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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

雰囲気ミリタリー小説の制作顛末記

作者: 東 砂騎
掲載日:2026/06/14

(WEB向けの書き方を失念していたため、行空けを加えました。また、軽微な修正・加筆をしました)

■はじめに


本記事は、弊サークルの同人誌『獣たちの星座』、並びにその最新作である『AFTER DUSK』制作に関する制作記録、覚え書きです。

 一度は作家のインタビュー記事をやってみたいと思って、セルフで書きました。書いてみると、少々恥ずかしいです。また、この際なので恥ついでに簡単な経歴なども書いてみました。「ふーん」という感じで読んでいただけたら幸いです。

 

 記事は、作品の結末に関する情報や裏話を含みます。ネタバレ(言うほどない)が気になる方は読了後にお読みください。


*本記事の一部には、精神的に苦痛を及ぼす可能性のある表現・刺激的な表現が含まれます。心身の調子が優れない方はご注意ください。当該箇所はマーキングで区別してあります。*


■本文の内容■


■『獣たちの星座』以前(略歴)

■『AFTER DUSK』シーン構成の変遷

■越智の台詞について――標準語からの『翻訳』

■『弾倉っていくつ持たせたらいいですか?』

■AIによる修正、長所と短所

■プロによるコメント、それから

■《センシティブな要素が含まれます》西條の喪失について

■反省していること

■頒布する当日(文学フリマ東京)について

■これからのこと


■『獣たちの星座』以前(略歴)

 

 私の小説趣味は、かつて2ちゃんねるに存在したbbs pink(成人向カテゴリ)内、『男装少女萌え』スレッド(掲示板)から始まりました。

 萌えと勢いでシチュエーションを書くタイプで、プロットや構成はしたことがありませんでした。

 当初は『雰囲気だけで書いた恋愛系ライトノベルもどき』を書いており、元来、作品設計やロジカルシンキングは苦手です。

 その頃、『七月七日』(古処誠二著)に出会い、強い衝撃を受けました。省略や淡々とした文体が特徴の作家で、私の土台には今もこの作品があります。


 その後、一時期は創作を離れて、航空機写真の撮影に移りました。身辺が変わったことを機に、小説に戻りました。

 その時機の作品が、『獣たちの星座』のプロトタイプ、及び『男装少女萌え』の作品を基にした『鏡像の夜を破れ』(改訂前)です。


 私はここで行き詰まり、構成の理論やプロットの書き方を学ぶ必要べきだと思いました。もっと早くから勉強すればよかったと、今でも感じています。そして、学んだとて使いこなすのは難しいと痛感する毎日です。


 2026年6月時点で最新となる『AFTER DUSK』もまた、例外なく『ロジックどおりに書けない苦しみ』との戦いになりました。


■『AFTER DUSK』シーン構成の変遷、執筆

 

 本作は、前作『前線基地やけどケーキ作るで』の制作期間から構想が始まりました。2024年秋ごろから制作開始したことになります。


 当初から決まっていたのは、特殊作戦を舞台にすること、そしてシリーズの主要人物であるPMC『冬見』を主軸にすることでした。もうひとりの主人公である海兵隊員『越智』も動かさなければならず、後から展開を修正するのも大変なため、最初にざっくりと案を出しました。

 表紙に使うイラストの発注もあるため、結末を早めに定めなければなりません。当初の結末については下の2案でした。

 

 案1:冬見と越智は作戦に従事し、作戦を成功させる。土壇場で越智を救ったことにより、冬見は抱えていた過去を清算し、次の配置(中央アジア)に旅立つ。

 案2:冬見と越智は作戦に従事し、冬見は土壇場で過去と決別して、激戦の中で殉職する。

 

 越智に関しては、どちらの結末でも、『技術士官として軍の身分のまま大学に行くというキャリアと、冬見のことを考えて海兵隊を辞めるという二者択一になり、苦悩する』――という葛藤を持たせるつもりでした。

 この時期は、プロットを立てようにも空白が多かったため、思いついたシーンを万年筆で書き散らしていました。このメモの8割は没になったのですが、残っているシーンも稀にあります。

 そうして案を検討するうちに、冬見と越智を向き合わせることに決めました。ただ当初は、それほど深刻な局面を挟まない予定でした。


 また、本作では海兵特殊作戦チームに重要なキャラクターがいるのですが、この段階ではネームドのサブキャラ程度の予定でした。(ちなみに、夏藤准尉よりも浪の原型が先に出てきています)

