タイムスリップ
「あら、お目覚めですのね。」
声がした方を見やると、着物を着たきれいなお姉さんと桶を持った女の子が立っていた。
「…き、きれい…」
って、私何口にしてるんだろ…恥ずかし…少し顔が赤くなるのがわかる。
「…ふふ。…桶と手ぬぐいはそこに。あとは下がってよいですよ。」
そういわれると手に持っていたものを私のそば置き、女の子は一礼して去って行った。綺麗なお姉さんは私のそばに正座する。
「…申し遅れました。わたくし、直江家の女中をしております、あきと申します。」
「…だ、大学生をしております、小笠原咲と申します。」
…女中ってことは、やっぱりここはお金持ちの家なのかな…ってか、大学生をしておりますとはなんだろ…まだ頭がぼーっとするな…
「…だいがくせい…耳にしたことのない役職ですね?」
あきさんはそういいながら、手ぬぐい水にさらし、きつく絞っている。大学生…を知らない…?どういうことだろ…とりあえず、ここがどこか聞きたいな…
「こ、ここはどこなんでしょう?」
「ここは、直江家の屋敷にございます。」
うーん…まだ状況が読めない。
「私はいったいなぜここに?」
「…それはこちらが伺いたいぐらいでございますわ。ふふ…。」
「え、それは…」
どういうことだろ…?
「今朝、貴女様がそちらのあんずの木の下に倒れていらっしゃるのを、旦那様が見つけられたんですよ。…不思議な恰好をしていらっしゃいますが、みたところ忍ではないようですし、どのように警備の者の目をくぐって屋敷に入られたのか、皆が噂していますわ。」
庭にもう一度目をやると、そこにはあんずの木があった。うちのあんずの木と同じぐらいの大きさかな…そんなことを思っていると、あきさんがさっき絞った手ぬぐいを私のおでこにのせてくれた。ひんやりして気持ちいい。それにしても…旦那様?忍?警備?まるで…何世代も昔の話みたい…面白いこというんだなーあきさんって。
「あきさん、冗談うまいんですね。…それとも劇団の人か何かなんですか?あー、これも舞台のセットだったりして!いやあ、精巧にできてるんですね、ほんとのお屋敷みたい!戦国時代か何かの劇ですか?」
あきさんが一瞬不思議そうな顔をする。
「…劇…?面白いことをおっしゃるのですね、今がまさに戦国時代ではありませんか。」
…はい?