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第11話:美術館長、森ガール少女とその両親と話し合い、森ガール少女は正式に雇われることになる

 翌日、朝10時に開館すると、あっという間に閉館時間になった。

 もうじきノーラの返事が聞けると思ったら、なんだか一日中そわそわしてしまった。


「無事、ご両親の許可が得られるといいな」

『きっとうまくいくコンよ』


 そう願いながら受付に座る私とフォキシーに、他の来館者が帰り際にお礼を言ってくれる。


「ありがとうございましたー。いやはや、今日も素晴らしい展示でしたよ」

「いつ来ても綺麗だし、清々しい気持ちで芸術を楽しめますわ」


 この美術館を訪れた人は、みんな笑顔で帰っていく。

 彼らの嬉しそうな顔を見ると、私まで元気になった。


 来館者たちを見送る中、幼い男児と母親の家族連れが展示室から出てきた。

 新しい常連になりつつある、トッド君とその母親エミリーさんだ。。

 ミルフォードの街にも保育園があり、トッド君はそこに通っているとのこと。

 今日は午後がお休みだったようで、昼過ぎから来館した。

 彼らもまた、いつも退館するときはわざわざ挨拶に来てくれる。

 真っ先にトッド君が受付に走ってきて、カウンターの陰からお礼の声が飛んできた。


「ミオ姉ちゃん、今日も楽しかったよ! ありがと!」

「こちらこそ来てくれてありがとうね。トッド君の笑顔を見ると私も楽しい気持ちになるわ」

「あのね、『湖畔の微笑み』のお姉さんが笑ってくれた! 僕が来て嬉しいのかな?」

「ええ、絶対そうよ。彼女もトッド君が好きなんだわ」


 椅子から立ち上がって答えると、トッド君の屈託のない笑顔が見えた。

 彼は特に絵画が好きなようで、毎回新しい感想を話してくれる。

 トッド君は一枚の紙を私に差し出した。


「これ、ミオ姉ちゃんの絵! 頑張って描いたよ!」

「ええー! ありがとう! すっごく嬉しい!」


 描かれていたのは私の似顔絵だった。

 子どもらしい元気な丸や力強い線で顔が描かれ、周囲にはカラフルな色の星が散らばる。

 ようやく追いついたエミリーさんが丁寧に礼をしてくれる。


「今日もありがとね、ミオちゃん。こんな素晴らしい美術品の数々を子どもにタダで見させてくれるなんて、最高の美術館よ。しかも、目の前で見られるって貴重な場所だわ」

「ありがとうございます。子どもにこそ芸術を楽しんでもらいたいので」

「ミオちゃんは子どもにも優しくて本当に良い館長さんね。こういう場所はうるさい、って犬猿する人もいるでしょう?」

「私は別に気にしませんよ。もちろん、他の方のご迷惑になりそうだったらお声がけしますが」


 上質な美術品こそ子どもに見てほしい。

 好奇心が旺盛だし大人よりテンションが上がりやすいため、展示品の破損にも気をつけないといけないけど、バリアで守られているから大丈夫。

 だから、なるべく近くで見られるように柵などは設置してあった。

 他にも子どもたちは何人か来たけど、静かに見てくれるから助かったのだ。


 笑顔のトッド君親子を見送ると、フォキシーが私のお腹にすりすりと頭を擦り付けた。


『ミオ……抱っこ』

「はい」


 フォキシーを抱え上げて撫でる。

 トッド君みたいな小さい子どもと話した後、フォキシーは決まって抱っこをねだるのだ。

 少しばかり赤ちゃん返りしちゃうのかな?


