拾い物
いつものように目を覚まし、俺は庭に向かった。この庭は屋敷内の子供たちが運動できるようにと、余計なものは置かず、広々としている。ただ、朝早くには子供たちは来ないため、朝の稽古にはもってこいの場所だ。…本来、剣を振るなら道場に行けばよいのだが…この時間でさえ、道場では誰かしらが稽古をしている。そのため道場に向かえば「高久様、ぜひお相手を…」と詰め寄られてしまう。もっとも、相手をするのは構わない…というかむしろ好きなのだが、朝の稽古ぐらいは一人でやりたいのだ。
「さあて…」
木刀を構える。ふと目をやると、その先には、あんずの木が見える。
「…今年もいい花を咲かせたな。」
きらびやかな感じこそないものの、その花はとても美しい。これは今年もたくさんの実がなることだろうな、と思って見ていると、あんずの木の根元に見慣れないものがあることに気が付いた。茂みに隠れて良く見えないが…人…なのか?木刀をおろし、少しずつ歩み寄ると、そこには女…髪が短く、見慣れない格好をしている人が転がっていた。
「…うちの者ではないな…どうやって侵入したんだ、こいつ…」
警備のものが見逃した…のか?警戒しつつもさらに近寄ってみる。よく見るとかわいい顔をしているな…って何考えてるんだ俺は。そっと顔を覗き込んでみた。どうやら、気を失ってるようだ。何が起きているのかわからないが…拾っておくか。
「よいしょっと。」
とりあえず、客間に運ぼう。
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女を抱えてすぐそばの客間に運ぼうとすると、庭にほど近い台所で野菜を洗っていた下女の一人がその姿を見て、驚いた様子で話しかけてきた。
「旦那様…そのお方は…?」
「あー、庭で拾ったんだ。」
「…?」
状況が読み込めてないようだ。…もちろんそれは俺も一緒だが。
「気を失ってるみたいだから、休ませたい。客間に来るよう、あきに伝えて。」
「か、かしこまりました。」
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客間につき、女を布団に寝かせたところで、部屋の外から声がした。
「…高久様、お呼びでしょうか?あら…これはどのような状況でしょう…?」
「分からない…庭で拾った。」
「…えっと…。」
上女中のあきは、大きい商家の娘だ。年上の者には身分が低くとも敬意を払い、下女たちに対してもやさしく接する、気取らないいい子だ。そして、18という年の割にしっかりしている。そのあきが少々とはいえ混乱する姿を見せるのはとても珍しかった。
「どうしてこの屋敷の庭にいたのかは分からない、気を失っているようだから運んどいた。悪いが、少し面倒をみてくれるかな。目を覚ましたら、俺の元に連れてきて。」
「…ふふ。なんだかおもしろいですね。かしこまりました。…高久さまは朝の稽古を続けてくださいませ。」
「ああ、そうするかな。」
あきに言われた通り、俺は庭へ戻り稽古を続けることにした。




