05
奈鶴は食べ物をやると大人しくなる。
いや、正しく言うならうまい食べ物をやると大人しくなる。
「ゲホッかは、……ケホケホ…っ!」
更に正確に言うと、うまい食べ物を与えないと大変にやかましい。
「…っ…!ゼーゼー…………」
長年そう思ってきたのだが、どうやらそうとも限らないらしい…
「っなんだよこれ!」
「何が?」
「これだよこれ!ジャムかと思ったらこんな……。とにかくなんだよこれは!俺を殺す気か!?」
と思ったが、やはり静かなのは最初だけのようだ。
残念なような諦めたような、そんな心境が顔に出ていたのか、本気で聞いていないように見えたのだろう俺に、奈鶴はこんなもの食べ物じゃないとか、一瞬河が見えた、だとかと猛烈な勢いで抗議をはじめる。
が。
「それな」
「なんだよっ!」
「お前の遺物」
「…は!?」
「だから、昨日お前がどうやってか作って、俺が抹殺したモノの、鍋にこびりついてた残骸」
「…………」
「…………」
意味を徐々に飲み込んでいく様が傍目からでもこれほどわかりやすいのは、俺の知る限りだんとつコイツが一番だ。
「もう台所に近付くなよ」
「…………うん」
良い返事を返した奈鶴にヨクデキマシタとニッコリ笑って頭を撫でてやる。
これでようやく、温度下降と共にウニョ~っと縮む謎の物体を処理することから解放されると思うと、一日中でもいい子いい子していてやりたいとすら思ったのだった。
2007/08/08