『ボクを置いてどこかに行かないでコンね……』

「うん、そんなことしないよ。ずっとフォキシーの隣にいるから」


 しばらく撫でてあげると安心したようで、彼は満足気にコンコンと鳴いた。

 嬉しそうに帰るトッド親子の一方、ノーラは美術館の開館中には訪れなかった。

 どことなく物寂しさを感じつつ、元気を取り戻したフォキシーと一緒に閉館作業を進める。


『ノーラは来なかったコンね』

「ご両親と相談しているのかもしれないわ。ここで働く許可がいただけるといいわね」


 館内設備を閉鎖するため展示室を回っていると、また別の中年夫婦の来館者たちが挨拶してくれた。


「おっと、もう閉館時間ですか。所蔵品が素晴らしいと時を忘れてしまいますな」

「展示室に来ると別の世界を探訪した気持ちになります。ああ、もう帰らないといけないなんて、物寂しいですわ」


 訪れる人はみんな、笑顔で楽しかったと話してくれる。

 中には、ノーラやジャクリーヌさんみたいに常連になりつつある人もいた。


「お楽しみいただけてよかったです。またのご来館をお待ちしております」

『バイバイコーン』

「「きゃわいー」」


 フォキシーが手を振ると、中年夫婦は歓声を上げる。

 彼も可愛くて親しみやすい精霊ということで、美術館の人気に一役買ってくれていた。

 展示室を閉め受付に戻ると、閑散とした雰囲気が私とフォキシーを出迎えた。

 賑やかな美術館もいいけど、私は人がいなくなった静かな空間も好きだ。

 ちょっと感傷に浸っていたら、入口のドアがガチャリと開いた。

 現れたのは……。


「ノーラ!」


 なのだが、彼女の後ろには妙齢の男女がいた。

 顔が似ている感じや年の頃を考えると、きっと両親だ。

 男女は私の前に来ると、やや硬い雰囲気で名乗る。


「僕はノーラの父、ジャンだ」

「同じくノーラの母、マリアよ」


 やっぱり、ご両親だったんだ。

 お父さんは真面目な森の番人みたいな顔つきで、お母さんはそれこそ森ガールの雰囲気が漂う。

 二人はノーラから就職の話を聞いて、美術館を訪ねてくれたとのこと。


「美術館イチノセの館長、ミオと申します」

『狐精霊のフォキシーだコン』


 私たちも名乗るけど、ご両親の表情は険しいままだ。

 すっかり癒やしキャラとして定着したフォキシーを見ても、顔つきは緩まなかった。

 仕事終わりで疲れているのかもしれない。

 だったら、すぐにでもおいしいお菓子でおもてなししよう。


「わざわざお越しいただきありがとうございます。さっそく、館長室の方に……」

「あなたがノーラと結婚したいという女性かね? 親に挨拶もなく話を進めてしまうなど、いささか強引だと思うが?」

「この子は大切な娘なのよ。愛してくれるのはとても嬉しいけど、今すぐ結婚したいだなんてさすがに早急すぎだわ」

「……はい?」


 ご両親に厳めしい顔で言われ、思わず素の声が出た。

 結婚とはいかに。

 聞き間違い?

 ……いや、たしかに結婚と言っていたよね。

 冗談を言っているような雰囲気ではない。

 私は気持ちを整え、お父様に話す。


「すみませんが、結婚ってどういうことでしょうか? 私はノーラさんを職員として雇い入れたいというお話でして……」

「だから、それはつまり雇い入れという名の結婚なのだろう」

「表現の言い方を変えても本質は変わりませんわ」


 誤解だと伝えるも、ご両親の表情は硬いままだ。

 むしろ、先ほどより硬さを増してしまった。

 い、いったいどういうことなの……。

 呆然とする私の耳元で、ノーラがそっと呟いた。


「ごめん、ミオちゃん……聞き間違いが重なりに重なって、パパとママはわたしとミオちゃんが結婚するって誤解しているの……。前からちょっと過保護だな、って思ってたんだけど……」

「なんで、そんな聞き間違いがっ」

『聞き間違いにもほどがあるコン』


 どうやら、私とノーラが結婚するという激しい誤解が生じているようだ。

 こそこそと話した光景を見て、ご両親は鋭い視線を私に向ける。


「ずいぶんと仲がよろしいようだ。いやぁ、羨ましい。君さえいれば、ノーラに僕たちは不要とでも言いたいのかね?」

「子が独り立ちするのは寂しいものですわね。もちろん、ノーラにはいつか結婚してほしいけれどまだ早いわ。挨拶もない方が相手じゃ快く送り出せないわよ。……わかってくれるわよね?」


