37真実1
アリトはあれからもプリンやゼリーを食べて朝にはすっかり熱も下がっていた。
その朝ドルトが現れた。
その姿はいつものドルトだ。そして昨日出会ったドルトにもそっくりで‥
「あなた一体誰なの?わかってるのよ。あなたが偽物だって!」
私は、昨日会ったドルトと見比べるように現れたドルトを凝視する。
ほんとにそっくりなんだけど‥もう、気味悪い。追い返した方がいいかな?
迷っていると彼が話し始めた。
「申し訳ありません。私はドルトではありません。私はリントさんの従者でドルトという男になりすましここに出入りしながらあなた方を見守っていたのです。それはリントさんのためでもありました」
「リントの?でも、ドルトとそっくりってどういう?」
驚きで言葉もままならない。
「はい、今お見せします」
ドルトそっくりの男は首からペンダントを取り出すとそのペンダントをバキッと壊した。
するとドルトに見えていた顔が全く別の男に変わった。
髪は黒く瞳は金色だ。切れ長の目で顔の頬には傷がありいかつい感じがして年の頃なら40代半ばくらいだろうか。それに頭の上には角があり彼も竜人だと思われた。
それで少し彼の言うことが信じられた。
「クレイブと申します。リント様の従者をしております。長きにわたりあなたを騙すようなことをして申し訳ありませんでした」
彼はそう言って深く頭を下げた。
「驚きました。でも、考えてみれば私はあなたにはずいぶん助けてもらったのは事実です。騙されてたことに怒りは感じますが、そんなに怒りは感じていません。でも、どうやってドルトに?」
「3年ほど前リント様がこの魔道具であなたと別人の女性をミルフィ様と勘違いしましたよね?あの時使われた魔道具も今と同じ、偶然手に入れたドルトの髪の毛と皮膚を使ってあなた方がドルトと誤認識するようにしたんです」
「でも、どうしてドルトなんかに?」
「誰でもよかったのですが、見知らぬ奴より多少でも見知った人間の方がいいかと、確かドルトは元婚約者でしたよね?それで‥それにお話したようにドルトの髪の毛などが手に入った物ですから‥申し訳ありません。あなたが彼をよく思っていないのを知らなかったので」
強面のクレイブが思いっきり頭を下げて来る。
「いえ、私もあなたには助けていただきましたし怒っていると言うより驚いていると言った方が‥」
「そう言って頂けるとほんとに‥」
事情は分かった。けど、今になってどうして事情を明かしたんだろう?
「それよりどうしてそれを私にばらしたんです?」
「実はリントさんに異変が起きているのです」
リントに異変って?
ますますわからない。
「リントに異変って?そんなことより彼はどうして私の前に現れないんですか?もう、別の女性と結婚でもしたんですか?」
だって、3年間も姿を現さないなんてそうとしか思えないじゃない。
クレイブさんはえっ?って顔で私を見た。
「とんでもありません。番が現れた以上竜人は他の女性を求める事はありません。彼は今もあなただけを愛しています。どうか私と一緒にアリト君を連れて来てもらえませんか?リントさんを救えるのはあなたしかいません!」
「リントを救える?わたしが?」
「リントさんは竜力をかなり失ってすごく弱っているんです。だから、それに共鳴するようにアリト君の具合も悪くなっているのではないかと思われます」
アリトがぐずって泣き出した。子供って敏感だ。アリトは私の心の動揺を感じ取っているのかも知れないな。
でも、アリトの熱は下がったけど?頭の中が整理がつかないまま尋ねる。
「どう言うこと?」
「竜人の番の子は魂玉と言うものを持って生まれます。なのでリントさんは当然生まれながら体内に魂玉を持っています。そして同じ番であった二人の間に生まれたアリト君も魂玉を持って生まれたはず、詳しい事情ははっきりとはわかってはいませんが、ピュタール国には魂玉を持っている親子や番は互いに影響を与え合うと言う伝承が残っています。だから俺にはふたつの魂玉が共鳴しているのではないかと思うのです。リントさんはずっとミルフィさんに魔力を分け与えていました。竜人は番を失うと魂玉の力を失われると言われていますが、リントさんはあなたを助ける事だけを生き甲斐にしてきました」
「じゃ、スパイスが取り出せるのはリントの魔力のお陰って事?」
「はい、彼はあなたに拒絶されてすぐにピュタール国に向かいました。そこで竜帝を引退させて兄のジュード様を竜帝にしました。そして自分は竜帝の継承権を放棄して、唯一スパイスや調味料の管理と存続だけを頼むと願っていましたから、彼はあなたが美味しい物を作るときすごく嬉しそうだったと話していましたから、作り続けて欲しかったんでしょう」
「そんな事を信じろと…」
離れていてもなお相手を思うその優しさが彼らしいと思えた。
彼はそんな人だったと胸が熱くなる。
「信じて頂くしかありません。そして今は一刻も早くリントさんの所に来て欲しいのです」
私はクレイブという男の話がすとんと私の心に落ちた。彼を信じた。ううん、信じれた。
私は彼について行くと決めた。
「ありがとうございます。すでに馬車を待たせていますので一緒に来て下さい」
クレイブに言われるまま私たちは食堂を出る。辺りは薄暗くなってきている。すぐに夜の帳が降りて来るだろう。
アリトはやっと回復したばかり、まだ油断は禁物なのにとも思うがリントが危ないと聞けば放っておけなかった。




