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第24話:美術館長、伯爵幼女を仲間に迎える

 お屋敷のとても豪華で広い大食堂に通されると、すぐに夕食が始まった。

 ヴェルデさんを筆頭に、たくさんのメイドさんや執事さんがおいしそうなお料理を運んでくる。

 白い湯気が立ち昇る香り高いコーンスープに、輝くばかりの瑞々しいサラダ、たっぷりソースがかかった分厚いステーキなどなど……、食欲をそそるお料理ばかりが並ぶ。


「僕たちは農場や牧場を経営していていね。どれも自慢の食材さ」

「たくさんあるから好きなだけ食べてちょうだい」

「『いただきま~す!』」


 まずはスープからいただく。

 一口飲んだだけで、濃厚な甘みが口いっぱいに広がった。

 ただのとうもろこしではなく、夕方に収穫しないと枯れてしまう貴重な<夕陽コーン>とのことだ。

 この世界の等級では特級のお野菜。

 そんな貴重な物がいただけるなんて恐縮だ。


「サラダはシャキシャキで味わい深い~。散りばめられたフルーツは宝石みたいで綺麗だし、美味美味なの~」


 とは、ノーラの感想。

 彼女が食べているのは<水潤レタス>と<宝石ベリー>のサラダ。

 <水潤レタス>はその名の通り、水分がいっぱいで囓っただけでジュースみたいにじゅわっとあふれる。

 <宝石ベリー>は赤や黄色など多種多様な色があって、彩り豊かで見るだけでも目を楽しませてくれた。


『お肉は噛み応えがあるのに柔らかくてたまらないコンね~。表面はカリカリで中はジューシで素晴らしいコンよ~』


 とは、フォキシーの感想。

 彼が食べているのも、<超越牛>という特級の食材だ。

 霜降りと赤身のバランスが最高で、大変な美味だった。

 日本のご飯もおいしいけど、異世界ご飯も負けていない。

 こんなに美味な食事がいっぱい食べられて私はとても幸せだ。

 ソフィちゃんは特にお肉が好きなようで、ヴェルデさんに切り分けてもらっては何度もお代わりをしていた。

 そんなソフィちゃんは、口の周りにソースがついたままの笑顔を私に向ける。


「ミオ殿、これからもワシの家庭教師をよろしく頼む。新術式の錬金術が成功したのはまだ一回じゃからな。まだまだお主には手伝ってもらいたい。錬成したい物が山ほどあるんじゃ。どの素体も、芸術的な精度が結果に直結するんでの」