 え、えええ――っ。

 ご両親の当たりがキツい。

 なにがどうなって、こんなことに……。

 いずれにせよ、まずは館長室だ。


「た、立ち話もなんですので、とりあえず館長室に行きましょう」

「……ほんとにごめんね、ミオちゃん。いつものパパとママはこんなんじゃないんだけど」

『先が思いやられるコン』


 謝罪するノーラと呆れるフォキシー、そして表情が厳しいご両親を連れて、私は館長室に向かう。


 □□□


 館長室に案内したら、数日前ノーラをもてなしたようにお菓子とお茶をお出しする。

 今回もポテトチップスとかりんとう、玉露の緑茶だ。

 ひとしきりどんな食べ物か説明したら、ご両親は厳めしい顔つきをしつつも興味を惹かれた様子だった。


「……お菓子で懐柔する気かね? 事前に言っておくが、僕たちはこれでも商売をやっているんだ。ある程度、有名なお菓子やお茶は嗜んできた」

「だから、お菓子に免じて結婚を許してもらおうなんて考えていたら甘いわ。それとこれとは別の話だもの」

「え、ええ、それはもちろんわかっております。……じゃなくて、本当に結婚ではありませんからね。何はともあれ、まずは食べてみてください。とてもおいしいですよ」


 父親のジャンさんはポテトチップスを、母親のマリアさんはかりんとうを揃って、あ~んと食べる。

 サクッ、カリッと食べた瞬間、二人とも目を見開いた。


「このお菓子はなんだ……!? サクサク感と程よい塩味がやみつきになってしまう! 食べる手が止まらないぞ!」

「こっちのお菓子もとんでもなくおいしいわ! ただ甘い」


 かわりばんこに両方のお菓子を摘まんでは食リポを披露し、緑茶は大変に爽やかになると喜んでくれた。

 ちょっと一安心。

 とてもおいしいとわかりニコニコしていたら、ご両親はハッと厳しい顔に戻ってしまった。 

「ん、んんんっ! まぁ、悪くはないお菓子じゃないか。塩味と軽い食感が美味だ。素材はじゃがいもだって? こんなにうまい食材だとは、これを食べて初めて知ったと言えなくもない」

「こ、こほんっ! 及第点、といったところですかね。」


 咳払いしながら、おいしいという感想を遠回しに伝えてくれる。

 ああだこうだ言い回しを変えるご両親を見て、フォキシーとノーラはポツリと呟く。


『おいしいなら素直にそう言えばいいのにコンねぇ』

「こういうとき、パパとママはちょっと難しくなっちゃうの……」


 おもてなしが一段落したところで、いよいよ本題だ。

 私は姿勢を正す。


「改めまして、私は館長のミオです。結論から申し上げますと、ノーラさんと結婚するつもりはありません。彼女がここで職員として働きたいと言ってくれ、私もそれを了承した……という次第です」

「美術館の職員だって?」

「結婚じゃないの?」


 ご両親の表情は緩くなり、ぽかんとした顔になる。

 初対面のときから悪い人たちじゃないことは伝わっていた。

 娘を愛するあまり、誤解が強くなってしまったのだろう。

 きっと、ご両親はノーラが家から出ることが不安なのだ。

 こういう場合こそ、落ち着いた対応が求められる。


「ノーラさんは芸術が好きとお聞きしました。この世界では、芸術を楽しめる人は限られています。彼女は"いろんな人に芸術を楽しんでほしい"という当館の理念に賛同してくれたのです。」


 ノーラが抱く思いを伝えると、ご両親はゆっくりと彼女を見た。


「お前は……そんなことを思っていたのか……?」

「初めて聞いたわ……。芸術が好きなのは知っていたけど、まさか仕事にしたいなんて……」


 まだノーラは自分のやりたいことを伝えられていないらしい。

 そういう話は緊張しちゃうよね。

 私とフォキシーは(頑張れ!)と目で伝える。

 応援の気持ちが伝わったのか、ノーラは小さく頷いてから真剣な表情で話し始めた。


「今まで言わなくてごめん、パパママ。うちの商会は美術品を扱っていないから、話すと否定されちゃうんじゃないかって思っていたの。わたしは……芸術が好き。素敵な絵とか彫刻を見ると、それだけで嬉しい気持ちになる」


 ご両親は何も言わず、ノーラの話を静かに聞く。


「パパとママのおかげで感じることができた、抱くことができた気持ちをわたしは世の中のいろんな人たちにも伝えたい。だから、この美術館で働きたいの。わたしと同じ目標を持っているミオちゃんの思いに共感したから」


 そこで話は終わり、館長室には静寂が横たわる。

 しばしの沈黙が流れた後、ご両親のは目尻には涙が浮かんだ。


「お前は……いつの間にか、こんなに立派になっていたんだな……。僕たちはノーラを、いつまでも子どもだと思ってしまっていたよ……」

「正直な気持ちを伝えてくれてありがとう、ノーラちゃん……。恥ずかしいことに、あなたがそんなことを思っているなんて初めて知ったわ。自分のやりたいことが見つかってよかったわね……」


