年賀状のお年玉くじが当たる薬
12月下旬。ドラッグストアでバイトに励む鈴蘭は突然、強盗に襲われてしまった。店の奥にいた店長が急いで姿を現すと、強盗は彼女にナイフを突きつけて叫ぶ。
「『年賀状くじの1等が当たる薬』を出せ!」
シンと静まり返った店内で、沈黙を破ったのは人質だった。
「年賀状くじ?なにそれ」
「え?まさかお前……知らない?」
「私の家、年賀状出したことないです」
「マジ?」「嘘だろ現代っ子……」
2人の中年男性が絶句する中、鈴蘭は命が危険に晒されている事を忘れてくじの詳細を聞く。店長は今回の強盗もアホだと知れてホッと息を吐いた。
「宝くじと同じだよ。年賀状に印刷されてる数字と当選番号が一致すると賞品がもらえるってヤツだ。で?強盗の要求は1等が当たる薬か」
「早く寄越せ!通報したらバイトの命はねぇ!」
「分かった分かった。だがな……お年玉くじの1等は30万円だぞ」
――は?それだけ?絶対年末宝くじ狙った方がいいじゃん。強盗する旨味なくない?てか……。
「私たかが30万円の為に命狙われてんの?」
「う、うるせえ!たかがとか言うなぁー!」
「はいはい。小売店の繁忙期を舐めんじゃねーぞっと」
鈴蘭の心の声が漏れた瞬間、強盗は逆上してナイフを高く振り上げた。しかし店長は落ち着いた動作でリモコンのスイッチを押す。すると天井から飛び出した縄が強盗に巻き付き、彼は驚きの声を上げる暇も無く吊るされてしまった。
――相変わらずてるてる坊主みたいに拘束されてる……。
「この撃退システムもこれで見納めか」
「毎回思うけどどんな仕組み……?」
この店は普通のドラッグストアではない。かなり奇妙な薬ばかりを取り扱っているため、この手の悪質な輩は次から次へと湧いて出た。
強盗犯を警察に引き渡した後、店長は新品の年賀状を鈴蘭に手渡す。
「確かに面倒なとこもあるけど、寧ろ今は年賀状って案外風情があるんだよ。鈴蘭も書いてみ?」
「いいです……送る友達いないし」
「でも自分がもらったら嬉しいだろ?」
鈴蘭がなお「でも転校先の住所知らないし」とごねると、店長が『手紙を送りたい相手の住所氏名が分かる薬』を飲んだ。
「冬のボーナスだ。とっとけ」
筆ペンで書かれた小学校の同級生の名前と新住所を見て、鈴蘭は「店長……」とドヤ顔の彼を見つめ――
「いや無理キモッ!」
――ますますこの店の薬に抵抗感を覚えるようになった。
店長「あ、言い忘れてたけど年賀状が元旦に届く期限は12月25日の……15時までな」
鈴蘭「明日じゃないですか!えーえーどうしよ……」
悩んだ末、12月25日の17時――近所で最も遅く集荷される駅前のポストに、飛び込むようにして投函したのだった。




