乾いた洗濯物
チャイムが鳴って目を覚ました。あっ、起きて玄関を開けなきゃ、と思うが体が言うことを聞かない。そういえば、昨日飲みすぎたんだっけ、と思い出したとたん頭の奥から鈍い痛みがやってきた。
「前田さん、郵便でーす」
チャイムとともに配達員の人がそう言った。何度目かのチャイムのあとにはコンコン、とノックまでつけてきた。
頭が痛すぎて起きる気になれない。チャイムの音が頭に響いて余計に僕を苦しめる。早くどっかいけよ、と心の中で叫んでいるとようやく諦めたようで不在通知の紙をポストに入れてからバイクの音とともに消えていった。静かになったところでようやく体を起こして部屋を見回した。
ワンルームの部屋の中に足の踏み場のないほど物が散乱している。昨日のケンカのせいだ。
昨日、彼女とケンカした。本当に些細な理由だと思う。いや、些細な理由と思っているところがケンカの理由なのかもしれないけれど。とにかく、僕にとってはものすごく些細なことだった。
冗談のつもりだった。彼女だっていつも笑っていてくれていたし……、っていうのは後付けの言い訳なのかもしれない。
彼女はよくボケる。僕を笑わそうとしてよく冗談を言う。それを聞いた僕は「アホか」や「きもいなー」と切り返していた。それが彼女らにとって負担になっていたことに僕は昨日まで気付くことができなかった。
足で適当に物をどかしてようやく足の踏み場を作った。立ち上がってからまだ頭が痛いのでふらふらした。駄目だな、と自嘲気味にひとりごちてから歯磨きをしたいので洗面所にむかった。
洗面所に置いてある洗濯機を見てすぐに思い出した。洗濯物干したままだ。
歯磨きよりも先にそっちをしようと思い、ベランダに向かい窓を開けた。
あっ……。
この洗濯物彼女が最後に干してくれたやつだ。まだ彼女の服が干してある。
なんだ、この寂しい気持ちは。
そうだ、僕にはやることがある。郵便の荷物を受け取るよりも、歯を磨くことよりも、洗濯物を取り込むことよりも。
彼女に謝らなくていけない。
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