7話
7話
伝えられた場所に向かおうとするが、学園内は思ったよりも迷路のようになっており、想定していたよりもかなりの時間がかかってしまった。
ソフィアさんの助言を聞いておいて良かった。
入学式は学園の中心にある大広間で行われるらしく、かなりの人数を抱えることの出来るスペースがあると聞いていたのだが、僕が着いた頃にはその広間の約三分の二程が埋め尽くされていた。
「こ、これが……神々!」
僕は目を輝かせながら辺りを見渡す。
全身が食べ物でできているものや体から火を吹き出すもの、かっこいい武器を持っているものから光り輝く肉体を持つものなど、誰一人として同じような姿かたちをしたものはいなかった。
神はその神を成すための概念に容姿や性格などが引っ張られるため、このような多様性のある見た目となるのだ。
僕はとりあえず入学式を受けるために空いてる席を探す。
1番前の席や端っこの席などは早くに来た他の生徒に取られていて埋まってしまっている。
自意識過剰かもしれないが、先程から周りからチラチラ見られているような気もするのでできるだけ目立たないところに座りたい。
僕が選んだのは広間の正面から見て右奥のできるだけ端っこの席だ。
そして、隣に居るのは少し大人しそうな本を読んでいる男神だ、隣に座った程度で絡んでくるような神には見えないのできっとおそらく大丈夫だろう。
うん、怖いものは怖いからね。
僕が男神の横に座るも、男神はちらりともこちらを見ずに黙々と本を読み続けている。
怖い神じゃ無かったことに安堵するが、まだ完全に安心することは出来ない。
何故なら、まだ僕の右側の席は空席であり、そこにどんな神が来るか分からないからだ。
ドキドキしながら怖い神が来ないように、なんなら誰も僕の隣に座らないように願いながらいちゃもんをつけられないように誰とも目が合わないよう広間の正面にある演説台のようなところを眺めて時間を過ごしていた。
すると、右側で何かが動いていることが分かる……誰かが座ったようだ。
……うぅ、嫌だな、争わなければいいとは聞いてるけど、変に目をつけられたらどんな酷い目にあうか分からないから何としてでも目をつけられないようにしなくてわ…………。
怖がりながらもチラッと右側の席に視線を移した僕はギョッとしてしまった。
「…………え、なにこれ、草の塊……?」
僕の隣に座って(置かれて?)いたのは直径50cm程の草の塊だった。
草の塊ではあるが汚い感じは一切せず、綺麗な塊だった(?)
強い恐怖を感じていた僕は拍子抜けして思わずその草の塊をまじまじと見つめてしまう。
…………って待って、もしかするとこれも神なのか!?
僕はもしや今とんでもない事をしているのではないかと思い冷や汗が吹き出してくる。
他の神から目をつけられないように大人しくしようとしていたのにも関わらず、僕は今神?をまじまじと見つめてしまっている。
これは紛れもなく目をつけられる行為なのでは無いか!?
僕は壊れた機械のように角張った動きで先程までと同じように演説台に視線を戻す。
これはかなりまずいかもしれないぞ。
見た目はただの草の塊にしか見えないけれど、見た目だけが全てという訳では無い。
凄く小さな神だとしても、内包している力がとてつもないなんてこともよくあるらしいし、油断するなとメモラさんに散々言われていたのに僕ってやつは本当に…………。
「っ!?」
必死に目線を逸らしていると、僕の膝元にわさぁという感触が広がる。
何が起こっているのか分からずプチパニックになるが、また目線を向けていいものかと思いその正体を確かめることが出来ない。
恐怖が身を包む。
もしかするとあれだろうか、何ガンつけとんねんわれぇ!? って事ですかっ!?
わさぁという感触は僕の右膝から少しずつ僕太ももの中央へと向かってゆき、最終的には僕のお腹から膝にかけてをその感触で覆うことになった。
もしかしなくてもこれは太ももの上に乗られてますね、終わりましたありがとうございました。
これから起こるであろう恐ろしい事にビクビクしながら沙汰を待っているも、何も起きない。
あの、すみません、殺るなら早くしてください、怖いです。
「…………?」
それにしても何も起きないので恐る恐る視線を下に移すと、そこには先程まで横に居た草の塊がちょこーんと僕の太ももの上に乗っかっている。
そこで僕は察した。
…………これ、机で前が見えないから上に乗ってるだけじゃね? と。
な、なぁんだ、怖がること無かったじゃないか、メモラさんに散々脅されていたのもあって少しびくびくしすぎてしまっていたかもしれないな。
それによく考えたら争うことが出来ないのだからそんな殺られる事なんて無いじゃないか、はは、は……。
そうやって見たらなんだかこの子も可愛く見えてきたぞ?
……よし、話しかけてみよう。
「え、えっと……君、どうしたのかな?」
「…………」
無視ですか、そうですか。
まぁ、変に目をつけられた訳じゃなさそうだしよかったよかった。
ほっとして胸を撫で下ろしながら僕はもう一度演説台に視線を移す。
願わくば、早くこの入学式が終わる事を願って。