「ありがとう、ぜひやらせてもらうわ。こちらこそよろしくね、ソフィちゃん」

「お主がいたら、ワシの研究が捗ってしょうがないわ。この調子でバンバン新しい成果を出すぞよ、わははっ」

「こら、ソフィ。お口のソースを拭きなさい。いくら錬金術がすごくても、そんなんじゃみっともないでしょう」

「……むぐぅ。ワシはまだ話したいのに」


 サリーさんはもごもごと文句を言うソフィちゃんのお口を拭く。

 微笑ましい光景に心が温まる。

 家族との団欒が戻ってきて、ソフィちゃん自身が一番喜んでいるように見えた。

 家庭教師は今後も続けることが決まったところで、話題は"美術館イチノセ"に変わった。

 エドワードさんが優雅にワイングラスを傾けながら所蔵品についての話をする。


「近いうちに、ぜひミオさんの美術館を訪ねたいな。僕はこう見えて芸術に興味が強くてね。どんな所蔵品があるんだい?」

「今、ちょうど《ディルーカ》の特別展を開催しています。もしよかったら、こちらのチラシをどうぞ」

「おお、素敵なチラシだ。これ自体がもはや芸術品じゃないか」

「ありがとうございます。常設展では《ポリーン》の風景画や《ラヴォワーヌ》の肖像画も展示してまして……」


 現在の展示物についてもお話しする。

 エドワード夫妻はとても芸術に造詣が深く、出てきた芸術家や絵画の名前を全て知っていた。

 今後の展望を聞かれたので、兼ねてから考えていた計画を話す。


「そうですね……。実は、ミュージアムショップを開こうかなと思っていたんです。ただ、人手の手配がまだできておらず計画の段階なのですが……」


 ノーラやフォキシーにはすでに話してあったけど、美術館の関係者じゃない人に話すのは初めてだ。

 美術館と言えばミュージアムショップ。

 展覧会に即した様々なグッズはもちろんのこと、受付で販売している図録もきちんと売りたい。

 人手が……という言葉を聞いた瞬間、ソフィ様がお肉の刺さったままのフォークを勢いよく突き上げた。


「じゃったら、ワシのゴーレムを使えばいい! 決めたぞ! ワシもミオ殿の美術館で働く!」

「えっ、ソフィちゃんが美術館に来てくれるの!? それはとても嬉しいわ! でも、ソフィちゃんはまだ五歳だし……」

「何を言っておる! ワシはそんじょそこらの娘とは違う! ヴェルデを連れて行けば構わんよな、パパ、ママ!」


 ソフィちゃんの嬉しそうな声に、エドワード夫妻は揃って頷く。

 ついでに言うとヴェルデさんも。

 新しい仲間ができた喜びが、私の胸にじわじわとあふれる。


「よろしくね、ソフィアちゃん!」


 笑いが絶えない夕食は終わり、やがてお帰りの時間が来た。

 お屋敷の人々は泊まるよう誘ってくれたけど、美術館にセシルちゃんを置いてきたので丁重にお断りした。

 代表して私がモンテスキュー家にお礼を言う。


「みなさん、今日は素敵な夕食をありがとうございました。とてもおいしく、楽しい時間を過ごさせてもらいました」

「いやいや、僕たちも本当に楽しかったよ。ソフィも嬉しかったみたいだしね」


 ソフィちゃんはアストラに抱えられ、うつらうつらと眼が重くなっている。

 いくら天才幼女でも、まだまだ五歳の女の子なのだと可愛く思ってしまった。

 帰りはヴェルデさんが送ってくれるとのことで、私たち"美術館イチノセ"組は豪華に装飾された馬車に乗り込む。

 大きく手を振りながら、私たちはモンテスキュー伯爵家を後にするのだった。



 □□□



 ヴェルデさんの操る馬車に乗った私たちは、"美術館イチノセ"に帰ってきた。

 元々、人がいない湖畔はひっそりと静まり返っていて、文字通り静寂に満ちている。

 水面に反射した月はまん丸で、なんだかとても美しかった。

 馬車から降りた私たちはヴェルデさんにお礼を述べる。


「送っていただいてありがとうございました。おかげさまで、安全に私たちの美術館に戻って来れました」

「ヴェルデさんは器用で羨ましいです。うちの商会が知ったら確実に引き抜きにあいますね」

『快適な手綱捌きで寝ちゃったコン』

 

 ヴェルデさんはしばし嬉しそうにした後、しずしずと私の前に来る。

 そのまま、音もなく丁寧に頭を下げた。


「ミオ様、改めまして本日はありがとうございました。お嬢様のあんなに楽しそうな顔を見たのは本当に久しぶりのことでした。快活に笑うお嬢様を見て……私も幸せでした」


 月明かりに照らされたヴェルデさんの顔には穏やかな微笑みが浮かぶ。

 初対面では感情が感じられないような印象が強く、実際に彼女はずっと無表情だったけど、今となってはソフィちゃんが心配だったから……なのだとわかった。

 主人思いの優しいヴェルデさんは馬車に乗ると、静かに颯爽と帰っていく。

 馬車の姿が暗闇に溶け込むまで見送った後、私はノーラとフォキシ-に呼びかける。


「じゃあ、私たちも美術館に入りましょうか」

「うん、すっかり遅くなっちゃったね」

『セシルはもう寝ているかもコンよ』


 起こしちゃ悪いので、静かに鍵を開けて入る。

 もちろんのこと、美術館の中も物音がまったくしない。

 窓から差し込む月明かりが幻想的で、閑静な雰囲気が素敵だ。


「はぁ、夜の美術館は落ち着くなぁ。この凜とした静けさがエモいよ。そのうち、ナイトツアーとか始めても……ぎゃああああああっ!」

「『ミオ(ちゃん)!?』」


 突然、暗がりから何かが飛びついてきた。

 ななな、なにごとっ!?

 泥棒か!? 盗賊か!?

 こういうときは【無敵の身体】で殴り飛ばせば……と思ったとき、聞き馴染みのある細い声が聞こえた。


「……ミオさん」

「セシルちゃん!?」


 なんと、抱きつきの正体はセシルちゃんだった。

 暗がりから出てきた彼女は、心底申し訳なさそうな顔で謝る。


「驚かしてごめんなさい……。最初は大丈夫だったんですけど……ひとりっきりだと思うと怖くなっちゃって……。ずっと入り口の近くで待ってたんです」

「そうだったのね。いやぁ、セシルちゃんでよかったわ。心臓が飛び出るかと思った……」


 ホッと……いや、どっとひと息吐く。

 ガチのマジで心臓が喉から出てきそうだった。

 

「本当にごめんなさい……ミオさん……」

「いえ、いいのよ。私の方こそ怖い思いをさせちゃってごめんね」

「わたしも残ればよかった。一人にしてごめん、セシルちゃん」

『セシルは何も悪くないコン』


 みんなでセシルちゃんの頭をよしよしと撫でる。

 何はともあれ、大事な仲間たちと過ごすこの美術館が一番心安らぐ場所なのであった。

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