27オロク殿下に襲われる
私はリントにはっきり別れを告げた。
やっと言えた。ずっとこのままじゃいけないって思っていたから。
これ以上リントを好きになる前にきちんと別れなきゃって。
王子からの婚約の申し込みなんて受ける気はない。確かに治癒魔法が使えるようになったけど、だからって王子と結婚なんてお断り。
私は庶務課に戻って仕事を始めた。
何だか落ち着かなくてほとんど仕事にならなかったけど。
マクフォール管理官が庶務課に戻って来てリントがいきなりいなくなったと騒ぎがあってそれからしばらくして私はオロク殿下の執務室に呼ばれた。
「殿下、何か御用でしょうか?」
「おいおいミルフィさん、俺達は婚約者なんだ。そんな他人行儀はやめてくれ」
「いえ、私は殿下と婚約するつもりはありませんので」
「どうして?君の魔力は素晴らしいじゃないか。それに爵位だって元に戻すつもりだよ。君の父は牢から出そうじゃないか。まあ領地はすでに没収されているから王宮貴族として侯爵の地位を授ける事にすれば君はもともと侯爵令嬢だったんだし、私ともつり合いは取れると思うけど」
「いえ、爵位も返して欲しいとは思っておりません。父の事も自業自得です。どうぞそのまま牢に繋いでおいていただいて構いません。そしてこの力はみんなのために使う事に戸惑いもありません。ですが、私の事は私自身で決めたいのです」
「やっぱりそうか。ピュタール国の王子が好きなんだ」
オロク殿下は私を見透かしたようにわざとつんと顔を背ける。
「殿下、彼とはそのような関係ではありません。さっきも申し上げた通りリント様との事はあれが私の本心。彼には彼にふさわしい女性がそばにいるべきだと思っています。私は自分の立場を理解しています。だから殿下の婚約者にもふさわしくないと申し上げているのです」
これだけはっきり言えば殿下も私の事など放って置いてくれるはずよ。
ほんと、もう厄介ごとは勘弁。
「ミルフィ。私は最初は君との事はただの策略だと思っていた。君はこれから教会に聖女と認定されるだろう。聖女との結婚。これが私にとってこの先どれほどプラスになるか。だから君との婚約を決めた。でも、今は気が変わった。ミルフィ君のような人は初めてだ。私が知っている令嬢は美しくても心は虚栄や嫉妬で醜くて嘘や見せかけだけの女だった。なのに君は私には全く興味がないと言う。そんな女性は初めてだ。君のような人こそ心のきれいな清らかな人だと思う。だからこそあんな治癒魔法が使えるんだとも思える。私は君を手放す気はなくなった」
え~勘弁してよ。どうしてそうなる訳?
「そんなのひどすぎです。殿下はリントよりたちが悪いわ。私はあなたなんか大嫌いだって言ってるじゃない!私もう帰ります。これ以上私に構うのはやめて下さい!」
ああ、ほんとに迷惑!!
「そんな勝手が通るとでも?衛兵入れ」
すぐに近衛兵がオロク殿下の執務室に入って来る。
「彼女を拘束しろ!そして私の寝室に連れて行け。今すぐに」
「はい、わかりました」
「殿下。卑怯です。それでも男なの?いや、いやよ。放しなさいよ!もぉ!いやだったら!」
私は声を上げるがそんな事は全く相手にされない。
「ドルト?あなたなの?」
「久しぶりだな」
「助けて、こんなの許される事じゃないわ!」
「はっ?そんな事俺に言われてもな。配置換えで俺は殿下の部下になった。サクルの奴何が子爵だ、あんな貧乏子爵だとは。ッチ!とんだ見当違いだった」
「でも、ドルト。こんなの」
「ったく、いいから早くしろ!」
ドルトは、苛立ちもう一人の近衛兵と一緒に私を連れ出した。
「いや!助けて…」
屈強な男二人に腕を掴まれ口は塞がれ担ぐようにして殿下の私室に連れて行かれた。
私は暴れたので髪を引っ張られたり強く腕を掴まれて皮膚がえぐれた。
結局手足を拘束されてドルトが最後に言った。
「せいぜい、殿下に可愛がってもらえ、俺なら喜んで従うぞ。じゃあな」
「ん”、ん”‥ん”~」
何か言い返したくても口を塞がれていて何も言い返せない。
誰もいない部屋は薄暗く付いて来たオロク殿下の指示で私はベッドに手も足も紐で拘束されていた。
殿下が部屋に入って来てやっと口の拘束を解かれる。
「ミルフィ、素直になってくれ。私と婚約しよう」
「誰があなたなんかと。絶対に嫌!」
「威勢がいいのも今のうちだ。これが何かわかるか?」
オロク殿下は薄笑いを浮かべて小さな小瓶を見せた。
「ふふっ‥これはマクフォール領で取れる催淫剤だ。飲むと身体がどうしようもなく火照って興奮するらしい。一度試してみたかったんだ。今から君に試してみようと思う。初めてを奪えば君も諦めがつくだろう?」
オロク殿下は冷淡な笑みを浮かべて私を見た。
「マクフォール領って‥まさか彼がそんな毒薬を?だからみんなに身体に異変が出たのね。なんて奴!殿下、そんな事をすればただでは済みませんよ。私はあなたに無理やり暴行されたって言いますから」
私はオロク殿下を脅すがすでに彼の瞳にはいやらしい炎が宿っている。
「はっ、ミルフィ。君はただの平民だ。王子である私と君の言う事どちらをみんな信じると思う?」
「卑怯よ!男のくせにそんな真似をするなんて最低よ。このくそ野郎!」
「君ってなんだかぞくぞくするなぁ。雌ひょうみたいでそんな女を組み敷くのは楽しそうだ。さあ、飲むんだ!」
私は暴れるが手足を拘束されているのであっけなく催淫剤を飲まされてしまった。
しばらくすると意識が朦朧として身体が熱くなってきた。息苦しく呼吸も荒くなって行く。
無性にお腹の辺りがじくじくして股間がむずむずする。
私は自由にならない身体で脚を何度も擦り合わせてその熱を何とかしようとし始めた。
「ふっ、どうやら薬の効果が表れ始めたらしい。どう?ここが辛い?」
シャツの上から胸を先を摘ままれる。
「あ、んっ‥」いやらしげな声が出て自分でも驚く。
「さあ、ゆっくり可愛がってあげる。もちろん初めてだろうから優しくするよ」
オロク殿下が私の耳元でそんな事を囁いて背筋が凍るほど恐くなる。
「やめて‥お願い。こんな事、いや!」
殿下が私の上に乗ろうとした時何かが私の前を横切った。
バスッ!くぐもった音がしてオロク殿下がグフッ!と声を上げてベッドから転げ落ちた。
「ミフルィ無事か?クッソ、このくそ野郎。俺のミルフィに何てことを!くそ!くそ!くそ!」
いきなり現れたのはリントだった。
リントは床に転がったオロク殿下を更にぶちのめすと私を抱き上げた。
「もう大丈夫。安心しろ。今から食堂に転移するから俺にしっかりつかまってろ。いいな?」
私はリントの腕にしがみ付いてこくんと頷いた。
一瞬で視界が真っ暗になり身体が揺れた。




