8話
8話
それからやや経つと、広間の入口から黒いモヤが入ってくるのが見えた。
あー、これは……………。
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!?!?」
「ば、化け物だっ!?」
「わ、私はまだ死にたくないぃっ!?」
まぁ、そうでしょうね。
完全にホラーですからね。
広間は完全に阿鼻叫喚である。
広間の一番前で話を聞こうとしていた神達は意識を手放していたり、後ろの席に逃げ出そうとしていたりしており、出口に近いところに居る神達は出口から外へと出ようとして教師たちに止められたりしていた。
僕も初めてだったら恐らくこうなっていただろう。
というか、僕の左に座ってるこの男神は全く動じていないな。
まるで今起こっていることを認識していないかの如くまだ黙々と本を読み耽っている。
すごい集中力だ。
それに、この僕の太ももに乗っている……神? も全然動く様子を見せない。
ちょっと僕の周りだけ特殊すぎやしませんかね?
教師たちは生徒たちに落ち着くように言い聞かせているが、どうも手馴れた様子なので毎度同じような事が起こっているという事なのだろう。
学園長本人は別に悪い神でもないし、生徒思いのいい神だからこそ少し可哀想に思う部分もあるけれど、こればっかりはしょうがない。
演説台の前まで歩みを進めた学園長は教師達の尽力によりある程度落ち着きを取り戻した広間に向かって語りかけた。
「……静まれ、我が愛しき子らよ、恐れる必要はない」
学園長のその声が響いた瞬間、ざわめきは潮が引くように薄れていく。
モヤに覆われた学園長の姿は、恐ろしく、見ただけで失神する神が現れても何もおかしくはない。
しかし、その声にはなにか皆の心に響くものがあり、その力により、神々は一瞬にて落ち着きを取り戻した。
「まずは、入学おめでとう。今日、この場に集ったのは運命の導きだ、そなたら一人一人が、新たな歴史を紡ぐ神となる」
学園長はゆっくりと両手を広げる。
その所作には、恐ろしげな外見からは想像できないほどの優雅さがあった。
「力は試練を与え、試練はそなたらを磨く…………だが忘れるな、神は孤独にあらず、共に学び、共に歩むことでしか辿り着けぬ真理がある」
会場にいる神々は、徐々に耳を傾け始めていた。恐怖で震えていた声も止まり、教師たちが安堵の息をつく。
「さあ、新しき門出を祝おう、神々よ、ようこそ我が学び舎へ!」
その言葉と共に、黒いモヤはふっと霧散する。
そして、光が弾け飛び、辺りは煌々と光り輝く星々に包まれたかのような幻想的な空間に早変わりする。
先程までの悲鳴は一瞬にて全て歓声に変わり、逃げ出そうとしていたり生徒が居たなんて嘘かのようにあたりは和やかなムードに包まれていた。
学園長の姿はもうそこにはなく、何らかの手段によってどこかに行ってしまったようだ。
広間に漂う星々の光は、やがて空気に溶けるように薄れていった。
ふわりとした静寂が訪れ、生徒たちは互いに顔を見合わせながらも、まだ興奮冷めやらぬ様子でざわめいている。
その時、演説台に一人の教師が現れた。
白い衣を纏い、細長い杖を手にした神だ。表情は柔らかいが、その佇まいは厳格で、自然と場が引き締まる。
「さて、余興も済んだところで、これより新入生諸君のクラス分けを行う」
広間が再びざわつく。
クラス分け、これで僕の命運は決まる。
ここでもし怖い神が多いクラスに当たってしまえば一巻の終わりだ。
「クラス分けは基本的にランダムに行う。人数と資質の合計値がだいたい同じになるようにわけられるのだが…………」
話している途中で教師が杖を掲げると、広間の天井に幾何学的な魔法陣が浮かび上がった。
淡い光が降り注ぎ、生徒一人一人の身体を透かすように走査していく。
「うわっ、な、なんだこれ……!?」
「身体の奥まで見透かされてる感じがするっ」
生徒たちがざわめき、次々に光の線がその身を包み込む。
やがて、各々の頭上に小さな光の紋章が現れると、教師の声が重なる。
「それぞれの頭上に輝いている光の紋章、それが君たちのクラスとなる」
僕の視線も自然と自分の頭上へと向いた。
そこには、淡い蒼色の紋章が浮かんでいた。
星を象ったような形で、静かに輝いている。
「……へぇ、綺麗だな」
思わず呟いてしまう。
周りを見渡すとどうやら草の塊と男神も僕と同じクラスのようだ。
「では生徒諸君、今日は一旦自分達の部屋に帰ってもらおう、各々の部屋にそのクラスの場所などを記した書類を送る、授業は明日からスタートだ……以上、幸運を祈る」
そう言って教師は去っていった。




