16.不穏な気配
学園生活は思っていたよりも平穏に過ぎていた。
テレイオーシス様の予想通り、クラスが分かれてしまうと案外顔を合わせる機会は多くなかった。
たまにすれ違うくらいのことはあったけれど、絡まれることもなく拍子抜けしたくらいだった。
クラスメイトとも仲良くできていたから、順風満帆だと思っていたのだけど…
「エリーゼ・バーレンスフェルト、授業が終わったら指導室に来なさい。」
ザワザワ。教室内がザワついている。指導室に呼び出されるというのはなかなか不名誉なことで、呼び出された生徒に大きな瑕疵がつく事になる。
もちろんトラブルだけではないんだけれど、疑いの眼差しをむけられることは間違いない。
「エリーゼ、なんかやっちゃったの?」
同じクラスになれたフィロスとアミークスが心配してくれたが、
「うん、何もない。」
「ほ、本当に?なんか私の方が不安になっちゃうよー」
フィロスは心配性だからね。
「何言ってるのー?私たち寝てる間以外ほとんど一緒にいるんだよ。そんな暇なかったでしょう?」
アミークスは少し冷静みたい。
「と、なるととうとうあの方の攻撃が始まったのかしら。」
「うわ、忘れてた!アミークスの言う通りね。多分そっちだわ。…まあ聞いてみないと分からないし、今は授業に集中するね。」
そうは言ったけど、やっぱり気になる。あんまり授業に身が入らないまま放課後になってしまった。
覚悟して指導室に向かっている時に、キュニエ様とすれ違ったのだが。
一瞬、ほんの一瞬だけどニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。
あーやっぱりそっち方面かぁ。
はあああ、めんどくさい。
※※※※※※
コンコン
「エリーゼ・バーレンスフェルトです。」
「入りなさい。」
「呼び出しがありましたので参りました。」
「そこにお掛けなさい。今日はいくつか確認したいことがあって来てもらいました。」
「貴方の入学時の試験について疑義が生じています。」
「入学試験に疑義ですか?」
思ったより大変そうだった!え?カンニング疑われてるってこと?
だが呼び出した割に学園長は歯切れが悪い。
「?学園長、どうなさったんですか?」
「呼び出しておいてなんなのだが、私は疑っていないのだよ。ただ、その、申し出た者がなぁ。」
「ははは。想像付きます。キュニエ・ボスワース侯爵令嬢でしょ?」
「えっ!なんで知ってるの?なんだよー気を揉んでいたのに!」
学園長は、母の姉の嫁ぎ先のお姑さんのお兄さんの息子さんだ。そう、赤の他人である。けれども母の実家は親戚付き合いが濃厚で、血の繋がりなんかどこを探してもないのにも関わらず、学園長とは小さな頃から面識があった。
年に一度くらいは会っていたけど、今年からこの学園で学園長になっているとは思ってもいなかった。つい4〜5年前までは、
「アイツは学者バカだから、年に一度の集まりに顔を出さなければ援助を打ち切るって言ってるからさ。」
お金で釣ってどうにか生存確認ができている状態だったはず。それが何故?と思っていたら。
「いやあ、フィールドワークに出かけた山村で運命の出会いがあってねえ。子供も出来たことだし、落ち着こうかと思って。」
運命の女性は平民らしいんだけど、ようやく腰を落ち着ける気になった息子を見て
「平民?だから何?あとあと面倒なこと言われそうなら親戚の家に養子に入ってもいいんだ!」
「というか、ウチの息子がやっとマトモになったのよ!文句言う奴がいるならかかって来なさい!」
と、絶対手放さないぞ!とばかりに囲い込まれて強固な反対を覚悟していた女性は拍子抜けしたそうだ。
まあ、そんな紆余曲折があって今年から学園長を仰せつかったらしい。
なのに就任早々厄介な問題に悩まされるなんて。
今までおじさまおばさまに散々心配かけたバチが当たったんだよ!
そんなことはもちろん面と向かっては言わずに一応謝る。
「申し訳ありません、巻き込んでしまいまして。疑義に関しては調査でもなんでもしていただいて構いませんが、その…疑義の申し立てについては主にキュニエさまの私怨によるものかと。」
「私怨?なに?喧嘩でもしたの?」
「喧嘩ならまだ納得なんですけども、先方が勝手にライバル視なさっているんです。」
初日の話を細かく伝える。
「はあーなるほどねぇ。その話を聞く限り、今回のも因縁付けられてる感じだねぇ。」
「ははは…。そんな暇があれば5分でも勉強すればいいのに!」
「ホントだよねぇ。んーかと言って何も対応しない訳にもいかないんだよねぇ。」
そりゃそうだろう。でもやってないことの証明って難しいんだよなぁ。
「あと何回か呼び出すかも。その時は付き合ってね。」
疑義については本当に何もないのですぐに解決するだろう、と思っていたんだけど。
それが甘い考えだったと痛感させられるのであった。
「ねえ、エリーゼさん。貴方学園の入試試験で不正なさったの?」
あまりの直球な質問に眼を瞠る。
話しかけて来たのは王子殿下の婚約者、キリアさまだった。




