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神ノ箱庭  作者: 黒飛清兎
6/9

6話


 メモラさんから授業を受けたり部屋の家具を作ったりしていると、時間はあっとゆう間に進み、気がつけば入学式の日になっていた。

 入学式まではまだ少し時間あるのでそれまで部屋で待機していると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。


「…………居るか?」

「あ、はい、入ってきても大丈夫ですよ!」


 この声はソフィアさんだ。

 もしかして箱庭の検査が終わったのだろうか?

 これで普通に箱庭の不具合があったとかだったらよいのだけれど……。


「お邪魔しま……って、教室?」


 ソフィアさんは僕の部屋に入るなり訝しげに周りを見渡した。

 一般的に教室というのは落ち着ける場所ではないし、その反応はおかしくは無いだろう。

 

「まぁいい、とりあえずお前の箱庭の件だ」


 ……ついにこの時が来てしまった。

 箱庭が帰ってくるまではまだ等級が0だと確定したわけではない、少し屁理屈のようにはなってしまうがそうなのだ。

 だけど、ここでまた0だと言われてしまえば、僕の箱庭にはなんの不具合も無く、どうやってもお前の等級は0なんだと言われるのと同じなのだ。

 僕はドキドキしながらも不具合があることを願いながらソフィアさんを迎えた。


「…………」

「ソフィアさん?」


 僕が話しかけると、ソフィアは突然手を目に当てた。


「…………すまない、私が不甲斐ないばっかりに」


 その反応を見ると、自ずと結果は理解出来てしまう。

 

「そうですか、ダメだったんですね」


 ソフィアさんはこくりと頷く。


 まぁ、だろうとは思っていた、というか今まで不具合なんか起こったことの無かったという箱庭にいきなり不具合が起こるなんて事は普通に考えれば有り得ないのだ。

 心構えがあったためダメージは少ないが、それでも少しの落胆はある。


「そうですか、大丈夫です、ソフィアさんのせいじゃ無いですから」

「そう言ってくれると助かるよ…………本当にすまない」


 本当にソフィアさんは何も悪くないのにこうやって何度も謝ってくれることから、ソフィアさんがどれだけ真面目で優しい人なのか分かる。


「……学園長から話は聞いた、君が頑張るのなら私達はちゃんとそのフォローはする、教師としてな」

「わかりました、ありがとうございます」


 この部屋を作ることが出来ているという時点で少なくとも多少の力はあるのだ、それがほかの神と比べてどれだけ小さくても、努力をする事は出来るはずだ。

 メモラさんやソフィアさんみたいな教師が居るのなら、もし僕がすぐに消えてしまう存在なのだとしても頑張れそうだ。


「さて、そろそろ式の時間だ、まだ時間に余裕があるとはいえ、君はまだここに慣れていないだろう、早めに出ておくといい」

「そうですね、もうそろそろ出ようかと思います!」

「あぁ、そうするといい、それじゃあ私も式の準備があるからここまでにするよ……元気でな」

「はい!」


 終始顔を手で隠しながらも最後にはキリッとした口調でソフィアさんは僕に別れを告げた。


 また1人になった部屋で、僕は椅子に座って考える。


「入学式……か」


 これからの学園生活、恐らく僕にとっては非常に厳しいものとなるだろう。

 これまでの授業でメモラさんは学園は簡単に言えば弱肉強食の世界で、弱いものはいじめられる可能性が高いという事を再三教えてくれた。

 本来ならそこに普通に入学なんてしようものならどんな酷い目にあうかどうか分からない。

 ただ、それでも入学するのなら、ある程度は生き抜く方法がある。


 それは誰とも戦わないという事だ。

 神々は呪いによって神々同士が直接争うことは出来ない。

 しかし、箱庭はその限りでは無い。

 箱庭と箱庭を結合させ、その中の住人同士を争わせることにより戦うことが可能なのだ。


 その箱庭同士を戦わせることを神々は、()()()()と呼ぶ。


 箱庭同士が戦えばほぼ必ずその箱庭は疲弊し、神へと流れる力も減少する。

 そこだけを聞けばデメリットかもしれないが、実際は大きなメリットがある。

 それは、略奪だ。 

 相手の箱庭から様々なものを奪うことにより、相手の箱庭と争うことによって自分の箱庭には無かったものや不足していた資源や土地が潤ったり、住人に戦闘経験を積ませることが出来るなど、箱庭がリセットされるまでの間だけでは到底成長出来ない程の強化をすることができるようになるのだ。


 なので、神々は積極的に箱庭同士を争わせ、相手から力を奪うのだ。

 箱庭は一定期間でリセットされるからこそ出来る行為でもある。


 箱庭遊戯はメリットの多い行為ではあるが、僕みたいな弱い神からすればそんなもの無いに等しい。

 どうやっても勝つことが出来ないのだから戦ってもしょうがない、むしろ負けて奪われるものの方が多い。

 だから、戦わない方が良いのだ。

 幸いな事に、箱庭遊戯は基本的に双方の同意がない限り始められないので、徹底的に誘いにのらないようにしていれば最低限箱庭を維持することはできる。

 僕が消えてしまわないためにはそうするしか無いだろうとの事だ。


「本当に大丈夫なのかな…………」


 不安は尽きない、だけどもうここまで来たのだから頑張るしかない……か。

 勢いをつけて椅子から立ち上がる。

 頬をぱんっと叩いて僕は歩き出した。


「行くか……入学式!」

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