第30話:美術館長、作戦を話し仲間の信頼を改めて感じる
盗賊団を誘き寄せて、逆に壊滅させる。
それが私の作戦だ。
真剣な表情で聞くみんなに、私は続けて話す。
「国内各地の美術品の安全を考えると、消息不明にさせるよりここで一網打尽にした方がいいと思います。幸いなことに、この美術館は『悪魔の黙示録』に似たテイストを持つ作品が何点もあります。"いわくつきの美術品展"、という名目ならうまくカムフラージュできそうです」
前世での経験として、"毒を持つ生き物展"や"見てはいけない絵画展"などといった、一見すると恐ろしいテーマの展覧会の集客性が結構高いことを思い出したのだ。
たしかに『悪魔の黙示録』はとても怖い絵なのだけど、逆に怖い物見たさで見たい人がいるかも……。
ジャクリーヌさんは腕を組んだまま、納得した表情を浮かべる。
「ふむ、木を隠すなら森の中、といったところか」
「ええ、その通りです。特別展なら宣伝してもおかしくないですし、うまく"吟遊回廊"にも情報が伝えられると思います。襲撃の時間帯などに共通点はあるんでしょうか?」
「ヤツらは警備の少ない夜に襲撃するのが常套手段だ。昼間に来ないとは確定できないが、夜に来ると思っていた方がいい」
「なるほど……。それに、宣伝したら彼らがいつ来るかはわかりませんよね」
武装した人たちは危険だ。
みんなの安全を守るため、フォキシーたちには避難してもらった方がいいかもしれない……。
そう思った私はみんなに呼びかける。
「特別展を開いている間の夜、みんなには避難をお願いするわ。美術館は私一人で守る。みんなに何かあったら大変だから。……そして、ソフィちゃん、悪いのだけど警備用ゴーレムを追加で作ってもらえないかしら?」
ソフィちゃんにお願いしたら、ぷいっと顔を背けられてしまった。
「嫌じゃ」
「えっ! そ、そんな……」
「ワシも一緒に戦う」
『タタカウ』
ソフィちゃんはアストラと一緒に、真剣な瞳で私を見る。
二人の言葉を聞き、フォキシーやノーラ、セシルちゃんも次々に声を上げた。
『その通りコンよ。ミオが一人で戦う必要なんてないコン』
「私たちを気遣ってくれるのは嬉しいけど水くさいと思うな。どんどん頼ってよ」
「私も……戦います……。大事な居場所を……守りたいんです……」
"美術館イチノセ"の仲間は全員で私の手を握る。
みんな……。
温かい気持ちになったところで、パトリックさんが真面目な表情で立ち上がった。
「話がまとまったのに申し訳ありません。疑うわけではないのですが、この美術館自体のセキュリティはどれほどのレベルなんでしょう。"吟遊回廊"が襲った美術館や貴族の倉庫はどこも厳重に警備されていました。つまり、彼らは武力にも優れるということです。もちろん私たちが守りますが、不測の事態にも備えておかないと……。特に、絵画などは火に弱い。ゴーレムが多数いても対策が必要です」
「ご説明が遅れてすみません。この美術館と所蔵品には特別な防御魔法がかけられていて、傷一つつけることはできないんです」
「防御魔法? お待ちください、それだけでは不十分です。"吟遊回廊"の戦闘力もまた、かなりのものです」
説明しても納得できないようだ。
たしかに、言うだけでは誰でもできる。
実際に見せた方がいいだろうと考え、私はジャクリーヌさんにお願いする。
「ジャクリーヌさん、この美術館に向かって何か強い魔法を……できれば、最強の魔法を使ってもらえませんか? 必ず防いでみせますので。手加減は要りません」
「しかしだな……自分で言うのもなんだが、私の戦闘用魔法はかなりの威力を誇るぞ」
「大丈夫です、お願いします。ジャクリーヌさんの全力を出していただいた方が、パトリックさんたちも安心してくれると思いますので」
「うむ……そう言われればそうか……。わかった、やろう」
頼んだところ、しばしジャクリーヌさんは悩んでいたけど了承してくれた。
「《隕石招来》」
彼女の杖が光ると、すぐ窓の外に異変が生じた。
窓ガラスから見える夜空に赤っぽい点が浮かぶ。
点は徐々に大きくなり、それの正体は巨大な隕石だとわかった。
夜の薄雲を払い、猛スピードで美術館に迫る。
たちまち、パトリックさんは部下と抱き合い悲鳴を上げた。
「ななな、なにをされているのですか、ジャクリーヌ様!? あれは我が帝国の最終奥義《隕石招来》……! 隣国の軍事侵攻をたった一撃で追い払った"神の鉄槌"とも称される魔法を発動されるなんて……!」
「大丈夫です、安心してください。この美術館はどんな攻撃でも防げるんです」
「安心できるわけないでしょう、ミオさん! まだ心の準備が……!」
パトリックさんたちに呼びかけたけど、パニックは収まらなかった。
そうこうしている間に、迫り来る巨大な隕石は美術館の屋根に当たった! ……瞬間、粉々に砕けてしまった!
