19.キュニエ劇場開幕
今日はもう1話投稿します!エリーゼ編もあともう少しで終わりそうな気配です。
「も、も、申し訳ありません…。先ほどは怒ってしまって本当に…ふふは。」
他人事だと思って笑うなんて!と憤慨していたが、至って真面目にキリアさまが読み上げてくださった申し立てを聞いていたら(流石は淑女。表情ひとつ崩れないの!)これは笑うしかないな、と理解できてしまった。
しかも、申し立ては当初書面では無かったらしい。
アジュダンテ伯爵子息は速記が得意らしく、彼女の言い分をひとつも漏らさず記録していた。
そ、それを…ふ、き、キリアさまがんんっ!
「キリアさま!そんな彼女そっくりにフフッ、再現する必要ううう」
あー限界だ!笑いの発作が止まらない。
「もう一度繰り返しましょうか?」
あああなんて無慈悲…
笑いの発作が収まるまで少し時間をいただいた。
「ほら、お水でも。」
テレイオーシスさまから受け取り少し飲むとやっと落ち着いた。
「本当に先ほどは申し訳ありませんでした。これは笑う以外ないです、ね。」
※※※※※※
コンコン
「はい、どなたでしょうか。」
「はい、わたくしぃ、今年入学いたしましたぁ、キュニエ・ボスワースと申しますのぉ。あ!テレイオーシスさまあ!」
上目遣いでまばたきを繰り返しつつ両手ををブンブン振っている。多分彼女の可愛い女性像なんだろう。
「あの!生徒会に関する用事でないならお引き取りください!」
アジュダンテ伯爵子息がお断りしようとしたら、表情は一変、じろりと睨まれたそう。
揉めごとの気配を感じたテレイオーシスさまが要件を聞こうとしたところ、今回の疑義申し立てがあったそうだ。いや、疑義申し立てっていうか…
「あのっ!テレイオーシス様は騙されていらっしゃるのです!わたくしっ!そんなテレイオーシス様の事が放っておけなくて。こうしてやってまいりましたのっ!」
みんなが"なんだコイツ?"と思ってリアクションに困っていたら、どうやら話に引き込まれていると思われたらしく。
「先日、テレイオーシス様はエリーゼという田舎出の子爵令嬢を高く評価をしていらっしゃったご様子でしたがっ!あの田舎者は入学に当たっての試験で不正を行っていたのです!先日その証拠を見つけてしまいました!」
ずずっと近寄ってきたキュニエに後退りするテレイオーシスさま。でも彼女には伝わらない!
「ああおいたわしや!あんな女狐に目をつけられてしまうなんて!でも大丈夫です!わたくしが!わたくしがお側でお守りいたしますからあっ!」
ダダダっと一気に距離を詰めて抱きつこうとして
「い、いたい!何をするの!私が誰だか分かっているの!」
殿下付きの衛兵が羽交締めにして止めてくれた。
「誰だかは十分分かっているよ。だからこれ以上近づかないでくれ。で、エリーゼ嬢の不正とは何のことだ?」
絶対零度の眼差しで表情も変えずに言ったのだが彼女にはまるで伝わらなかったそうで。
「はい!あの田舎者は学園長に色目を使っていたのです!」
はい?
「学園長に色目?」
「はいっ!先日通りがかりに見てしまったのです。2人が親しげに話しているかと思ったら。ああっ!」
「あの…すいません、本当にすいません。キリアさま、その熱演は必要ですか…ね?」
「まあっ!臨場感は物事を伝える上でとても重要ですわよ。じゃないと!」
「貴方だけ笑わないなんてズルイじゃない!」
口を挟むのは諦めて先を促す。
「ああ、なんて破廉恥な!学園長はとても親しげに、紳士と淑女にあるまじき距離感で!頭を撫でていらっしゃったのですっ!」
あー…それ多分。
「おーエリーゼちゃん!今年入ってくるって聞いてたけど、ホントに来たかー」
「嘘なんかつきませんよ。私もおじさまが学園長だって聞いたのって入学式の数日前だったからびっくりでしたよー。」
「いやあこんなに大きくなって…俺の娘もこうやって少しずつ手を離れていくのかと思うと。」
うるうる、ガシガシ、の時だろうな。
おそらく生徒会の皆さんは学園長との関係性をご存知だ。血の繋がりは無くても、親戚なのは間違いないから。
だから、みんなぽかーんとしてしまったそうだ。
「声に出すのも憚られますが、おそらくあれはそういう、その…爛れた関係を利用して能力もないのにこの学園に入学したに違いありません!そんな方がテレイオーシス様と親しくされるなんて、カルボシス家を愚弄するにもほどがありますっ!」
そこまで言い切った彼女は誰も何も発しない事に疑問も感じなかったようだ。そのままキュニエ劇場は続き
「ああっ!テレイオーシスさまぁっ!わたくしが!わたくしが貴方の心の傷を癒して差し上げますうっ!」
うるうるとした瞳で見つめた後。また飛びかかろうとした。
当然また衛兵に羽交締めにされた。
「大丈夫っ!わたくしっ!なにがあってもテレイオーシス様のことを守って見せますうううう」
というセリフと共に生徒会室を追い出されたが、騒ぎ声は廊下を曲がるまで聞こえていたとか。
生徒会の皆様は普段見慣れないような珍獣の大暴れに呆気に取られてしばらく何も考えられなかったが、
「あのままだとエリーゼ嬢が肩身の狭い思いをしそうですね。」
「そうだな。ただああいうタイプはどれだけ言葉を尽くしてもおそらく自分にとって都合のいい現実以外は受け入れられないだろう。だから。」
1〜2週間どう動くかを観察したのだそうだ。
「ごめんなさいね、貴方はとても大変だったでしょうね。」
「そうですね、あまりの噂の広がりっぷりに恐怖でした。」
「と、言いたいところなんですけど。実は私のクラスメイトは誰も信じていなくて。」
「え?クラスで孤立していると聞いたのだけど。」
「はい。テレイオーシスさま、エティーモス侯爵令嬢はご存知ですか?」
「ああ、子供の頃は母のお茶会に連れられて行きよく遊んでいたよ。…キュニエ嬢も。」
「お聞きしました。エティーモスさんーークラスメイトは爵位は関係なくさん付けにする事になってるんですーーのアドバイスで対外的には仲間外れにされているように見せておく事になったんです。エスカレートしたら何するかわからないからって。」
「じゃあ」
「はい。お昼休みや登下校は孤立した風に過ごしていましたが、授業中はみんなとしっかりコミュニケーションを取っていましたし、寮内でも親友と楽しく過ごしていました。それでもない事ない事の噂ばかりで気持ちのいいものではありませんでしたけど。」
「完全に彼女のひとり相撲という事か。」
「とはいえね、今回はやっている事が悪質すぎたわ。不正入学の疑いに、学園長との愛人契約を仄めかすような発言。もちろん信用に足る証拠があるなら仕方ないの。でもほとんど難癖を付けただけですもの。」
確かに私も腹が立っている。なので、私のリベンジプランを説明してガツンとやり返す機会を与えていただく事になったのだった。




