始まり
「咲ー、ご飯よー。」
「分かった―今行く!」
階段を下りながら窓の外を見ると、あんずの木が目に入る。今年も見事な花をつけた。庭のあんずの木は、私が生まれたときに祖父母が植えてくれたものだ。21年、一緒に育ってきた。
決して派手な花ではないけれど、私はどんな花よりもあんずの花が好き。
「今日は遅いの?」
「ううん、夕飯には帰るよ。」
「そう、んじゃ今日は咲の好きなグラタンにしましょう。」
「やったー♪…んじゃ、行ってきます!」
玄関に出て、自転車の鍵をさがして顔を上げると、そこにはあんずの木があった。
「立派になったわねー。今年もあんず漬けが楽しみだなーっ。」
…ペシペシ
小さい子の頭をポンポンするように、やさしくあんずの木を軽く叩いた。…その瞬間!
「…っん…なんかくらく…ら…す…」
_______________
なんだかぽかぽかするな…あれ、ていうか私何してるんだろ…目を覚ますと、そこには知らない天井があった。どうやら私寝かせられてるみたい。体を起こそうとすると、頭痛が走った。
「うっ…いったあい…」
体を起こそうとするのを断念して、ごろんと横を向いてみた。すると、そこに見えるのは見事な庭…なっ、なにこれ、どこぞのお金持ちの家よ…こ、ここはどこー?