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神ノ箱庭  作者: 黒飛清兎
2/9

2話


 長い回廊を抜け、迷路のような校舎の中を通り過ぎ、僕達はこの校舎で見た中で1番豪華に見える扉の前に立っていた。


「ここが鑑定の間よ、入学前の神はここで色々と鑑定するの」

「色々と?」

「あーうん、まぁ、とりあえず一旦入りましょ?」

「は、はい」


 なんだか含みのある言い方だったが、なんなのだろう?

 考えても仕方がないので、僕は意を決してドアノブに手をかける。


「あ、ちょっと待って!?」

「っ! なんですかびっくりしたぁ!」

「いやぁ、えっとね、最後に一つだけ言っておかなきゃ行けないことがあるんだ」


 女神は僕の耳に顔を近づけて少し小声で……いや、普通の大きさの声で呟いた。


「えっと、今日鑑定してくれる『知識』の神なんだけどさ……ちょっと堅物というか頑固というか融通が効かないというか…………そう、ちょっと厳しい人なのよ、だから……」


 説明を終える前にその声は扉の向こうから聞こえてくる声に遮られる。

 

「…………誰が厳しい人だ、聞こえているぞ」

「うわぁ、地獄耳!」

「…………お前ら、早く入ってこい」

「は、はい」


 促されるままにドアノブを引く。


 扉を開けると、そこには荘厳な空間が広がっていた。

 壁一面に本棚が立ち並び、ぎっしりと書物が詰め込まれている。時折、光の粒が舞い上がり、無数の鏡のようなものがまるで意思を持つかのように空中を漂っていた。

 中央には黒色の光沢のある机。その横の椅子に腰掛けているのは、金髪を持つ長身の人物だった。性別は判別しにくいほど中性的で、その瞳は澄んだ琥珀色に光っている。

 その神は顔を上げ、じっと僕を見つめた。


「君は……メモラが言っていた新神か」

「メモラ?」


 僕が不思議そうにしていると、先程から一緒に居る『教育』の女神がちょいちょいと自分の事を指す。


「言ってなかったね、私がメモラ、んでそっちの厳し……見目麗しい神様がソフィアだよ」

「……そうだ」

「そーだ、ソフィア、この子なんの神かわかる?」


 メモラさんが僕の背中を押してソフィアさんの元に押し出す。

 ソフィアさんは立ち上がり、僕の周りをぐるぐると回って僕のからだを観察する。


「…………うむ、すまない、私にも分からないな、早急に判別するべきなのだが、申し訳ない」

「い、いえ、お気になさらず」

「せめてと言ってはなんだが、鑑定はしっかりやらせてもらおう……それで、君は等級と資質を鑑定しに来たって事で良いのかな?」

「…………た、多分?」


 聞き覚えのない言葉が出てきて僕は少し言い淀む。


「はぁ、メモラ、お前…………」


 ソフィアさんが睨むとメモラさんは慌てて僕の後ろに隠れ、僕の背中を押す。


「うん、等級と資質ね! お願い!」

「はぁー、メモラ、後で一人で私の部屋に来い」


 メモラさんは顔を引き攣らせる。

 多分僕のせいで説教かなにかされてしまうのだろう、申し訳ないが、僕が止めることは出来ない。怖いし。

 ソフィアさんはため息をつきながらも机の上に白金色に輝く板を乗せ僕を手招く。


「どこまで教えて貰ってるのか分からないが、まぁとりあえずは鑑定してから必要なものだけ教えよう、あとはそこで縮こまってる奴から聞いておけ」

「は、はい」


 手招かれるままにソフィアさんと机を介して反対側に立つ。

 ソフィアさんは机の上の板を触りながら何かを唱える。

 僕はごくりと唾を飲み込み沙汰を待った。


「まぁ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ、見た感じある程度の知能があるみたいだし、そこまで酷い結果になることは無いだろう」

「そうだといいのですが…………」


 基本的に神の等級はその神の力によって左右される。

 力と言っても単なる戦闘能力という訳で無く、様々な分野の能力を全てひとまとめにして力と呼んでいる。

 その為、生まれた時からある程度の知能がある僕も少なくとも多少の力は持っていると考えられるわけだ。


 なんというか、生まれたばかりの僕からすれば僕の知能が特段高いようには感じないのだが、そう感じる時点である程度の知能はあるとの事だ。

 不安は募るが、今はこれを信じる他無い。


 なおも不安そうにする僕を見てソフィアさんは少し笑い、「はじめるぞ」と一言言ってから視線を机上の板へと向ける。

 板が眩い輝きを放ち、辺り一帯を包み込み、僕は思わず目を瞑ってしまう。

 輝きが治まるとソフィアさんがやっと口を開く。


「さて、君の等級が出たみたいだ」


 緊張しながらその様子を見ていると、突然、ソフィアさんのキリッとした表情が崩れる。

 

「…………」

「ど、どうかしたんですか……?」

「いや、えっと、そうだな……」


 少し言い淀みなからも、ソフィアさんは意を決して言葉を発する。


「君の等級は…………0だ」


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