第15話:美術館長、カフェを楽しむ
案内された席は店内の窓際で、私たちの目の前には三者三様のケーキが並ぶ。
どれも宝石のようにキラキラと輝いており、たちまちテンションが上がってしまった。
互いに食器を取り、一緒に食べる。
何だかんだ、この世界に転生して初めての異世界料理だ。
「『いただきま~す!』」
一口食べた瞬間、濃厚で深い甘みが広がった。
大人の味だ。
私が頼んだのはガトーショコラとコーヒーのセット。
チョコレートの黒と粉砂糖の白のコントラストが美しい。
ケーキの生地は密度が高くて、小さいのに食べ応えがある。
食べたぞ! って感じ。
前世でも思っていたけど、
香り高いコーヒーは豊かな苦みがとてもおいしく、なんだかすごく厚みを感じる。
『たまには、かりんとう以外のお菓子もいいコンねぇ。果物がいっぱいで嬉しいコン』
フォキシーが頼んだのはフルーツタルト。
器用にフォークとナイフを使い、どんどん食べている。
彼はかりんとうの他、果物も大好きで、フルーツタルトを見つけたときは瞳が輝いていた。 おいしくてよかったね。
「爽やかな香りとフレッシュな酸味、そしてしっとりとした食感がとても美味~」
ノーラが頼んだのはレモンケーキ。
最近、甘い物を食べ過ぎてしまったらしく、カロリーを調整するため酸っぱいケーキを選んだとのこと。
調整にはなっていないような……。
結局、ケーキはあっという間に食べ終わってしまった。
食後のコーヒーを楽しみながらお喋りしていたら、ポットを持った店員さんが来た。
「あ、あの……コーヒーのおかわりは……いかがでしょうか……」
長い青髪は腰下まであり、下ろした前髪の隙間からは青い瞳が覗く。
今の私と同じ年くらいだろうか。
背は高いのに猫背なためか、身長より小さく見えた。
声の小さい感じやおどおどした表情も相まって、気弱な雰囲気だ。
そんな彼女ネームプレートには、おしゃれな文字で『セシル』と書かれている。
可愛い名前だね。
せっかくなので、私たちはみんなおかわりを貰うことにした。
彼女が淹れてくれた熱々のコーヒーは大変おいしく、私はため息を吐きながらお礼を言った。
「ありがとう、とてもおいしいわ。なんだか、最初に飲んだときより味が深い感じがするわね。あなたが淹れてくれたんですか?」
私が呟くと、フォキシーとノーラも賛同した。
『ミオの言うとおりだコン。味に奥行きがあるし、風味も一段と香ばしいコン』
「さっきのコーヒーもおいしかったけど、おかわりの分は格別~」
私たちの感想を聞いたセシルさんは、テレテレと恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「は、はい……私が淹れさせてもらいました。唯一といっていい特技が……お料理なので……。今日お出ししたケーキも……全て私がほとんど作りました……」
「『すごーい』」
料理が得意なんて羨ましい。
私は今でこそ普通に作れるようになったけど、彼女くらいの年ではずいぶんと失敗したものだ。
「私はガトーショコラを食べたんですが、チョコの甘さは一緒に飲むコーヒーとの相性も考えられている気が……っ」
突然、セシルさんが私の目の前に顔を突き出した。
え……?
疑問に思う私を置いて、彼女は極めて滑らかに話し始めた。
「ガトーショコラは言わずもがな、チョコのおいしさがダイレクトに楽しめるケーキです。シンプルが故、途中で飽きてしまう恐れもあります。最後まで楽しんでいただきたいので、若干冷やしてからお出ししました。冷やすことで濃厚さが増し、生チョコを食べている気分になれるんです。また、徐々に温まることで食感はほろりと崩れるように変わり、香りの風味にも変化が……」
先ほどまでのおどおどした感じが嘘のように、セシルさんはハキハキと料理のこだわりについて説明しまくる。
相手を置き去りにするこの熱量に、私は見覚えがあった。
彼女は……私と同じオタクだ。
さながら、料理オタクとでも言おうか。
啞然とする私の耳元で、フォキシーがそっと呟く。
『ミオが芸術について話しているときもこんな感じコン』
「……気をつけるわ」
なるほど、いきなりこの圧を受けたらびっくりしちゃうね。
これからは自分を見失わないことを改めて決意する。
三人ですごいと褒めていたらセシルさんは気を良くしたのか、それとも女子ばかりで安心したのか(フォキシーは別枠)、ぽつぽつと自分の夢を話してくれた。
「こんな私ですが……将来は自分のお店を開くのが夢なんです……」
「へぇー、いいですね。私もカフェには憧れがありましたよ。店員さんのお店なら、きっと毎日行列が絶えないと思います」
「そ、そんな……行列だなんて……。私は口下手ですし……」
素直な感想を口にしたら、セシルさんはまたテレテレと照れちゃった。
前世の私は芸術関連の他、カフェを巡ることも好きだった。
忙しい仕事の日々でも、ちょっと立ち寄れば元気が出たのだ。
たしかにセシルさんは物静かな人だけど、少し話しただけで彼女のお客さんと料理を大事に思う心が伝わってきた。
あなたなら絶対素敵なお店ができるよ。
みんなで楽しくお喋りしていたときだ。
「なぁ、セシル。いい加減俺と付き合えよ」
私たちの輪に、見知らぬおじさんが割り込んできた。
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