6.いざという時
「その仰り方だと何か考えがあるようにも、ただの教育熱心な人とも取れてしまいますね。」
「そうなんだ。だから固辞するのもおかしいし、かと言ってあまり食いつき過ぎるのも良くないからな。無難に礼を言って頂いてきた。だからこれ以上踏み込んでこられることはないとは思う。時期を見て、謎解きに夢中で話しかけても答えてくれないとでもぼやいておくよ。」
そこまで言った後、お父さまとお母さまが伺うような瞳で私を見つめてきた。
「と、これは外で起きたこと。実際にはどうなの?」
お母さまが問う。
「私、未来なんて見えないわ!…けどね、時々"ここではないどこか"で過ごしていた時の記憶を思い出すの。それも唐突になんの脈絡もなく。」
「そうなんだよ。エリーゼは昔から変な歌を歌っていたでしょう?それも"ここではないどこか"の記憶らしいんだ。だから、未来が見えるとか予知夢が見えるとはまた違うみたい。バッタの時もだよ。被害が出るのに合わせて思い出したわけではないんだ。」
お兄さまが私の方を向いて言った。
「エリーゼ、あのノートを持ってきてごらん。」
お兄さまに言われて、あれから思い出すたびに書いてきた日記を持ってくる。
「お父さま、お母さま。私の見るものは玉石混交なんです。歌のようになんの役にも立たないものからバッタの被害まで。」
だから、と力を込めて言う。
「もし、この事が人に漏れてしまったら。それで万が一でも大勢を助ける手立てとなってしまったら。」
「次に大きな災難があった時には頼りにされるが、そう都合よく対処できる記憶があるとは限らない、と。」
ふむ、とお父さまは考えこんだ。みんなお父さまに合わせて黙り込んでしまう。
重い空気が立ち込めた頃、お父さまが言った。
「よし。わしは聞かなかったことにしよう!リーレン、当然お前もだぞ。そしてナミビール、お前は」
ニヤリ。お父さまが笑う。
「お前はこの際だ、嫡男として有用なところを示せ。」
「な、何?何をすればいいの?」
「小さい頃から妹が変な歌を歌ったり、面白いことを言い出したりして笑わされていたんだ、お前は。そしてそのあまりにも突飛な話が面白くて、そのうち本にでもまとめてやろうと思いついた。」
「今のところ、この話を書き溜めているのはエリーゼなんだろう?だが、その話をいつも横で聞いていたお前は。」
「その書き溜めを譲り受けて"話を膨らませて"物語を作ることにしたんだ。」
そうか!それなら元になる話は私でも、想像豊かに話を膨らませたのはお兄さま。話を膨らませる時に色々な国の伝承や記録を調べたことにすれば、予知やら未来視などと疑われることも避けられそうだ。
「まあこれはあくまでも建前だし、この先の災難の発生度合いによっては疑われることもあるだろうが。」
「聖女か女神か、みたいな過度な期待は避けられるだろう。」
我が家の方針は決まった。この誤魔化しがどのくらい通用するかなんて分からない。
けど、私は聖女にも女神にもなれない。いや。
なる気はない。
ならば巻き込んでしまって申し訳ないがお兄さまの協力を受けて話を作り続けるしかないのだ。
※※※※※※
「ところでね、グアイフェネシン伯爵から頂いた絵本とやらはどうなの?読めそうな感じはする?」
どう答えるか、迷ってしまった。多分だが私は全てのページをスラスラと読めるはずだ。だが、あの本の表紙には。
"この文字が読めた君へ。周囲には読めることを知られてはいけないよ。無邪気に読んでみたい!とお願いするんだ。そし1人になったことを確認してから読みなさい。"
誰にも読めると言ってはいけない、と書いてあった。お父さま、お母さま、お兄さまのことは信頼しているし読めると伝えても問題ないと思う。
けど。
知ってしまった内容は取り消せない。ならば、今は読めないふりをしておくのが一番だ。
…もしそれで抱えきれないと思ったら頼らせてもらおう。
「うーん。正直読めるかと言うと自信がないです。けど、もしかしたら毎日眺めていたらふと読み方の記憶が出てくるかも?しばらく部屋に持っていって解読できないか頑張ってみてもいいですか?」
中身を読むまで。みんなには黙っておくことにした。




