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神ノ箱庭  作者: 黒飛清兎
3/9

3話


「0……ですか?」


 一瞬にして青ざめる僕を見て、メモラさんが慌てて僕の前に出る。


「ちょ、ちょっとソフィア、冗談キツイって、0なんて見たことも聞いたことも無いよ…………そ、そうだ、実はまだ等級は測れていないとかじゃない? ほら、等級が分からなければ資質も分からないわけだし!」


 メモラさんの慌てようからも明らかに不味いことが起こっているということが察せてしまい、ますます僕の顔は青くなっていく。


「と、とりあえず鏡は隠して!」

「そ、そうだな」


 そういうと2人はそそくさと辺りの鏡に布をかけていく。

 何をやっているのか分からないが、今はそれどころではない。

 等級の数字が大きければ大きいほど強い訳だから、それが0の僕は最下層、1番弱いって事だろう。

 自分が何の神なのかも分かってない上、更に等級まで弱いときた。


 とりあえず辞世の句を読んでおかなくては…………。


「どどど、どうしよう、こんな変な結果出しちゃって……絶対この仕事降ろされちゃう……め、メモラ助けてぇ!?」

「はぁ、ちょっと落ち着きなさいよ、今はそんなことよりも新神くんの事の方が大事でしょ!? たとえ弱くて消えちゃう運命にあったとしても、それまで精一杯生きれるようにするのが私達の仕事じゃないの!?」

「うぅ……うん」


 ソフィアさんは涙目になりながらメモラさんに泣きついている。

 きゃ、キャラ崩壊が凄い…………。


 だが、そのお陰で逆に僕は少し冷静になれた。

 たとえ僕がどれだけ弱い神だったとしても、何もせずに消えてしまうというのは嫌だ。

 メモラさんの言う通り、消えるまで精一杯抗ってやる。


「ソフィア、とりあえず後で部屋行くからさ、落ち込むのはその時で、今は早急に対処するよ」

「……うん」


 ソフィアさんは小さく返事をすると、涙を拭い、パチンと頬を叩いた。


「ふぅ、すまない、見苦しい所を見せた」


 ソフィアは『知恵』の神らしい凛とした顔で謝る。

 この切り替えの速さはなんというかすごいと思う。


「私は箱庭になにかおかしい所がないか調べる、一旦預からせてもらってもいいか?」

「はい、けど僕箱庭なんて持ってませんよ?」


 存在だけなら説明を受けているため知っているが、実際に実物を見たことは無い。勿論自分の箱庭もどこにあるのかも分からない。


「ああそっか、教えてなかったね」


 メモラさんは机上を指さす。


「これだよ、この板が箱庭なの」

「えっ、これが?」


 思いもよらないその姿に素っ頓狂な反応をしてしまう。

 まさかこの板が箱庭だったとは、てっきり鑑定をするための道具かなにかだと思っていた。

 聞いていた限りでは箱庭っていうのはひとつの世界の様なもので、その中には知的生命体とかが住んでるって話だった。

 この中にそんな大規模な世界が広がっているようには思えない。


「あぁ、勿論この中に世界が広がっている訳では無いよ? この板は言ってみれば箱庭に繋がる入口みたいなものなの」


 そう言いながらメモラさんは自分の指に付いている指輪を指さす。


「ちなみに、箱庭は所有者の好きなように姿形を変えられるから、基本的にみんな装飾品の形にして身につけたりしてるわ、だけど、君の箱庭は……ちょっと問題があるみたいだからソフィアに預けて欲しいんだけど、良いかな?」

「も、勿論です!」


 僕は二つ返事で了承する。

 断る理由もないし、もしなにかの不具合で表示がおかしくなっていて居たとすればまだマシな等級になる可能性だってあるかもしれない。

 …………まぁ、無いだろうけど。


「それじゃ、とりあえず私たちは学園長の所に行こうか」

「が、学園長?」


 まさか弱すぎて入学できないとか、変なこと起こす前にさっさと消されるとか、そういうことじゃないよね?

 僕の不安を他所にメモラさんは早足で僕を廊下に連れていった。

 説明が欲しいところだけど、きっと僕のために動いてくれているのだろうし、悪いようにはならないと思う、そう信じたい。


 鑑定の間からそこまで離れていない場所でメモラさんは立ち止まった。

 目の前にある扉は黄金の装飾が施された重厚感のあるもので、その中に居る神の威厳を物語るような物々しい雰囲気を醸し出していた。


 メモラさんが扉をノックすると、扉の奥から男性とも女性ともとれ、なおかつ低くもあり高くもある、そんな不思議な声が聞こえてくる。


「……入れ」


 その言葉を聞くとメモラさんは「じゃ、入ろっか」と言って扉を開く。

 扉の先にいるであろう神を見ようとして、僕は仰天した。

 扉の先には誰かが居るように見えるのに、そこに誰が居るのか分からないような意味のわからないものがあった。

 メモラさんはそんな様子を見てもビクともせずに事情を説明しようとする。

  

「よい、ソフィアから事の顛末は聞いている」

「そうですか……じゃあ!」

「まぁ、待て、事を決めるにはまだ早い、まずは………」


 謎の存在が少しずつ僕の元へと近づいてくる。

 僕は思わず後ずさりしてしまう。


「……まずは、君の意思を聞こう、君はこれからどうしたい?」

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