31偽の番(リント)
俺はすっかり有頂天になって、午後には今夜ミルフィと一緒に行くレストランを探し宝石店に足を運んで贈る指輪を幾つか選んだ。
時間が迫って来ると待ちきれなくて早めに政務局の門の前に出掛けた。
「リント様」
「あれ?ミルフィ?どうして?仕事じゃなかったのか?」
ミルフィが門の外にいて何だか違和感を覚えた。
ああ、そうか。制服着替えたのか?ったく、女ってのはいつの間にそんな早業を?
でも、いつもは見ない淡いピンク色のワンピース姿に俺はミルフィが俺の為におしゃれをしてくれたと嬉しかった。
「ねぇ、早く行こ」
「ああ、そうだな。まだ少し早いから散歩でもする?」
「ええ?やだぁ。私早くあなたと‥」
ミルフィが俺の腕に自分の身体をすり寄せて来た。
すげぇうれしい。でも、なんだかいつものミルフィとは違う様な。
何言ってるんだ。ミルフィは俺と気持ちが通じ合ったからこうして俺に甘えてくるんじゃないか。
「そんな事されたら俺の我慢が効かなくなるって分かってるだろう?」
だってせっかく眺めのいいレストランで食事をして指輪を買ってそして今夜こそ彼女と心も身体も繋がりたいって思ってるんだ。
「だって、リントが素敵だから、こんな事女の子から言わせるの?」
み、みるふぃ!俺だって今すぐにでもそうしたいって思ってる。
でも、やっぱり女にはそれなりの雰囲気が必要だってクレイブがしつこく言うから。
そりゃミルフィがその気なら俺はいつだって‥ミルフィ分かってるだろう?
いやいや、今日はきちんとミルフィと食事して指輪を選んでちゃんと結婚を申し込んで、それから愛を確かめ合いたい。
やっぱりきちんと決めた手順で行こう。
「ミルフィ、そんな事言ってくれて俺、すげぇ嬉しい。でも、今日は一緒に食事して指輪を買いに行きたいんだ。ミルフィとの事、真剣だからこそきちんと申し込みさせて欲しい」
ミルフィの顔がハッとなった後笑顔になった。
「そうだよね。私ったらごめん」
「俺の方こそ。そんな事言われてすげぇうれしい」
俺はミルフィを引き寄せ額にキスを落とす。今はこれで我慢だ!
うん?なんだ?何かおかしい。
俺はミルフィの顔を見つめる。
脳はミルフィだと認識する。だが、本能が違和感を覚える。
俺は予約していた王都のレストラン【ビアロリエ】にミルフィと入って行く。
さすが高級レストランだけはある。煌びやかなシャンデリアに高級感溢れる椅子やテーブル。クロスもおしゃれでレースが美しい。それに給仕係の接客が行き届いている。
「ここで食事するの?聞いてないよ。ねぇ、ここってすごく高いんでしょ?私、一度来てみたかったの。きゃはっ、すごく楽しみ」
「そうか。ミルフィが喜んでくれてうれしいよ」
ミルフィは子供みたいにはしゃいだ。そんなに喜んでくれてうれしい。
でも、何かが違うような違和感。
いや、気のせいだ。
俺達は席に案内されて料理が運ばれて来た。
テーブルの上に置かれたランプの灯りにミルフィの顔が揺らめく。きれいだ。俺のミルフィ‥
メニューは美しい彩りのテリーヌ、羊肉のハーブ煮込み、クリームシチューのパイ包み、デザートはチョコレートケーキだ。
最初にテリーヌが運ばれて来た。
「きれいだな」
「私?リントったら。もう、早く食べてあなたの部屋に行こう」
ミルフィはテリーヌをぐちゃぐちゃにしながらパクパク食べる。
次は羊肉のハーブ煮込み。
軟らかく煮こまれた肉は今にも崩れてしまいそうなほどで、ハーブの香りが食欲をそそった。
「ああ、私、羊って苦手なんだ。あっ、でも、意外にいける」
いやだと言いながらも一口食べて旨かったらしい。
「そうなのか。羊が嫌いだったって知らなくてごめん。じゃあ、俺が変わりに食べてもいいぞ。あ~ん」
「はっ?人の食べたフォークで気持ち悪くない?」
すっと冷える脳内。ほんとにミルフィか?いつもなら嫌だと言いながらも俺にフォークを差し出してくれるのに‥
次はクリームシチューのパイ包み。
「うわっ、これってパイを崩して食べるの?何かおかしくない?パイってお菓子でしょ?クリームシチューと一緒に食べるのって変よ」
おい、ミルフィ。ここは高級レストランでみんな料理を楽しんでるんだぞ。そんなバカな事をいう方がおかしいってわからないのか。
俺はこの国で平民のような暮らしをしているけど、一応貴族ではある訳でそして君も元は侯爵令嬢だったんだろ?
礼儀は知ってるはずだよな?
俺はさっさと食事を終わらせようと急いで食事を終えた。デザートはなしでいい。
何だか居心地が悪くて俺は立ちあがった。
「さあ、出よう」
「あっ、うん」
ミルフィの腕も足らずに先に歩く。
あれ俺。ミルフィに近づきたいって思えない。嘘だろ?番のそばを離れても平気だなんて?
おかしい。絶対に何かがおかしい。
大きくミルフィの匂いを吸い込む。
俺は脳内でミルフィの匂いをあの番を感じた時の多幸感をじんわりと感じる。。
じわりの滲み出るような微かなミルフィの匂いは確かにあの女から香っている。
何度も目を擦ってミルフィを見直す。だが、姿はミルフィに見えた。
俺はどこかおかしくなってるのか?
あんなにたまらなくミルフィが愛しくてたまらないと思っていたはずなのに?
「指輪。買いに行くんでしょう?私、大きなダイアモンドがいいな‥」
「ああ、ミルフィの好きな物にしていいから」
俺は違和感を抱えながらすり寄って来たミルフィを抱き寄せた。




