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神ノ箱庭  作者: 黒飛清兎
9/9

9話



 怒涛の速さでクラス分けが終わり、初めは混乱を見せていた生徒達もしばらく経つと少しずつ数が減っていった。

 僕はと言うと、未だに席から立てずにいた。


「…………」

「あのー、すいません、立てないんですけど………」

「…………」

「えっと、避けて貰えませんか?」

「…………」


 見ての通り、草の塊が一向に避けてくれないのだ。

 動く気配もなければ喋ってくれるような気配も無い。

 早く部屋に帰りたいとかそういう訳では無いのだが、ずっとここに残っているというのもあまり居心地のいいものではない。


 今ここに残っているのはなんかちょっと変わった様子の生徒や1番最初の学園長の登場で早々に意識を手放しそのままついぞ帰ってこなくなってしまったもの、そして、元々仲が良かったのか、はたまた今ここで仲良くなったのか、楽しそうにお喋りをしている軍団くらいしか居ない。

 そんな中で残るというのはなんというか気まずいし、あんまり残っていると目をつけられそうで怖い。

 だからこそさっさと帰りたいのだが、草の塊はそれを許してはくれない。


 無理やりどかすか……? いや、けどそれで機嫌を損ねてしまって今後の生活に響くかもしれないし…………。


 チラッと左の方を見てみると、左隣の男神もまだ座ったままのようだ。

 というか、未だに本を読んだままだ。

 こっちはこっちでここまで来るとちょっと怖いんだけど…………。


 そう思いながらも助けを求める目でその男神を見ていると、ついに男神の読んでいる本が1番最後のページに到達する。

 本を1冊読み終わった男神は本を机に置き、グイッと伸びをした。


「いやぁ、いい作品だった、最近の基底世界の書物の質は最高だね」


 伸びを終えた男神は周囲ををキョロキョロと見渡す。


「うーん、早く来すぎちゃったかな、まだ全然集まってないや、それじゃあもう1冊……」


 こ、この神、まさかいままで起こっていたこと一切見ていなかったのか!?

 そう考えてみれば色々辻褄が合う。

 学園長にビビっていなかったことも、僕が隣に座ってもなんの反応もなかったことも、本を読むのに集中していたから……という事なのか?


 僕が呆気にとられていると、男神は机に置いた本を名残惜しそうに撫でてから、今度は懐から別の本を取り出した。


「あ、あのー……」

 

 僕は意を決して声をかける。

 男神はパラリとページをめくりかけた手を止め、ようやくこちらに視線を向けた。


「ん? 何か用?」

「いや、あの……もう式は終わりましたよ?」


 僕の言葉を聞いた男神は、ぱちりと瞬きをした。

 そしてしばしの沈黙。


「………………え?」


 その顔は、まるで寝起きの神が今の時間を把握できない時のように間の抜けた表情だった。


「え、終わった? いやいや、そんな、だってまだ学園長の挨拶も……」

「それ、さっき終わりました」

「………………」


 男神は顔を引きつらせたまま、ぎぎぎ、と視線を広間全体に巡らせた。


「…………本当に?」


 あまりに素直な一言に、僕は苦笑を漏らしてしまう。


「けど、それなら君はなんでまだここに居るんだい?」

「あー、それは……」


 僕は視線を太ももの上の草の塊に移す。


「……これが、退いてくれなくて」

「そうか……じゃあ本当に式は終わってしまっているのか…………そ、そうだ、じゃあクラス分けは?」

「頭の上の紋章がクラス分けみたいです、後で部屋に詳細な情報が届くみたいなので今は皆さん部屋に戻ってるんですよ」


 僕がそう言うと男神は少し思案した後ふわっとした笑みを浮かべた。


「教えてくれてありがとう、僕はアルクスって言うんだ、君の名前は……?」

「えっと、僕はまだ名前とかは無くて……」


 そう言うとアルクスはポンっと手を叩く。


「そうか、どこかで見たことある思ったけど……うん、分かったよ、それじゃあまたクラスで会おう、それじゃあ」


 そう言ってアルクスはさっさと去っていってしまった。


「あっ、ちょっと、この草の塊も何とかしてくださいよ……っ!?」


 僕が叫ぶが、アルクスはもう姿を消してしまっていた。


 「…………はぁ」


 肩を落とし、改めて太ももの上の草の塊を見る。

 正直、どうすればいいのか分からない。無理に押しのけていいのか、それとも勝手にどくのを待つべきなのか。

 とりあえず、恐る恐る指先でちょん、と触れてみた。


 ……ビクッ


 まるで生き物のように草の塊が一瞬だけ震え、ぴたりと動きを止める。

 そのままのしかかってくるわけでも逃げるわけでもなく、ただ、なぜだかじっと僕を見ているような……そんな視線を感じた。

 目なんてないのに。


 思わず息を呑んだその瞬間。


「…………こもれび」


 低くも高くもない、不思議で小さな声が聞こえてきた。

 僕は思わず固まってしまい、言葉を失う。


 草の塊はその一言を残すと、ふわりと浮き上がり、音もなくすうっと広間の出口へと進んでいった。

 まるで最初からそこに居なかったかのように、あっという間に姿を消してしまう。


「……こもれび?」


 もしかしたらあの子の名前なのだろうか?

 よく分からないが、とにかく退いてくれたわけだし、僕もさっさと部屋に戻ろう。

 僕は周りの目につかないようにコソコソっと広間を後にした。

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