 ご両親はノーラの希望を否定したり怒ったりすることはなく、むしろ受け入れてくれた。

 私もまた嬉しさで胸がいっぱいになり、館長としての思いを伝える。


「ありがたいことに、この美術館には少しずつ来館者が増えています。いずれは職員の方を雇おうと、私は思っていました。芸術が好きで他の人にもその楽しさを伝えたい……まさしく、ノーラさんのような人と一緒に働きたいです。それに、接客の経験や芸術品に関する知識は、今後ノーラさんがグレイス家の商売に携わったときにもよい経験になるでしょう」


 ご両親は互いに頷いた後、丁寧に頭を下げた。


「「娘をよろしくお願いします」」

「はい、もちろんです。絶対、楽しい毎日になるように頑張ります」

『ボクも頑張るコンよ』


 ノーラや職員が楽しく幸せに働けるように、私は努力するのみだ。

 ……って、やっぱり仕事に邁進してしまうのはなぜ。

 今世ではのんびりスローライフするつもりで……などと思っていたら、不意に、ご両親が身を乗り出して私の手を硬く握った。

 ……ん?

 なんだか、目が血走っているような……。


「僕たちの大事なノーラを……娘をどうか、ずっと愛してくれ……! 僕たちが愛せない分、ミオ君が愛情を注いでやってくれ!」

「私たちの手を離れてもノーラは愛する娘なの……! だから、お願い! この子を幸せにしてあげて!」


 ご両親は熱く語りながら、私に彼女といつまでも仲良くしてくれという旨を話す。

 雨降って地固まるじゃないけど、良い方向にまとまったらしい。

 しかし、これでいい……のか?


