35あれから3年3
そんなある日、アリトが高熱を出した。
私は街の診療所に連れて行くが熱は下がらなかった。
数日続く高熱にアリトの体力は奪われて行った。
私はアリトを街の診療所ではなく教会の療養所に診てもらう事にする。
ドルトが仕事が忙しいのかマベルがけがをしてから一度も食堂に顔を出さない。
連絡もないなんて信じた私がばかよね。
最近は家族のように親しくしていただけに、こんな大変な時にいてくれないドルトに失望する。
あの人は他人。それに一度裏切った人なのよ。ほんと!あんな奴を信じる方がどうかしてたのよ。
でも‥ドルトがいなかったら、私はもっともっと大変だった。今まで良くしてくれたんだもの腹を立てるのは間違ってるわよ。
心の中ではわかっているつもりだった。
でも、実際アリトが熱を出して大変で。食堂だって休まなきゃならない。心配でたまらず誰かそばにいて欲しかった。
そうも行ってはいられず私はアリトを連れて教会の療養所に行った。
療養所で医師にっ診察をしてもらい子供によくある知恵熱だろうと診断された。
「これくらいの子供にはよくある事ですから、しばらく安静にして栄養のあるものを食べれば大丈夫ですよ」
私はほっとして熱さましの薬草を貰って帰るところでドルトとばったり会った。
ドルトは近衛兵の制服を着ている。
やっぱり仕事が忙しかったんだ。私は声をかけるのを迷ったが仕事なんだからと声は賭けずに立ち去ろうとした。
「おや、ミルフィじゃないか?そうだよな?‥しばらくだな。もう3年近くないか?元気にしてるのか?」
驚いた顔を自分を見るドルトにこっちも驚く。
「えっ?ドルトったら、何とぼけてるのよ。あなた、しょっちゅううちの食堂に来てるじゃない!」
他人の素振りに無性に腹が立つ。
「はっ?食堂って?俺はあまり食堂なんか行かないし、お前を見かけた事なんかないぞ」
「何言ってるの?あなた頭がおかしくなったんじゃ‥?」
「それを言うならミルフィのほうだろう。会うのは3年前オロク殿下の言いつけで君を見た時以来じゃないか?そう言えば、教会から追い出されたって聞いてはいたけど元気だったか?」
「えっ?」
脳内が混乱してその後の言葉が出てこない。
どういう事?あなた、毎日のように家に来て手伝いをしたり食事したりしてたじゃない!?
そう言いたいが彼の素振りはどう見てもいつものドルトではない。
距離は取っているし、何よりアリトを見て何も言わない。この人私の知っているいつものドルトじゃない。
何だか偉そうで態度も大きい。
何よりドルトの髪は後ろで束ねてある。私の知っているドルトの髪は短かった。
私が黙っているので彼の方が近付いて来た。
「ミルフィ、その子は?」
「この子を知らないの?」
「知るわけないだろう。そう言えば教会で子供を産んだんだよな。あの竜人の子か?」
「ええ、どこで聞いたの?」
「オロク殿下を振った話は有名だぞ。竜人が君を婚約者だと言ったって言うのも。まあ、その後君が教会に入ったって聞いたから‥それより元気だったのか?」
ドルトは私を珍しいものを見るように見て来る。
うわっ、気持わるっ。
こいつうちの食堂に出入りしていたドルトもどきとは絶対違う。でも、万が一を考えてもう一つ質問してみる。
「そんなのどうでもいいじゃない。それよりあなた私がどこに住んでるか知ってる?」
「いいや」
ドルトは真面目な顔で答えた。嘘をついているようにもない。
もう、どういう事よ。でも、これ以上ここにいない方がいい。
「そう、ごめんなさい。忙しいんでしょう?じゃ、私、急ぐから失礼するわ」
私はドルトに別れを告げる。
「ったく、何だよ!」
その時だった。
「ドルト何をしている?」
「オロク殿下。申し訳ありません。もうお帰りですか?」
「ああ。用は済んだ。それよりお前はミルフィか?」
ドルトの横に並んだのはあのオロク殿下だった。
そうだった。ドルトはオロク殿下の側近だった。じゃあ、食堂に来るドルトは誰なのよ。
もう、訳が分かんない。でも、オロク殿下を無視するわけには行かず。
「はい、お久しぶりですオロク殿下」
「お前随分と落ちぶれたもんだな。俺の婚約者にしてやろうと言ったのに‥ドルト行くぞ!」
オロク殿下は私を憐れむようにそれだけ言うと去って行った。
3年前、教会に入った私にしつこく迫っていたのはリントだけではなかった。オロク殿下もしつこく婚約者になれと何度も教会に訪れた。
でも、私は修道女となっていたので無理やり王宮に連れていかれる事はなかった。
そして妊娠が分かり治癒魔法の力も失ったと分かるとオロク殿下との婚約話は煙のように消えてなくなったのだった。
所詮、私はただの道具だったって事だけの話。
ったく、どいつもこいつもろくな奴じゃないんだから!
それにしても私の知っているドルトって何者なのよ!!
私もふらふらと食堂に帰ったがショックだった。
ドルトの正体は誰なのかまったく見当もつかなかった。