 

 おおまかにプロットをまとめたところで、コミッションで一旦講師に評価をしてもらいました。その評価が悪かったため、粗プロットを一旦全て白紙にもどすことになりました。酷評された箇所の詳しい内容については後述します。

 

 講評を受け、追加・強化する要素と、削除する要素を決めました。


 ひとつめは、『主人公が困難に立ち向かう場面がない』という指摘への対応です。

 追加・強化されたのは、主人公のカルテルとの対決ということで、冬見と、薬物中毒のアクティブ・シューター(銃撃犯)が戦うシーンです。

 また、単に作戦準備だけでは『困難の克服』にあたらないということで、冬見が海兵特殊作戦チームの隊員から射撃訓練を受けるシーンを追加しました。ここで『ベテランの海兵隊員』として出てきたのが、夏藤准尉になります。冬見からすると時に不可解、かつ緊張感のある相手になります。


 特殊部隊の隊員はまず思考回路が違い、書き手である自分にはない要素ばかりのため、キャラクターメイキングに苦労しました。夏藤を形にできたのは、ひとえに下読みいただいた方のご助力によるものです。


 反対に、削除したのは越智の側の葛藤です。除隊し、奨学金で大学に行くつもりだった越智が、海兵隊員のまま大学へと進学し、卒業後は技術開発系の進路へと誘われる。ただしPMCを続ける冬見とは離ればなれにならなければならない――という葛藤があったのですが、話の本筋を優先させるため削除しました。


 プロットと比べて、海兵特殊作戦チームの隊員(夏藤と浪)が話の中心に食い込むようになり、かなり話に動きが出ました。特に夏藤は離婚歴のあるベテランであり、越智・浪・深浦という26歳シリーズとはライフステージ・役職・役割が異なるため、よく冬見を振り回してくれたと思います。


 また、プロットを直していく過程で、シーン数を削り、キャラクターの行動・心境の変化と連動させるようにしました。訓練を研修するシーンなどは、他のシーンと統合されています。越智と冬見が本当の意味で向き合うシーンも、いくつかの場面を統合し、現行の形になりました。


 現行ではラストシーンが神戸になっているのですが、元々の構想では、越智のその後(海兵隊除隊後)を描写する予定でした。これについては間延びして雑味が出るため没に。そのうち何かの形で描くことができればと思います。


 さて、ここでようやく粗プロットになるわけですが、今回は本執筆までにもうひとつ工程を挟みました。粗プロットをもとに脚本を作ります。この工程を挟むことで、台詞と芝居の方向性を確認しやすくなる気がします。時間はかかりますが、脳を使う作業を本執筆から分散できるため、結果的には近道になります。

 キャラクターの芝居は、この段階で決めることが多いです。シーン構成の大部分もこの工程で定まります。また、ここで下読みの方に見ていただいたり、方言監修の方にチェックをいただきます。


 細かい芝居や表情づけについては、機動戦士ガンダムシリーズのアニメーション作品、『閃光のハサウェイ』(2021年)を参考にしました。嘘をつく・取り繕う芝居や些細な表情の変化など、非常に優れた教科書になったと感じます。


■越智の台詞について――標準語からの『翻訳』

 

 『獣たちの星座』とそのプロトタイプでは、越智の設定が異なります。短編としての『獣たちの星座』を執筆するにあたり、越智に関西(奈良)出身という設定が加わりました。当初の越智の設定は、『関西出身で奨学金目当てに海兵隊に志願した、のんびりとした青年』というもので、台詞については標準語で書いたものをそのまま関西弁に翻訳してもらう予定でした。


 方言監修の方と話をして、初めて意識したのが、東日本と西日本ではコミュニケーションの手順に違いがあるということです。私は人生の大半を東北と関東で過ごしていたため、関西弁には創作物でしか触れたことがありませんでした。関西弁を台詞として運用するにあたり、言葉のバックグラウンドを意識することになったのです。


 特に強く感じたのは、関西弁は距離感の調整に特化した言語だということです。他者との関わりのなかで、必要なことを伝えつつも不要な軋轢を避ける仕組み、あるいは社交儀礼が、冗談や軽口といったツールに内包されているように感じます。英語にはアメリカ、あるいはイギリスの文化・生活が背景にあるように、関西弁もまたその土地の文化・生活を反映しています。


