4.エリーゼの活躍
もっと!もっと私に知識があったら!
「エリーゼお嬢さま。お嬢さまが責任を感じることではありません。流行病なんですから誰が悪いというものではないんです。」
疲れた顔の執事がそう慰めてくれる。
けど、けど!私はこの症状のことを知っている!
突然の発熱。人によっては頭痛も。
感染力はとても強い。基礎疾患があったり免疫が落ちている人や子供は特に高い熱が出る。
その発熱が3日以上続けば高熱のせいで脳にダメージが来たり体が耐えきれなくなって死に至ることもある。
…インフルエンザだ。典型的な。分かっているのに、私には治療をするだけの能力がない。だってそうでしょう?前の世界なら、インフルエンザだって分かれば病院に行き薬をもらって安静にする。そして他の人にうつさないようにできるだけ人に会わないように家に籠る。
薬の作り方なんて大抵の人には関わりのないことだもの。
私にできることは何かないの?
バタバタと倒れていく領民をどうにか助けたい。
お父さま、お母さまに頼りたいけれど。お二人は最前線で対処していた時に罹患してしまい今も生死の境目だ。
そんな時だ。王都にある学園に通っているお兄さまが帰って来たのは。
「お兄さまっ!帰って来てはいけないとお父さまから連絡があったでしょう⁈もしお兄さままでご病気になられたら!跡を継ぐものさえいなくなってしまうんですよ!」
「エリーゼ、今はそれどころではないだろう?僕一人高みの見物なんて絶対嫌だしね。それより…お前が絶対近づくなっていうからには何か心当たりがあるんだろう?前世の記憶で。」
そう。お兄さまは知っている。
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私はかなり小さな頃から記憶があったらしく、たまに変な事を言い出す子供だった。主に歌だったけど。
雨の日には"あめあめふれふれもっとふれー"
降り出した雪を見ては"こなーゆきーねぇ、こっころまでーしぃーろくー"
自分でさえなんでこんな歌知ってるんだろう?と思いつつ歌っていた。
お兄さまはそれを聞いて
「エリーゼがまた変な歌を歌ってるー」
とゲラゲラ笑っていた。
ある程度の年頃になると、この時代ではないどこか遠い昔の記憶が歌になって溢れ出している事に気がついた。
怖かった。だって最初はふと零れ落ちる歌しかなかったけど、大きくなるにつれて他の記憶も顔を出して来た。
「あっ!うろこ雲だ!お兄さま、もうすぐ雨が降り出すわ。早く帰りましょう」
「隣の領で山火事?この天気ならすぐ我が領の山にも飛び火するわ。…住民の避難と、住宅地近くの木を伐採しなきゃ。」
最初に異変に気がついたのはお兄さまだった。
うろこ雲だって山火事の対処だって、特別高度な知識ではない。なんなら領内の年寄りならみんな知っている。…経験則として。
だから大きく騒ぎになることはなかったけど、私がこの発言をし始めたのが6歳の頃だった。
なんでそんなこと知ってるの?
お父さまやお母さまは、
「まぁ誰に聞いたのかしら。エリーゼは物知りねぇ。」
と言ってくれていた。最初は私も得意げに話していたけど、その頃からずっと違和感があった。
「ねぇ、エリーゼはなんでそんなにいろんな事を知ってるの?」
10歳になったばかりのお兄さまにそう聞かれたのは8歳になった頃だった。
「…分からないの。でも、お歌の時も何か思いつく時も全く違う景色が思い浮かぶの。お洋服も違うし何もかも違うの!」
ポロポロと泣く私を優しく抱きしめてお兄さまは言ってくれた。
「そうだったんだね。知らない景色が出てくるなんて怖いよね。今度からは僕に教えて。2人の秘密にするから。1人で悩まないで欲しいな。」
お兄さまといくつか決め事をした。
思い浮かんだことはなんでもいいから書き留めておくこと。役に立ちそうなこと、ふと思い出した景色、ぱっと頭に浮かんだお歌。
なんでもいいからとりあえず書き溜めておく事にした。そして内容はすぐにお兄さまに伝えるようにした。
「念のため、僕以外の誰にも教えないこと。2人の秘密だよ。」
書き溜めはどんどん増えた。そして、私が成長するのに合わせたかのように内容も複雑になっていった。
※※※※※※
「バッタ?」
「そう。バッタ。すごい数が生まれたせいで、作物も何もかも食べ尽くされてしまうの。怖い事に1年後にはそのバッタが産んだ卵が孵るからそれ以上に大きな被害を起こすのよ。それが何年か続いて大変な事になったんですって。」
妹がまた何か思い出したようだ。空一面を覆い尽くすバッタとは、これまた薄気味悪い。
だが、話を聞いていると一概に勘違いとも思えない。しかも単年ではなく数年に渡るのだ。
「私が見た夢だと卵のうちに薬を撒いて駆除していたわ。でも、私では薬の中身が分からないの。薬が出来るまでは卵の段階でできるだけ土を耕して見つけ出して駆除して、成虫になったら夜に篝火を焚いて集まって来たところを捕獲したそうよ。」
ふーん。今年はそんな話を聞かないし、心には留めておこう、そう軽く考えていた。
次の年、空一面というほどではないが、なかなか不気味に見えるバッタの大群が発生した。
「エリーゼ!これって!」
「ええ、お兄さま!」
エリーゼが書き起こした資料をもとに父と母に対処が必要なことを伝える。
とりあえず成虫を減らすところから。篝火をいくつも焚いて集まって来たところを捕獲する。
これだけでもかなりの数が駆除できたんじゃないだろうか。
それでも全ての駆除には程遠い。ただ、対処が早かったおかげで我が領の被害は思いの外少なかった。
篝火で集めて駆除したというのは何代も前に一度あったらしくて、近隣の領に伝えたら疑心暗鬼ながらも実践してくれた。
一帯の被害が少なかったことで大きな軋轢も生まれず、少し食物の値段が上がったかな?程度で済んだのは大きかった。
しかし問題はこの後だった。
エリーゼちゃん一家の話がしばらく続きます。時代はクリスティーネ達と同じ時代だったりします。
それぞれのトラブルについては筆者の知識がとても浅いため、ツッコミどころ満載かもしれないです。すいません。