『結局、結婚みたいな感じになっちゃったコンね』


 という私の心情を代弁するようなフォキシーの呟きを残し、ノーラを正式に雇うことが決まった。


 □□□


 誤解で始まり親子の絆を感じた面談が終わったら、ご両親は帰宅の時間となった。

 ノーラは美術館に残る。

 なぜなら……。


「それじゃあ、パパ、ママ。今日はここに泊まるね。ミオちゃんからお仕事のことを教えてもらわないといけないから」

「「別に今日くらいはお家に帰っても……」」

「それと、明日にはここに引っ越すわ。美術館で寝泊まりするのが子どものときからの夢だったから」

「「しょんなぁ……」」


 ノーラは今日から美術館にお泊まりすることになったから。

 街とはそれほど離れていないけど、その方が楽だし、何よりノーラは美術館で寝泊まりしたいという思いが強いのだ。

 その気持ちは私もとてもよくわかるよ。

 私だそんなことを思っていると、ノーラが耳元で小さく小悪魔っぽく言った。


「そろそろ家を離れて暮らしてみたかったの。パパとママは過保護だから、ちょっと無理言っちゃった……ふふっ」


 相談を重ね、彼女は明日の休館日に引っ越してくることが決まった。

 チラシを配りに街に行った帰りに荷物を持って美術館に来る。

 今は休暇中で所持品も少ないから、すぐに動けるとのこと。

 グレイス家のある街――アークレイはミルフォードの街から馬車で三日ほどらしく、ご両親は足りない物があれば即座に配達する、と熱量高く話していた。

 ご両親を出口まで案内し、私とフォキシー、そしてノーラの三人で見送る。


「それじゃあ、僕たちは宿に帰るよ。もう夜遅いから戸締まりはしっかりな……うっ、ノーラと離れると思ったら涙が……!」

「あなた、今生の別れじゃないんだからもっと冷静に……うっ、今日からノーラの寝顔が見られないと思ったら涙が……!」


 ご両親は大事な娘と離れるのが辛いようで、うっうっと止めどなく涙を流す。

 ノーラもまた、親元を離れたいと言いつつ、どこか物寂しそうな表情だ。

 ご両親の姿が見えなくなると、さりげなく涙を拭いていた。

 私とフォキシーは気づかないフリをして、敢えて明るく話す。


「じゃあ、ノーラの部屋に案内するわね」

『とってもいい部屋コンよ』


【美術館長の加護】で三階を改築し、館長室の隣に彼女の部屋を作った。

 設備は前世のホテルをイメージした、おしゃれな内装だ。

 中に入ると、ノーラは感嘆の声を上げた。


「なんて良い部屋なの!? うちが運営しているホテルより綺麗……」

「ベッドやクローゼットの他、お風呂やトイレ、洗面台もついているわよ。他に足りない物があったらいつでも増やせるから言ってね」

「はわわ……」


 ノーラは、はわはわと口に手を当てる。

 喜んでくれたみたいでよかった。

 そこまで話したところで、私は考えた末決めた結論をノーラに伝える。


「実は、館長室には秘密の部屋があるの。この機会に、あなたにも見せるわ」

「ええっ、秘密の部屋!? ロマンを感じるわ!」

「他の人には言わないでちょうだいね。私とノーラだけの秘密よ」


 昨晩、ノーラとの面談を終えた後、秘密の部屋を明かすかどうかフォキシーと相談した。 この世界にはない物が揃っているし、私が別世界の人間ということが知られると、警戒されてしまうかもしれない。

 でも、なるべくノーラに隠し事はしたくなかった。

 この空間は心地よいので

 食料庫の説明もしなければならないし、何より信頼の証だ。

 本棚に収められた一冊をよいしょと押すと、本棚が音もなく横に動き始めた。

 それだけで、ノーラはもう目がキラキラに輝いている。


「すごーい! とっても素敵な仕掛けよ! わたし、こんな美術館に住んでみたかったの!」

「喜んでくれて嬉しいわ」

『ボクも得意げになってしまうコン』


 本棚の後ろに隠れた扉は、マンションの玄関そのもの。

 

「開けてみて、ノーラ。きっとびっくりするわよ」

「わ、わかった」


 ノーラはごくりと唾を飲んだ後、緊張した面持ちでドアノブを回した。

 キィ……と軽い音が響き、秘密の部屋が姿を現す。

 直後、彼女の甲高い喜びの声が響いた。


「うわぁ、素敵! おしゃれで可愛い!」


 レイアウトはノーラに泊まりたいと聞いたときから、部屋の構想を練ってきた。

 家電の類いや小物類は【美術館の加護】を使って、機能はそのままに中世ヨーロッパ風に世界観を統一した。

 和洋折衷的に現代感と中世ヨーロッパ感が入り交じった空間だ。

 前世の住み慣れた部屋が、異世界仕様に少しずつアップデートされている気分でなんだか楽しかった。

 私は家電の機能などをあれこれ説明しながら、ノーラを例の食料庫の前に連れてくる。


「あなたにはもう一つ見せておく部屋があるわ。無限の食料庫よ」

「えっ、無限って食べ物がずっと出てくるってこと? そんなすごい魔導具がこの世にあるの?」


 ノーラは不思議そうな表情を浮かべる。

 この世界でも珍しい魔導具ととりあえずは説明しておき、扉を開けた。

 一面の食べ物、飲み物が現れると、ノーラの目はさらにキラキラに輝く。


「おいしそうな食べ物がいっぱい~! 夢みたいな光景ね~!」

「ノーラが気に入ってくれたポテトチップスとかりんとうも、この食料庫に入っているのよ。食べたら食べた分まで無限に補充されるわ。だから、食べたい物があったら遠慮っしないで言ってちょうだい」

「あんなおいしいお菓子が無限に食べられるなんて幸せすぎる……」

『ただ、食べ過ぎはやめてコンね』


 もう夜ご飯の時間なので、そのまま食材をいくつか選び、キッチンで調理を始める。


「ミオちゃん、わたしも手伝わせて。見ているだけじゃ悪いから」

「ありがとう。じゃあ、このお肉を切ってくれるかしら?」

『ボクはおいしくできるように祈っているコン』


 料理すること、15分ほどで完成した。

 リビングのテーブルに並べると、


「じゃーん! 今日のメニューはサイコロステーキとガーリックライスでーす!」

「『おいしそー!』」


 こんがり焼けた牛肉には甘辛いソースがたっぷりかかり、ライスからはにんにくの香ばしい香りが漂う。

 みんなでいただきます、を言い、一緒に食べる。

 たちまち、ノーラとフォキシーは笑顔で感想を話してくれた。


「はぁ~ん、柔らかいのに、噛めば噛むほどお肉の旨みが滲み出る~」

『ガーリックライスもお肉との相性抜群コン~。ソースの味が染みるのも』


 そういえば、この世界に転生して初めて人と食事をした。

 最初の相手がノーラなんてとても嬉しいな。

 みんなでおいしい食事を楽しんでいるうちに、徐々に夜は更けていった。

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