5話
学園長の部屋から出た僕たちは長い回廊をゆっくりと歩いていた。
僕の啖呵を聞いてからメモラさんは特にその事については触れなかった。
その代わりにか、メモラさんは本来の等級と資質について教えてくれた。
箱庭には五つの資質がある。
新たな物を生み出す事に長ける『創造』
真摯に働き、熱心に祈りを捧げる『勤勉』
他者と繋がり、世界を広げる『外交』
一致団結し物事に挑む『協調』
力を用いて全てを屈服させる『情動』
この五つの資質がその神の箱庭の住人や地形などに大きな影響を与えるのだ。
また、少なからずその資質は神そのものの性格にも影響を与える。
そして、その資質の中で1番高い数値のものが等級になるらしい。
僕の等級は0なので勿論すべての資質が0になる。
つまり、そこにどんな住人が住み、どんなに地形が生成されるか検討もつかないという訳だ。
僕みたいな例は前代未聞らしく、基本的に資質や等級が0になることはありえないらしい。
なので、不具合でないかどうかを調べると同時に、何か危険な事が怒ったりしないかどうかもソフィアさんが調べてくれているみたいだ。
「それで、これからどうするかだね、本来だったらもう等級が分かったらすぐに箱庭を使ってみるんだけど、ソフィアの方がまだちょっとかかりそうだし…………お勉強でもする」
「はい!」
「えー…………」
僕が元気よく答えるとメモラさんは面倒くさそうにそう言った。
おい、それでも『教育』の女神なのか。
鑑定の時に資質の説明をしていなかったり、今の面倒くさそうな態度といい、本当に大丈夫なのか少し不安になる。
「あ、そうだ、部屋! 部屋に案内するよ!」
「えっと、勉強は……?」
「そんなのあとあと!」
「えぇ……」
なんだかとても不安になるが、現状頼れるのはメモらさんだけな為仕方がなく着いてゆく。
メモラさんは少し早足で進んでいき、ある一つの扉の前で立ち止まった。
そして、僕の方を向きニヤリと笑い、ドアノブに手をかけた。
「さてさて、君の部屋はどんな部屋なのかなぁっ!」
メモラさんはこれまでで1番楽しそうに扉を開ける。
なんでそれほどまでに楽しそうなのかは分からないけれど、僕も自分の部屋がどんなものなのかは気になるのでメモラさんの後ろから自分の部屋を覗いた。
「あれ、これが僕の部屋ですか?」
僕は部屋の中を覗いて不思議に思った。
何故なら、その部屋にはベットや収納などがなく、その代わりに大きな黒板や机などが並べられている…………どう見ても教室にしか見えない部屋だったからだ。それも、つい先程まで僕がメモラさんから授業を受けていた部屋そっくりだったのだ。
それだけならメモラさんが部屋を間違えてさっきの教室に戻ってきてしまったのかと思うかもしれないが、この部屋には教室との明白な違いがあった。
「…………って事なの、分かったかな?」
黒板の前で1人の女神が教鞭を執っている。
その姿は僕にとってとても見覚えのあるものである、そう……メモラさんだ。
「なっ、何でメモラさんが二人も!?」
「…………あはは、これ、私が説明しなきゃダメなやつか……」
驚いてメモラさんに問いかけるが、メモラさんは顔を少し赤くしてうんうんと唸っている。
この様子を見るに多分こっちが本物なのだろう。
「うんとね、まず、神が住む部屋っていうのはその神の力によって好きな様に変えることが出来るの、だからそこに住む神によって色んな部屋になってくれるんだよね」
「そうなんですね、けど、僕はまだ何もやってないですよ?」
好きな様に変えられるとは言っても僕はまだ何もしてないわけで、こんな部屋になっている理由にはならない。
僕が質問をすると、メモラさんはさらに困ったように唸った。
何故そんなに困っているのか分からずにただ首を傾げていると、メモラさんは観念したように話し始めた。
「はぁ、分かったよ、えっと、神の部屋っていうのは変えようとしなくてもある程度無意識でも作られるものなんだよね、だからその…………」
少しそっぽを向きながらメモラさんは話す。
「自分の好きな人とかが生まれたりしやすいんだよね……あはは、私って罪な女神だなぁ」
「…………」
そういう事か。
メモラさんが言い淀んでいたのは自分から君は私の事が好きなんだよと言うのに抵抗があった、という訳だ。
しかし、話を聞く限りだと、どうも僕はそうじゃない気がした。
「メモラさん」
「ちょ、待って待って、告白はもっとロマンチックな所でしようよ!? それにちょっと早すぎるというか……」
「いや、そうじゃなくて……僕、この前生まれたばかりでその中で1番長い時を過ごしたがこの教室でメモラさんに授業を受けていた時間だからこんな感じの部屋になっているんじゃないんですか?」
「……へ?」
別にメモラさんが嫌いな訳では無いし、むしろ好きな方ではあるが、無意識下で生み出してしまうほどだとは思えない。
そうなれば、僕が行ったことのある何個かの部屋の中でもまだ安心出来る部類にある教室が生成されるのは自然な事だろう。
僕のその発言を聞いてメモラさんは僕が生成したメモラさんをグイッと端に押しのけて黒板の前にたった。
「よ、よし、授業やるよ!」
「…………はい」
ちょっと可愛い。




