13.記憶って割と簡単に飛ぶんだね。
「やあ、きみがバーレンスフェルト君だね!よろしく!」
ああ、なんて日だ。たった1日でどれだけトラブルが起きるんだろう。
いや、これはトラブルではないか。だって
「僕はパトルエリス。テレイオーシスの従兄弟だよ。」
王子様に自己紹介されてるだけだもん!
「エリーゼ・バーレンスフェルトと申します。お初にお目にかかります。…なにぶん田舎の子爵の出で気の利いたご挨拶ができず申し訳ありません。」
とにかく頭を下げて視線を合わせないようにする。なんたってテレイオーシスさまの従兄弟だ。要するに国王の孫ということ。
なんでこんなすごい人に初日から挨拶しているのか、さっぱり分からない。
「まあまあ、固くならないでよって言っても無理だよね。」
はい、無理です。だってこの部屋なんだかキラキラしてないですか?
お顔だけで名前がわかる方は生憎いない。そりゃそうよ、なにぶん田舎の子爵の出ですから!
「もう、男性陣は何をしているんですか!入学したての生徒がこのメンバーを見たら固くなって当たり前でしょう!」
味方が出てきた!と声のした方を振り返る。
ああ、もっとすごいの出た…
「わたくしはね、キリアというの。テレイオーシス様の婚約者なの。」
王子の婚約者!なんていうパワーワード!
「エリーゼ・バーレンスフェルトと申します。お初にお目にかかります。…なにぶん田舎の子爵の出で気の利いたご挨拶ができず申し訳ありません。」
壊れたテープみたいに同じ言葉を繰り返す。だって無難な挨拶なんかそんなに思い浮かばないし!どこぞの小説みたいに身分なんか気にしない!ワタシはヒロインなのよ!なんて割り切りもできないし!
半泣きになった時、救世主が現れた!
「みなさん、うちの妹に何してるんですかー。」
「お、お兄さま…地獄に仏とはこのこと!うっうっ。」
「地獄とか失礼じゃない?僕一応王孫なんだけどなぁ。」
ちょっとだけ眉を寄せてそう言われてしまった。
「ああああ!申し訳ございませんんんんんー」
「もう!テリー!そんな冗談が通じるシチュエーションじゃないわよ。おふざけが過ぎるわ。」
「わぁホントだ!ごめん、ごめん!ちょっとした王族ジョークだったんだよう、ごめんなさい!」
「もうこれ以上何を言ってもムダよ。しばらくあっち行ってなさいな。」
ここ怖いよぉ。王族にしっしってやってる。
もう泣くことも笑うこともできなくなって、言われてみれば微笑んでる?みたいな表情のまま固まってしまった。
「殿下、キリア様、他の皆様方も。妹がお騒がせしました。…けど、いきなり連れ込まなくても。心の準備ってもんがあるでしょう。」
わーお。お兄さまもそっちの人だったんだね。ニコニコ笑いながらそんな不遜な感じで喋れちゃうんだあ。
「背水の陣?ちがうちがう!四面楚歌?いや、前門の虎後門の狼か⁈」
あ、ダメだ。何も考えられなく…
※※※※※※
「あ、エリーゼ気が付いた?よかったあ!キュニエ様たちに色々言われてたのに助けられなくてごめんね。怖くてカチンコチンになっちゃって動けなかったの。しかもその後テレイオーシス様が話しかけてきたでしょ!やっと動けるようになって、気がついたらもうエリーゼがいなかったのよう!」
同じ寮のフィロスとアミークスが看病してくれていたみたい。半泣きだけど、気持ちは分かるよ。入学したての低位貴族令嬢にあれはエグすぎる。
「どうしようか、先生に知らせに行こうかって慌てていたら、貴方のお兄さまが連れてきてくださったのよ。っていうか!あんなにカッコいいお兄さまがいるなんて!早く教えてよ!」
お、おう私の心配よりそっちが本音だね!
ちょっと腹が立ったので怖い話をしてやる!
すん、と表情を消してみる。
途端に狼狽える2人。そのままじっと2人を見る。
「エ、エリーゼ?大丈夫?やっぱり体調が悪いんじゃない?」
「そうよ!目が虚よ。先生に連絡してお医者様に診てもらう?」
にたぁ。できるだけ不気味に笑ってやった。
「何があったのかお話しいたしましょう。」
ごくり。息を呑む音が聞こえた。
「腰を抜かす前にソファに座ったほうがよろしくてよ。」