 この辺りの感覚は、シリーズ2作目の『前線基地やけどケーキ作るで』でようやく少し理解できるようになりました。


 関西的な、関係性を反映した繊細な距離感は、本作『AFTER DUSK』で最も発揮されたように思います。また、台詞と芝居の対応については方言監修の方を始め、下読みの方、関西の友人からも助言を受けて決めました。

 

 なお、越智は『奈良で育っているが、父親は大阪のサラリーマンであるため、大阪の影響を受けている』という想定で台詞を書いています。伝統的な方言(大和弁)も奈良には存在しているのですが、作中での表現が非常に難しいこともあり、最終的には大阪のベッドタウンで話される言葉になったと思います。


■『弾倉っていくつ持たせたらいいですか?』

 

 前述の通り、自覚できるレベルで『ノリと勢いと雰囲気』型なので、組織だった戦闘のシーンを設計するのに大変苦労します。


 私の頭の中には、残念ながら総合火力演習のYouTube動画を見たレベルの知識しかありません。最初の段階にあるのは、「こういうシチュで、ああいう雰囲気のシーンを書きたいな」程度です。想像だけで書くと大変なことになります。ミリタリーSF小説を名乗っていますが、作者はミリタリーに詳しくないため、とても罪悪感があります。


 詳しくなろうにも、現実の作戦関係書類や記録は専門家レベルでないと読み解けない上に、作戦立案となるとさらに高度なスキルです。最終的には映像化されたものを参考にしつつ、虚構のロジックを組み立てていくことになります。


 このとき、大体は勧められた映画か、既に見たことのある映画を参考にします。また、書いている自作とテンション・演出のトーンが近いものを参考にします。

 演出の度合い・フィクション性が高いとケレン味は出ますがリアルさは下がり、フィクション性を低くリアル寄りにすると考証の作業が莫大になります。


 戦闘のリアル・リアリティを計る概ねの指標として、稀なほど極めてリアルなのが『ウォーフェア』(2026年)、『レバノン』(2009年)、リアリティが高いのが『シカリオ』(邦題『ボーダーライン』、2015年)、演出・ケレン味とリアリティの程度の汽水域が『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(2012年)、『ブラックホーク・ダウン』(2001年)、『ハート・ロッカー』(2008年)……というように、自分の中でスケールを用意し、ひとつの作品でなるべく統一したトーンにするように心がけています。上手くいっているかはさておき。


 本作は設定にフィクション性が強いため、派手なギミックや演出は抑え、『肌触りは現実と地続きっぽい』と感じるように目指しました。


 また、ある程度コンセプトが決まった段階で装備品・作戦行動の設計をせざるを得ないのですが、基本的には分野に明るい人に考証を依頼するか、資料を紹介していただいています。軍事組織は、運用設計と装備、部隊の役割、任務と目的が概ね連動するため、手に余るからです。


 本作で修正した具体的な例だと、室内に突入する際、先頭の隊員が行う索敵・射撃行動の『カッティング・パイ』が、時間がかかり危険、かつ作戦・状況にそぐわないため、閃光手榴弾の投擲に置き換えられました。

 また、本作では本邦に軍が存在するため、韓国軍をうっすらとした参考にし、その上で装備品などを決めていきました。


 ほか、軍事監修の方には、『強襲作戦で隊員ひとりに携行させる弾倉はいくつが妥当ですか』という質問から、『暗視/赤外線眼鏡はレンズがふたつのものと4つのものがありますがどちらが妥当ですか』という疑問まで、丁寧に解説していただきました。ありがとうございます。(ちなみに作中では短時間の強襲ということで8弾倉に設定されています)


■AIによる修正、長所と短所

 

 本作は本文の修正・検討・誤字脱字の直しにAIを使用しています。GeminiとClaudeを使用しましたが、両方とも誤字脱字の修正はすんなりと出力できるようです。反対に、話の筋立ての検討や、文章の直しについては疑問点も残る部分が多くありました。


 また、登場人物を取り違えて理解する、因果関係の抜けを指摘できない、いつの間にか違うシーンが合成されている等の現象もよくあるため、あくまで補助的、かつ5割程度の打率だと思われます。

 ただ、他の人に何度もチェックの依頼をしたり、誤字脱字のチェックを外注するのに比べれば、手軽かつ心理的負担も小さいことがメリットです。


 また、AIが誤読する箇所はしばしば文章が難読か、または人称が混在しています。誤読の分布にムラがある場合は当該の段落を印刷し直します。


 現状では、物語の根幹にかかる判断には使いません。


■プロによるコメント、それから

 