小石となった隕石がパラパラと雨のように落ちるも、中にいる私たちには振動も何もなかった。
エリューシア様の女神バリアはとてもすごいね。
親衛隊のみなさんはあんぐりと口を開け、ウェンディさんは手を叩いて喜ぶ。
ジャクリーヌさんはというと、くすくすと苦笑していた。
「いやはや、わかってはいたが凄まじい防御力だ。もっと精進が必要だと思わされるな」
「すみません」
苦笑する彼女に謝る。
しばし親衛隊と一緒に呆然としていたパトリックさんは、意識を取り戻したように話し出した。
「美術館が頑丈なのはわかりました! で、でも、ミオさんが襲われたり人質にでも取られたら……!」
「それなら大丈夫です。私には【無敵の身体】がありますので。所蔵品や大事な仲間を傷つけようとする人は倒しちゃいます」
「【無敵の身体】……って、無敵の身体ですか?」
あまりにもそのまんまな名前だからか、パトリックさんはぽかんとする。
これもまた直接見せた方がわかりやすいだろうと思い、私はみんなを湖畔に連れて行った。
「ちょっと下がっていてくださいね。……えいっ」
湖の表面を軽く叩いて、モーセの水割りみたいに真っ二つに割った。
衝撃波が周りにいる人の髪型をオールバックにする。
パトリックさんと親衛隊のみなさんは、もはや引き攣った顔だった。
「な、なるほど、こういう意味ですか……。たしかに、ミオさんがいたら安泰だ。というか、僕たちは一から修行し直さないとダメですね、はは……」
「あ、いや……なんかすみません……」
彼らのプライドを傷つけてしまったらしく、居たたまれない気持ちになってしまった。
今後について相談した結果、"吟遊回廊"の件がひと段落するまで、ジャクリーヌさん一行はこの美術館に滞在することになった。
警備を強化するとともに襲撃に備えてのためだ。
宣伝する前に"吟遊回廊"がやってくる可能性が少なからずある。
まぁ、もしそうなったら迎え撃つまでだ。
「よし、今のうちにワシは警備ゴーレムを増やしておこうかの。多勢に無勢じゃ」
「わ、私も……熱湯をかける練習をしておく……」
ソフィちゃんは意気込み、セシルちゃんは意外と怖いことを呟いていた。
ジャクリーヌさんたちの宿泊場所は、美術館の三階に設置する。
【美術館長の加護】で拡張したら、誰よりもウェンディさんが驚いた。
「ミオ君はこんな一瞬の建築までできるのかい? ……すごいじゃないかぁ。当方はミオ君にも興味が惹かれてきたよ。今晩一緒に寝ていいよね」
『だめコン』
「だめです」
フォキシーとノーラに断られ、ウェンディさんは悔しがる。
『悪魔の黙示録』の宣伝は、今回もチラシを使うことにした。
ミルフォードの街は元より、ジャクリーヌさんの手助けを得て帝国全土に宣伝する。
これで確実に"吟遊回廊"にも情報が届くだろう。
《ディルーカ》の特別展が終わり、一週間ほどの準備期間を設けた後。
いよいよ、『悪魔の黙示録』を展示する"いわくつきの芸術品展"が始まった。
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