後期高齢者
掲載日:2026/10/03
「お、田中さん。きょうはどうした?」
待合室の奥から、鈴木さんが声をかけた。
「いやあ、こゆびに棘が刺さってな」
田中さんは右手の小指を見せた。
「そんなの、自分で抜けばいいじゃないか」
鈴木さんが笑った。
「いや、それがな。ここに来れば、みんなにも会えるしな」
「ははは。まあ、そうだけど」
田中さんは満足そうに椅子に座った。
「そういえば、吉田さんは?」
「ああ、吉田さんなら、きょうは来てないよ」
「どうしたんだ?」
「なんか具合が悪いらしくて。病院にも来られないって」
「そりゃかわいそうになあ」
鈴木さんが、しみじみと言った。
「せっかく後期高齢者になったのに。みんなにも会えないんじゃ」
そのとき、受付から声がした。
「田中さーん。お会計、280円でーす」
トレーに小銭が3枚並んだ。