 X上でも喚いていたとおり、プロットの講評を受け、欠陥について指摘を受けました。そのため、物語を再設計しました。


 大きな指摘は、『主人公の不在について』と、次の項目で述べる『西條の喪失について』です。


 小説(物語)には理論や法則があります。その中で、主人公については『自らの欲望・願望で行動し、物事を変え、あるいは失敗する』人物と定義づけられているそうです。


 指摘された時点での『AFTER DUSK』の欠陥は、主人公が受動的であり、軍の命令を受けて動いているだけである、それがメインの出来事(カルテルとの対決)に連動していない、ということでした。


 既に世に出ているシナリオ論などで言えば、この指摘は圧倒的に正しいと思われます。

 ただ、講師の方からのコメントは『軍の命令ではなく自発的な行動をさせるべき』というもので、冬見と越智――PMCの技士と操縦士に、命令に背くような衝動・能動性を付与すれば、リアリティに大きな影響が出ます。これを、納得できる形に落とし込むことに大変なエネルギーを使いました。


 最終的に、自らの意志を持ちながらも作戦から離脱しない形にしたのは、まず軍事上の合理性からです。カルテルに対して、操縦士である越智、局地で無人機を扱う冬見が最大限に能力を発揮する状況は、組織として動き、本来の仕事をしているときです。

 逆に言えば、スタンドアロンでは通常の軽歩兵程度の動きになり、ほとんど無意味になります。正規の訓練を受けた士官である越智、そしてベテランである冬見が、そのことを理解していないはずがありません。ここで、私はプロフェッショナリズムのリアリティを優先しました。

 

 ふたつめの理由は、自身の経験によるものです。

(※ここから東日本大震災に対する言及が入ります。ご注意ください)

 

 東日本大震災当時、私は既に成人しており、流通関係の片隅で働いていました。それ以前に働いていた営業所は沿岸部であり、津波で甚大な被害を受けました。


 私自身は被害を受けず、窓が全て割れた事務所で勤務し、イレギュラー業務を捌く程度の大変さでしかなかったと思います。ストレスはあるものの、何もかもが残ったままの沿岸部で働く人たちや、家や家族を失った人たちには比べるべくもありません。


 私は、無事であること、普段とそう変わらない業務であることに対して、なんとなく(やま)しさを感じていました。ただ、今の仕事を放り出して、『大変な仕事』という看板、『個人の欲求』に飛びつくべきではないことも理解していました。

 その頃を振り返って、「大したことは何も出来なかった」と総括しますが、「『課せられたこと』『つまらないこと』を放り出さなかったのは、放り出すよりもマシな選択だった」とも思います。


 越智たちの行動に関して、軍事作戦からの離脱をさせなかったのは、このような背景もあります。


 話を戻しますと、本作は直接的に震災の経験を投影したようなものではありません。ただ、作中の状況――クライマックスの鉄火場において、『組織よりも、自己の意志を貫く主人公であること』が、説得力を欠くことを否定できないのです。


 結果的に、『主人公の能動性』は違う形で表現することになりました。これが正解かは分かりませんが、本作を『獣たちの星座』たらしめる決定だったとは思います。


 繰り返しますが、おそらく講師の方の指摘は普遍的かつ正しいと思います。特に、コンテストや商業を目指す人にとっては圧倒的に正しい。

 ただし、示された例が物語の文脈からみると適当ではなかったかな、と感じています。


 私が、現状『能動性が著しく低い人物しか書けない』ことは事実です。ですので、今後は『主人公を能動的に動かす』スキルを習得した上で、『あえて選択的に受動的である』状態まで書けるようになりたいと思います。


 目下認識している『同じような展開しか書けない』問題も、おそらく『能動的な主人公が書けない』問題に関連していると思われます。



※※※《この項目は全てセンシティブな要素を含みます。心身の調子が優れない方はこの項目を回避してください》※※※

 

■西條の喪失について

 

 ここが今作で最大の懸案事項となりました。


 冬見が空軍を辞めた理由、そして越智に対して注意を向ける理由は、同期であった西條の自殺に端を発しています。当初、指導を受けるべく提出したプロットは、『冬見は作戦とその準備に参加し、その経過で越智と親密になる。ギリギリで任務を達成した冬見は、そのことで西條を手放す』というものでした。


