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第27話:美術館長、銀髪イケメン女魔導師からの手紙を受け取る

「『……いただきま~す(コン)!』」


 お昼休み。

 私とノーラ、フォキシーは館長室でお昼ご飯を食べる。

 今日のメニューはハンバーグプレート。

 異世界ご飯もおいしいけど、やっぱり前世のご飯の方が馴染み深い。


「ソフィ様がゴーレムを作ってくれたおかげで、さらにゆっくり過ごせるようになっちゃったね」

『そうコンね。みんな優しいし強いしでありがたいコン』


 美術館全体に警備ゴーレムが配置されたため、ノーラの言うように一段と余裕が生まれた。

 人手が多いと助かってしまうね。

 今こうしている間も、警備ゴーレムたちがお客さんの対応や展示品の説明をしてくれている。

 ちなみに、ソフィちゃんは様と呼ばれるのが好きらしく、私以外には様付けで呼ばせるのであった。

 食事をするうちに展覧会の話になった。

《ディルーカ》の特別展は会期の終了が近づいており、次なるイベントを考える時期だ。


「そろそろ次のテーマを決めなきゃ。誰がいいかなぁ。ノーラとフォキシーはどんなテーマがいいとかある?」

「そうだねぇ……。今回は人物画が多かったから、次は風景画をメインにしてもいいと思うかな。朝昼夜で分けて、芸術家たちが同じ時間でもどんな視点の違いで描いたか比較する企画なんて素敵かも」

『ボクは食べ物がたくさん描かれた絵がいっぱいあると楽しいと思うコン。絵の食事を再現したメニューを出すとかどうコンか?』

「ふむふむ、なるほど……」


 さすが、芸術好きな二人だ。

 どちらも良いアイデアだね。

 とても貴重な意見をノートにまとめているところで、コンコンと窓ガラスが叩かれる音がした。

 外を見ると、銀色の美しい鳥が部屋を覗いている。


『すごく綺麗な鳥コンね。この辺りじゃあまり見かけない鳥っぽいコン。……あっ、足に小さな筒がくっついてるコンよ』

「もしかしたら、伝書鳩みたいな役割の鳥かも……!」


 私は急いで窓を開け、銀色の美しい鳥――もとい、銀鳥を中に迎え入れた。

 足部分についた筒を外すと、小さな紙が入っている。

 

「なんだろう、これ……うわっ」


 私が手に持った瞬間、突然紙が通常サイズに大きくなった。


「ミオ、大丈夫!? 怪我はない!?」

『ビックリしたコン!』

「ありがとう、二人とも。私は大丈夫だよ。これは手紙だったみたいだね。宛先は……ジャクリーヌさんだ!」

「『ええっ!?』」


 銀髪イケメン女魔導師のジャクリーヌさん。

 まだ一回しか会ったことがないけど、彼女の凜とした印象は鮮明に覚えている。

 もしかして、この手紙は"例の件"についての話かと思い読み始めると、やっぱりそうだと徐々に表情が硬くなった。

 銀鳥は彼女が魔法で生み出したそうだ。

 思った以上に顔が強張っていたのか、フォキシーが心配そうに私の腕を揺する。


『おっかない顔しているコンけど、悪いことが書かれているコンか?』

「……いえ、"吟遊回廊"についての話だったわ。《アドリエーヌ》が描いた『冥府の黙示録』の最後の一枚……それを手に入れるのが彼らの目的だと、ジャクリーヌさんは考えているって」

「ねえ、ミオちゃん。"吟遊回廊"って、なに?」


 ノーラは不思議そうな顔で首を傾げる。

 そういえば、彼女にはまだ話していなかった。


「各地の美術館や有力貴族を襲って、貴重な美術品を盗む悪い組織のことよ。最近国内の各地で……」


 ジャクリーヌさんから教わった知識をそのまま伝える。

 話すにつれ、ノーラの顔はどんどん険しいものに変わった。

 ミルフォードの街は国内でも辺境にあるためか、"吟遊回廊"やそれに類する悪い人たちが襲撃に来たことは幸いになかった。

 話を聞いたノーラは、残念そうな複雑な表情を浮かべる。


「……そんな悪い人たちがいるんだ。綺麗な絵も彫刻もみんなで楽しめばいいのにね……」


 力なく話す彼女からは、芸術を愛する気持ちが痛いほどよくわかった。

 フォキシーが真剣な顔で私の服を引っ張る。


『ミオ、手紙に書いてあった『冥府の黙示録』コンけど……』

「……うん、この美術館にある」 


 "吟遊回廊"が探しているという絵は、地下倉庫の奥にあったはずだ。

 私たち三人は地下倉庫に向かう――


 □□□


 目的の絵はすぐに見つかった。


「じゃあ、絵を確認しようか。ノーラとフォキシーはそっち側を持ってくれる?」

「わ、わかった」

『緊張するコン』


 三人で保護布を取ったら、ほとんどが黒で構成された絵画が現れた。

 黒い画面の中にうっすらと悪魔の姿が浮かび上がる。

 左上に浮かぶ赤い月が異質な雰囲気を醸し出していた。

 この絵を初めて見たのは、転生してから一番最初に美術館の施設をや所蔵品を確認したときだ。

 加護の力で絵が描かれた時のタイムラプス動画を再生したところ、《アドリエーヌ》は絵画上で色を混ぜることでこの黒を描いたらしいとわかった。

 相変わらず異質な空気を感じる中、ノーラの顔が少しずつ青ざめ、彼女はカタカタと細かく震え出した。


「……なんだか、寒気がする……身体が寒いよ……」

「ノーラ、大丈夫!?」

『急いで隠すコン!』

 

 すぐにフォキシーと『冥府の黙示録』に布を被せる。

 絵が見えなくなったらノーラの震えは止まり、顔にも赤みが戻ってきた。


「心配かけてごめん、二人とも。もう大丈夫」

「いや、この絵にはきっと他にはない何か特別な力が宿っているんだよ。三枚集めたら悪魔の力が手に入るという伝説は……あながち嘘じゃなさそうね。今後の計画が決まるまで、厳重にここに保管しておこう」

『それがいいコン』


 布を何枚もかけて何の絵かわからないようにして、私たちは館長室に戻る。 


 館長室に戻った私は、さっそくジャクリーヌさんに返事を書いた。

 件の絵を所持していますと。

 銀鳥は静かにジッと待っており、手紙に封をしたら私の近くに来た。


「君に渡せばいいのかな?」


 銀鳥に手紙を差し出すと、嘴を器用に使って足の筒に仕舞う。

 大きかった手紙は筒に触れると吸い込まれるように収納された。

 窓から飛び去った銀鳥を見送った後、フォキシーとノーラが心配そうな表情で呟いた。


『なんだか……これから忙しくなりそうコンね』

「盗賊団の狙う絵がこの美術館にあるなんて……悪い人たちが来なかったらいいけど」


 この世界の生活はのんびりしていて、明るくて楽しい。

 だけど、悪い人たちがいる世界でもあるのだ。

 改めて思った私もまた自然と呟く。


「"吟遊回廊"については、今日の閉館後にでもみんなに知らせよう」


 窓から見える空は爽やかに晴れているのに、どこか心はスッキリしなかった。

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