の誓いは果たせないだろう。そのくらい、俺はこいつの力には頼っているところがある。それを陽虎も秀人自身も理解している。この藩のためには欠かせない人物なのだ。
「…今日は登城の日でしたね、姿を隠してついていきますよ。んじゃ、またあとで。」
そういって秀人は姿を消した。さて、俺も準備をせねば。