 まず講師の方からは『影響を鑑みると、自殺という出来事は創作者が扱い切れるものではない』『必ず注意書きをつけるべき』『ストーリー構成上、冬見は"半端な優しさ"で西條を助けられなかった責任を負うべきであり、同じことを繰り返さないように変化する必要がある』という指摘が入りました。


 これに関しては、受け入れた箇所とそうでない箇所があります。


 注意書きについては、足したところで本編に干渉しないため、付加しました。(現状、売れているヤングアダルトノベルや、一般向けに公開されている映画にも直接的なシーンがある一方で、注意書きはピッコマでしか見たことがないのですが、さておき)


 問題は本編の描写やストーリーに関係するところで、冬見のバックグラウンドは一作目から描かれています。また、今作では西條の喪失がストーリーを支えているため、他の要素に代替することは不可能でした。


 このことについては半年ほど悩み、最終的には信頼する書き手さんに相談した上で、現行の形――冬見が喪失のことを整理し、西條の幻影と決別する形にしました。

 

 理由についてはいくつかあります。


 ひとつ、無人機部隊に限った話ではなく、米空軍及び米陸軍は戦時下での肉体・環境的ストレスによる他害・自殺を問題視し、対策しているということ。作品の性質上、こういった要素は、創作上の理由より上に置くべきと判断したためです。


 ふたつ、実際のところ、人の内面(この場合では西條が決断に至った理由)を、他人が確かめることが不可能であるため。


 みっつ、他者の行為に対し、本人以外が後から意味を付け足し、責任を感じ、解釈を加えることが、当事者の『救済』にはならないため。


 最後に、現実的な状況として、こうした喪失は職場内で起こりうることであり、『どうしようもできないと理解はしているが、もしあのとき違うことをできていれば……』というケースが往々にして存在し、それを『ないもの』として扱うほうが残酷だと判断したため。

 

 とはいえ、今でもこれが最良の判断だったかは分かりません。読み手の方が目にするのは、ただ作品としての文章のみです。こういった制作過程の話を外に出すのも読み手にとっては余計と思うのですが、備忘録として残します。

 

 作業中、この工程では悩み悩んで、「趣味としてですら小説執筆に向いていないし、この作品を書き終わったらもう二度と書かない」と思っていました。そのときに、客観的な色々な分析、そして助言、応援を頂いた方々には、ずっと頭が上がりません。


  

■頒布する当日(文学フリマ東京)について

 

 ここからは事務・実務中心の話です。

 ほか、売り方の話もあります。

 

 設営はドタバタでした。毎度ですが、何やかんやで時間が食われてしまう。開場30分前から準備開始だと、ギリギリです。


 イベントにおいて、新刊がある回は鬼門です。弊サークルは新刊が年一度あればよい方なのですが、その都度あたふたします。理由の一つが、OPパック(透明の個包装)の梱包でしょうか。新刊の場合は、だいたい印刷所から会場へと直送になるため、事前にこれを行うことができません。卓上には既刊があるため、必然的にワークスペースは僅少になります。


 また今回の場合、『獣たちの星座』から『AFTER DUSK』までのシリーズセット、そこにつけるおまけ小冊子、しおり、あとがきペーパーなど細かい紙ものが付随したため、より煩雑になりました。


 掌編の冊子、それからペーパーを本体に含めなかったのは、独立した内容であるということと、雑味を出したくないという理由からです。次回以降は、梱包済のものを発送します。


 また、今回は既刊が4種類目となり、卓上も手狭になってきました。こうなると、徐々に『一般参加者から、どれがどのような内容か分かりにくい』状態になってきます。


 次回は、今回は時間が無くて用意できなかった段ボール棚、そして無料配布の作品紹介カードを用意しようと思います。


 また、相変わらずテンパってお釣りの計算を間違えるなど、恥ずかしい状態でした。小銭のなるべく発生しない価格にすることも、頒布には必要だと思われます。


 頒布の段階になると忘れがちですが、毎回ジャンル選びで悩みます。『獣たちの星座』のためにSFスペースに居座っているのですが、ちゃんとしたSFではないので、申し訳ない気持ちがあります。どちらかというと『ミリタリー文芸』と表現するのが近いのかもしれません。


 とはいえ無いジャンルには行けないので、『その他』か『SF』の間をウロウロすることになると思います。『その他』は難しい場所で、自由で居心地の良い反面、PRをしっかり行わないと人が来ないという欠点があります。


