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神ノ箱庭  作者: 黒飛清兎
4/9

4話


 目の前に迫る謎の存在、確かめようとしても蜃気楼の様に揺れ、その容貌を捉えることはできない。

 それでも何とか表現するとすれば、闇、無、空、そう表現するのが正しいだろう。


 うん、怖い。


 ガチホラーなんですけど、え、これが学園長なの!? それとも、なんかすごい怖い存在が攻めてきて学園長に成り代わってその存在を感知できるのが僕だけとかなんかそういうことなの!?

 いや、無理無理無理、意思とかなんとか聞かれたけど怖すぎて声出ないんですけど!?


「……ヒョァ」

「学園長、怖がってます、やめてあげてください」

「……うむ、すまん」


 メモラさんの進言で学園長は元いた位置まで下がっていく。

 あー、なんだかメモラさんが女神のようにみえる……いや、実際そうか。

 メモラさんは笑みを浮かべながら僕に説明してくれた。


「学園長は不正防止の為に自分が何の神なのか他の神に悟られないようにあぁやって存在を隠してるんだよ、だけどまぁそんな存在と話したりしたら少なくとも怖いよね……私もちょっと怖いし」

「そ、そうなんですね」


 ほんの少しだけ安心した。怖いのには変わりないが、その話を無言で聞いている学園長から少し悲しそうな感じがしたので、なんだかちょっとそれも薄れてくれた。


「それで、僕の意思ってどういうことですか?」

「ふむ、聞いていないのか? このまま普通に学校に通えばもしかしたら他の生徒たちから嫌がらせを受けるかもしれないというのは分かるな?」

「…………はい」

「もし、君が望むのならばその生徒たちとは一緒には授業を受けずに、一人で別の場所で受けさせる事も出来るという話だ」


 僕の等級は0であり、もしこの事がバレれば周りの神達から虐められてしまうかもしれない。

 神の地位というのはやはりその力によって決まってしまうところも大きい。

 等級0というのは最弱の神であるという事に等しく、その地位が低いものとなってしまうのはほぼ確実だろう。

 確かに別の場所で授業を受ければそういう事にはならないだろう。

 だけど…………。


「学園長、他に別の場所で授業を受けてる人って居るんですか?」

「いや、居らぬな、君が特例中の特例というだけであって基本的には全員クラス分けをさせ、ある程度の人数で学んでもらう」

「そうなんですか、だったら……」


 僕は手をぐっと力強く握りしめる。


「僕も、そのクラスに普通に入れてください、特別扱いは結構です」

「えっ!?」

「……ほぅ、理由を聞かせてくれるか?」


 メモラさんは驚き、学園長は興味深そうに理由を聞いてきた。


「僕だけ特別扱いしてもらうわけにはいきませんよ、みんな、等級が低い神も高い神もみんなが必死に力をつけようとして学んでいる中で、僕だけが良い待遇を受けるなんてのは平等じゃないじゃないですか。」


 怖いものは怖い。

 周りは全員僕よりも強い神ばかりだろうし、そんな神達が徒党を組んで僕のことをいじめてきたらまず間違いなく跳ね除けられない。

 弱い神はいずれ消えてしまうため、助ける意味も無いため、誰も助けてくれないだろう。


 だけど、だからこそ、僕は特別扱いを受ける訳にはいかない。

 強い神だって強い神なりの悩みがある、みんな精一杯学んでいるのだ。

 そこに入ることすらせずに温室の中で学び続けるなんてことをすれば、それは土俵に立つことすら諦めるという事に相違ない。


 それに、特別扱いをすると言うのは僕のことを大事に扱っている、ということではない。

 時期に消えてしまうことが分かっているのだから、それまでせめて辛い思いをせずにさせてあげようという同情からくる行動だ。

 もちろん、心配からくる行動でもあるのだろうけど、その動機は間違いなくあるはずだ。


 弱い新神である僕が言うことでは無いとは思う。

 それでも、僕はそんな事されるのは嫌なんだ。


 僕は決意を込めて学園長を見つめる。


「言いたいことはわかるけど……多分本当に辛いと思う。入学してくる神達も生まれてまもないから人の事を思いやるとかそういう事が出来ない子たちだっていっぱいいるんだよ? そうしたら…………」

「よい、メモラ、それはもうその子の為にはならん」

「で、でも…………」


 メモラさんは言葉を続けようとするが、学園長に制され、苦虫を噛み潰したような顔をしながら黙りこくる。

 学園長は静寂の中、僕のことをじっと見つめる。


「ふっ、なかなかいい目をするじゃないか、やはりなにかの間違いではないのか? こんなことを言える神がそんなに等級が低いとは思えないぞ」


 あれ、コレは褒められているのだろうか。

 分からないけど、少なくとも学園長の言葉は僕への同情から来ている言葉では無いように感じる。


「わかった、ならば君を我が学園に入学させよう!」

「っ! 本当ですか?」

「あぁ、というかそれが普通だからな、君が望まないのならば強制することもなかろう」


 そういえばそうだな、よく良く考えれば別に強制的に特別扱いされるなんて最初から言っていなかった。

 ……うぅん、なんだか今更ながら恥ずかしくなってきたぞ?


 何はともあれ、学園への入学が決まった事に僕は安堵するのであった。

 

 


 


 

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