9.お話コンクール、始まる。
「しっかし、クリスティーネ様あからさま過ぎだわ。」
遠い星からやってきた正義の味方、月の女神より遣わされた美少女戦士、フルーツから生まれた子供がお供を得て悪を成敗する…
うん、新旧取り混ぜてるから幅広い年代に対応できそう。
だが、なんというか…
「この世界では浮きまくってるのよ」
そう。あまりにも独特すぎるのだ。いいのかな。まあ独創性って言えばなんでも大丈夫なのか。
「いやいやいや、なんでもいいわけないよね。」
「何言ってるの?エリーゼ。」
「あ!お兄さま。いえ、大したことではないんですけど。」
うう聞かれてしまっていた。どう誤魔化すか。
「ええっと、ちょっと絵が独創的過ぎて私には理解できないというか。クリスティーネ様すごいなぁと。」
「だよね、これって武器なのかな?でもこんなちゃっちい棒を小柄な女の子が振り回したって何も倒せないよね。」
おおぅ、危なかった。そうか、全くの知識がないと魔法のスティックなんてのもわかんないよね。下手なこと言わなくてよかった。
まあでもなんだ、あの内容なら前世日本人ならピンと来て決め台詞書いちゃったりするのかな。
「…エリーゼ。ホントに分からないの?」
どきっ。
「全然分からないっていうのも、子供の頃のことを考えたら不自然な気がするんだけど。」
やはりお兄さまは鋭い。というか多分お父さまもお母さまも薄々感じてるんだろうな。敢えて素知らぬふりを続けてくれてるんだろう。
「そうね。私もそう思う。何か覚えがあるんじゃないかな?って。でも最近どんどん薄くなってきてるの、記憶が。」
真っ赤な嘘だ。だけど、この誤魔化し方が1番自然だよってグアイフェニシン伯爵様から教えられた。
子供の頃にあった超感覚が成長と共に薄れていくことはままあるらしい。ほら、神童って呼ばれてたのに気がついたら凡人になってた!みたいな。
最初の絵本の頃から2年。来年には学園に入るのだからそこまで不自然な事ではないだろう。
ちなみにお兄さまは昨年入学している。普段は寮住まいだが、こうやってたまに領まで戻ってくるのだ。
「そうなのか…。時間とともに薄れてしまうんだな。なんだか勿体無い気もするけど、その方がエリーゼも生きやすいかもしれないな。」
優しいお兄さまを騙していることで罪悪感が半端ないんだけど。
…知らない方がいい事は絶対に存在するのだ。
「そろそろ伯爵様もお見えになる頃かしら。」
「ああそうだね。そろそろお出迎えの準備をしておこうか。」
話題をささやかながらずらしてお客様をお出迎えする準備をする事にした。
※※※※※※
「女神様に代わり成敗いたす!」
「そう言いながらあの棒を天に向かって突き立てるのです。そうすると、女神様が天罰を与えてくださるのです。」
おお、素晴らしい。解釈の仕方としては満点だ。
だが、これは本当に絵柄から受けたインスピレーションなんだろうな。前世の記憶があるなら恐らく成敗致すにはならない気がする。
コソッとエリーゼ嬢が話しかけてくる。
「やっぱり、このお話で重要ワードは"お仕置きよ!"ですよね。」
デスヨネ。俺もそう思う。では彼は対象外、っと。
何度かエリーゼ嬢とのやり取りをした後、絵本は販売された。その際にクリスティーネ様と初めて顔を合わせたエリーゼ嬢だったが、ご家族がいる手前大っぴらには話ができず。どうしたもんかと思っていたら
「あのっ、クリスティーネ様!差し出がましくて申し訳ないのですが…」
「そんなことは気にしないで、エリーゼちゃん。私の最初の読者さまなんだから、なんでも言ってちょうだい。」
「はいっ!では遠慮なく。えっと、絵本を読んで自分でお話を思いつくのはとても面白かったんです。でも最近はそれだけだと物足りなくて…。他の子はどんな風にお話を作るのかなって!」
そう、子供のおねだりの体を取ってお話を募集することにしたのだ。コンクールみたいなもんだな。
これなら字を読める読めないはあんまり気にしなくていいから、各地の教会や孤児院なんかにも裾野を広げられる。そして、面白いお話を考えた子にはご褒美を!教会や孤児院にいる子ならその教会や孤児院にも報酬を出すことにしたから、面白いようにお話は集まった。あ、孤児院や教会への援助は識字率の低い孤児たちの応募のハードルを下げるために、大人を餌で釣ったってことね。
もちろん目的の前世持ち探しはしたけど、それ以上にストーリーテラーとして優秀な子供がたくさんいることが分かった。そうすると、ちょっと話は変わってしまうんだけど、自領内の識字率アップを目論んで他の貴族たちも真似をするようになった。
おかげで国全体の教育環境も良くなったし、これから金の卵を産むガチョウになるかもしれない子供達のためにと医療やらインフラやらどんどん発展していった。
なんだか当初の目的からは外れてきたような気もするけど。
俺たちの目的はこの世界を良くすることだから。
前世と関係なくても発展していくのであればそれはそれでオッケーなのであった。