 今回から、Xでの告知と当日に使うお品書きをプロにお願いしたのですが、とても好評でした。文学フリマ東京は会場が広く来場者も多いため、事前告知がなければなかなか見つけてもらえない状況ですので、こういった部分は手間を掛ける価値がありました。

 

■反省していること

 

 当然ながらいくつかあります。

 最も大きい点は、既に同人誌で頒布されている中編作品『鏡像の夜を破れ』と物語の構造が重複してしまったことです。

 人物を構成する要素や戦闘シーンの内容・配置に似た内容が多くなってしまいました。完成させることを優先した結果、自分が書き慣れた要素を多く使ってしまったこと、新しいパターンを導入できなかったことが理由です。


 同じ要素を『味変』しつづけるのも良いのですが、必然的にネタが枯渇していくため、今後はひとつかふたつずつ手数を増やしていければと思います。


 具体的には、まずシナリオの構造分析に慣れ、次に自作とかけ離れた作品の構造を真似てみる、などの練習をしたいと思います。


 その次の反省点は、スケジュール管理が破綻してしまったことです。当初は2025年の秋に発行できればと思っていたのですが、結局は2026年の5月に発行と相成りました。


 いっときモチベーションが壊滅してしまったこと、そして作品そのものが苦痛とセットになってしまったことが大きな原因になりました。この件に関しては一旦印刷所もキャンセルするなど迷惑をおかけしました。


 次があれば、内容が概成してから印刷所の予約をかけるなど、自分の特性を踏まえたやり方にしようと思います。作業のやり方も、ワークロードの軽い作業を何度も行う形にするなど、変えていきたいと思っています。


 今回は、本当に締め切り日の当日朝まで作業をしていました。当然リカバリーできなかったミスもありますので、反省しきりです。細かいところでは複合暗視眼鏡の色指定のミスや、ナイフではない戦闘シーンの後にナイフ傷を描写してしまったことなどです。


 Xでは、コミケの締め切りで窮地に立つネタが一般的ではあるのですが、中年かつ中編の小説が相手となると、身体を壊した上に出来もひどくなるので、ラストスパートは早めにかけておくに限ります。毎回言っているのですが……


 反省する点は他にも色々あるのですが、残りをひとつだけ挙げると、『書き手自身の、人間の解像度が低すぎる上に受け身である』になります。


 書き手の思考が枠となって作品が拘束されてしまったこと、読み手に対して納得感を与えるように万全の努力ができなかったことは、今後克服すべきだと感じます。


 キャラクター描写で言えば、特に浪や晴田は、少ない出番の中でもう少し個性を出せたのではないでしょうか。私がいわゆる陰キャであるため、外から観察した陽キャしか描けませんでした。


 加えて、今回の執筆では自身の思考の偏り、判断基準のズレなども感じることが多くありました。今更ながら、「それじゃあ制作物に変なところがあるのも当然か」と感じています。これは意識して直していきたいと感じるところです。


 また、感情の階調がグレースケールで曖昧な濃淡になりがちなため、もう少しメリハリのある表現を武器にできればな、と感じました。


■これからのこと

 

 「手に取ってくれてありがとう! 感想ありがとう! 次にまた何か書きたい」の気持ちと、「小説はつらいからもういいや」という気持ちが同時に存在しています。心がふたつある。


 未だ『AFTER DUSK』に対する評価をしきれていないのが正直なところです。とはいえ、次をやりたい気持ちはあるので、企画を温めています。本当に書けるかはまだ分かりません。


 同人作家であり、商業とは完全に無縁なため、無理なクオリティアップをする必要もなければ、売れ筋を追うこともしなくていいのですが、それでも次は今回より面白く、そして最大限読みやすくしたいという気持ちはあります。そしてできれば、「こういう意図があるからこのシーンはこうした」とちゃんと説明できるくらいにはなりたい。


 思うことはいろいろありますが、何より、趣味として健全に続けていけるようにしていきたいです。特に、今後とも仕事に支障が出ないように、メンタルと腰と財布への負担を最小限にしたいなと思います。でも表紙の箔押しはまたやりたい。

 

 得るものもあまりない記事だったと思いますが、読んでいただいて本当にありがとうございました。今後も同人小説やウェブ小説が自由に出せる世であることを祈って、この記事を終わりたいと思います。


 もう二度と小説なんて書かねえ!…………多分。じゃあな!


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