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第9話:美術館長、可愛い森ガールから雇ってくれと頼まれる

 宮廷魔導師で三大公爵家の人であるすごいジャクリーヌさんが訪れてから、二日ほどが過ぎた。

 あれからジャクリーヌさんは来ていない。

 宮廷魔導師ということだからお忙しいのだろう。

 彼女の痩せた身体を思い出すと、私みたく過労死しないか心配だ……とお節介にも感じてしまう。

 心が50歳の成熟したお姉さんだから?

 今度来たとき、(少しでも太ってくれ)と高カロリーのお菓子をプレゼントした方がいいのかな。

 チョコのかかったポテトチップスみたいなヤツとか。

 最近の若者は痩せすぎだ、というのが50歳のお姉さんが持つ印象だった。


 一方、相変わらず森ガールちゃんは毎日来て、楽しそうに館内を巡る。

 最近は二階にある無料の図書室も利用しているようだ。

 心ゆくまでこの美術館を堪能してもらいたい。


 そして、肝心の来館者数はというと……かなり増えていた!

 今日は森ガールちゃんの他、30人も来てくれた。

 昨日は22人で、着実に増えてきた。

 閉館時間が刻々と迫る中、半券を数えては笑みが止まらない。


「なんとも感慨深いねぇ……。来館者が増えることがこれほど嬉しいとは」

『この調子でどんどん増えていってほしいコンね~』

「口コミを広げてくれて本当にありがたいわ」


 なんと、森ガールちゃんとジャクリーヌさんの口コミのおかげで、来館者が増えていたのだ。


「うちの店で食事しているとき、この美術館の話を聞きましてね。すごく楽しそうに話すもんだから、気になって来ました。結果どうですか。あまりにも素晴らしい展示品と入場料の安さに、俺はもう頭が吹っ飛びそうですわ」


 とは、森ガールちゃん経由の口コミ。

 家族で泊っている宿や、出入りするレストランやお店でこの美術館の話をしてくれているようだ。


「イケメン女子な宮廷魔導師の方が、よくうちのクレープを買ってくださいまして。部下の方々にもっと芸術に興味を持てと助言していたんですが、そのときこの美術館は素晴らしいという話を聞いたんです。いやぁ、うちの街の近くにこんな素敵な美術館があったとは思いませんでした。本当に来てよかったですわね」


 とは、ジャクリーヌさん経由の口コミ。

 ついでに、甘い物が好きということもわかってしまった。

 二人に接点はないらしいけど、それぞれ街の別の場所で口コミを広げてくれているらしい。

 とてもありがたくて頭が下がる。

 今度会ったとき、ちゃんとお礼を言わなければ。

 とはいえ、口コミに頼りっきりでは館長としてよくないし、お客さんの開拓は別方向から進める必要もある。


「中には、そもそも芸術に興味がない人もいるはず。そんな人たちにも直接魅力が伝わるよう、やっぱりチラシは配った方がいいでしょうね」

『ミオの作るチラシはおしゃれだから、人気がありすぎて足りなくなっちゃうかもコンよ』

「ちょっと予備を作っておこうか。今から明後日の休館日が楽しみだわ」


 加護を使ってチラシを追加で生み出す。

 何だかんだ、気がついたら仕事をしてしまっているのだけど、まったく疲れない。

 私が今やっているのは大好きな芸術関連の仕事。

 むしろ、夢が叶った気分なのだ。


 閉館時間が近づく中、来館者たちが少しずつ帰っていく。

 この人の気配が消えていく哀愁漂う感覚が、良い意味で胸を締めた。

 ジャクリーヌさんが来館してから、何かの流れが変わったような気がする。

 彼女は私の【美術館長の加護】みたいに、開運の加護を持っているのかもしれない。

 ……あり得る。

 二日前、ジャクリーヌさんから回収した半券は、縁起物として受付に飾っておこう。


 閉館の15分前を迎えたところで、私はフォキシ-と一緒に展示室を見て回る。

 館内を巡回して誰も残っていないことをチェックするのだ。

 順序は最上階の三階から。

 トイレなども忘れず中を確認し(男子トイレはフォキシ-が見てくれる)、展示室と同じように入り口にバリアを張って入れないようにする。

 このときついでに加護の力で掃除も済ませてしまう。


 一階に戻ってきて《ディルーカ》の彫刻を飾ってある展示室Bに入ったら、森ガールちゃんがいた。

 真剣に絵を見ているところ申し訳ないけど、アナウンスが必要だ。


「そろそろ閉館しますので、お帰りの準備をお願いします」

「は、はい、わかりました。ありがとうございます」

 

 森ガールちゃんは普段より緊張した様子でお礼を言い、展示室から出て行ってくれた。

 ありがとね。

 一階の全ての設備を確認し受付に行くと……当の森ガールちゃんが立っていた。


「あら、どうされましたか?」

「あ、あの……」


 森ガールちゃんはもじもじと話す。

 何か言いにくいことがあるようだ。


「忘れ物ですかね? でしたら、またバリアを解除するので大丈夫ですよ」

『遠慮なく言ってほしいコン』

「い、いえ、忘れ物ではなくて……」


 どうやら違うらしい。

 おっとりしながらも普段はもっとはっきりした感じで話す人なので、なんだかいつもと異なる態度だとわかる。

 フォキシーと顔を見合わせていると、森ガールちゃんは意を決した様子で叫んだ。


「私を……ここで働かせてもらえませんか!?」

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