36アリトの熱
私はドルトのショックに落ち込んでいる暇はなかった。
アリトの熱を何とかしなくてはならなかったから。
教会の療養所でもらった薬を飲ませてもアリトの熱は相変わらず続いている。
それにこのところ熱のせいで食べ物もあまり食べれていない。
何とかアリトに滋養のあるものを食べさせなければと母性本能が言う。
何かいいものが‥?
そうだ!プリンを作ろう。ゼリーって確か魚のゼラチン質で固まるんだった。
そう言えばお店で自然薯に似たものを見た。みんな、あんなドロドロした食べ物はどうもな。と言っていたので食材としては不向きだと思っていたけど‥
私の中で前世で知っていた消化が良く栄養のある食べ物が思い浮かぶ。
急いでアリトを寝かせて食材を仕入れに行く。
「ウクさん(近所の野菜売りのおばさん)この前会った、あのねばねばの芋はある?」
「ああ、みんなが嫌だって言うから‥どうした?あれが欲しいのかい?」
「ええ、欲しい!」
ウクさんが奥からその芋を持って来た。
「いくら?」
「お代はいらないよ。いつもあんたにゃ美味しいものを貰ってんだ。あ俺よりアリトちゃんの具合はどうだい?」
「うん、まだ微熱が続いてて‥」
「そうか。ミルフィも心配だね。このカボチャも持って行きな。スープにでもして飲ましてやりゃきっとすぐに元気になるさ。さあ、元気を出して子供が熱を出すのはよくある事だからね」
「ええ、ありがとう。じゃあ。私、急ぐから」
私はウクさんの所を後にして今度は肉屋に行きチキンと卵、金目鯛に似た魚も買った。以前調理して時に冷えて固まった事を覚えていた。
急いで食堂に戻る。
アリトがまだ寝ているのを確かめると調理に取り掛かった。
まず、金目鯛に似た魚を煮て冷めたら冷蔵箱に入れて冷やしてゼラチンを取りだそう。
チキンはゆっくりと出しを取って味噌を入れて煮込みうどんを作って、カボチャも茹でて裏ごしして牛乳とターメリックを少々を加えてパンプキンスープにすれば‥
あっ、卵と牛乳でプリンも‥何度も卵を裏ごしすれば滑らかなプリンが出来るし牛乳にカモミールを入れて煮だそう。カモミールはに出すと甘みが出るからアリトも食べやすいはず。
そうだ、リンゴのすりおろしも‥アリトこれは食べてくれるから残ったリンゴの汁をゼリーにすればいい。
私はアリトの様子を見に行くとちょうど目を覚ましたところだった。
「アリトお腹空いた?美味しいご飯が出来てるよ。頑張って食べよっか」
「ママ‥おぃちいごひゃん?あぃと、べる」
「うん」
私はキッチンに行って子供用の椅子にアリトを座らせる。
これもドルトが作ってくれたものだ。何だか胸が痛いけど今はそんなのどうでもいい。
「さあ、美味しいものがいっぱいよ」
出来上がったパンプキンスープをふうふうしながらアリトの口に入れる。
ごくん。アリトがパンプキンスープを飲み込んだ。
アリトの顔がほころんだ。
「‥ぉいちぃ~。きいりょのしゅーぷ、ぃしぃ~」
「そう、良かった。ウクさんがアリト元気になってって分けてくれたんだよ。さあ、もう一口」
アリトは相当美味しかったらしくパンプキンスープを飲んでくれた。
「アリト、こっちも美味しいよ」
私は味噌煮込みうどんを掬ってアリトに見せた。
「ママ、むしたゃべりゅ?」
「むし?ああ、これはうどんって言う食べもの。アリト初めてだね。熱いからふうふうして‥」
アリトがうどんをちゅるっとすするとアリトの目がまん丸になった。
「しぃ~!ま、まっ、うどゅん、いしぃよ」
形状が気に入ったのか味噌味が良かったのか、よくはわからないがアリトの食欲が出たことがうれしい。
「そう?うどんもっと食べる?」
「うどゅん、べる!」
アリトはうどんもたくさん食べてくれた。リンゴのすりおろしも完食した頃には汗をかいて顔色も良くなっていた。
「アリト偉かったね。もうすぐプリンが出来上がると思うよ。一緒に見る?」
「みりゅ!」
ご飯を食べたら元気まで出たのか威勢の良い返事をした。汗をきれいに拭いてやってアリトを抱っこしてオーブンを見る。
そろそろいいかな?
アリトをまた子供用の椅子に座らせてプリンを取り出す。
黄金色のプリンが出来上がった。
湯気が立ち上るプリンをアリトが椅子から乗り出すようにして見る。
「あちっち?」
「ふふっ、そうね、今は出来上がったばかりだから、これを冷やしたら美味しいプリンの出来上がりだからね。後でおやつに食べようね」
「おやちゅ?」
「そう、今はお腹いっぱいでしょ?」
「やだぁ」
「でも、アリトのお腹‥」
私はアリトのお腹をポンポンする。
「ポンポンっぱい?」
「そう、今は熱々で火傷するからね。もう少ししたらプリンも冷えて食べごろになってるからね」
「たべごょりょ?」
アリトの舌足らずの言葉がおかしい。
「そう、たべごゅりょ」
アリトをそっと抱きしめる。えっ?アリト熱が下がってる?
ううん、まだ油断はできない。でも、良かった。
あっ、ねばねば芋の事すっかり忘れてた。あれはまた今度にしよう。
私は久しぶりに凄く幸せな気持ちになっていた。




