第三章:第五話
人質となって約一時間。
零にはどのように事態が回っているのかが全く分からなかった。
侵入者らのリーダーらしき男は人質には聞こえない大きさの声で部下に指示を出している。
その内容が重要なのだろうが、フルフェイスマスクをかぶっているため唇を読むこともできない。
「くそっ。」
自ら人質となったもののなんの情報も得ることができず、無力な自分自身に腹を立てる。
何かできないかあたりを見わたす。
しかし、何もない。
あるのは普段通り煌めく照明、青々と茂る植物たち、来た時には美しく見えた噴水のみだった。
珠威に師事して多くのことを学び、自身の中身が変わったと思っていたが、このような状況で何もできない。
きっと珠威なら何かをなすはずなのに...
そう思いながら、焦燥感に駆られながら、結局何もできず時間は過ぎていった。
*
警察隊の対応は迅速だった。
珠威の通報から五分もたたずに第一陣が到着し、ショッピングモールを封鎖。
そして直接侵入者たちとの接触を図ったのだ。
「あー、あー、侵入者諸君に告ぐ。今すぐ武器を捨てて投降しなさい。
今すぐ投降すれば我々は実力行使に出ることをしない。」
そうメガホンで呼びかけるが、侵入者らの返答は全く相容れないものだった。
「警官諸君へ。我々は帝国派団体『銅翼の会』である。
我々の目的は諸君に帝国への航空機を手配させることだ。もし手配できなければこの人質の命はないと思え。
今から二時間以内の返答を要求する。五分すぎるたびに一人ずつ人質を殺していく。
以上だ。」
帝国派団体の話は最近よく聞く。
過激さが年々増しており、しょっちゅうニュースで流れている。
この帝国と言うのは、明確にいつ成立したかは分かっていないがアフリカ大陸全土を治める国の事である。
その豊富な資源を用いて世界征服をもくろんでおり、世界中にスパイやテロリストを派遣している。
帝国派団体は、これらのスパイが日本国内で帝国の世界征服に賛同する人間を増やすことを目的とした団体のことである。
要求の内容から警察は侵入者らが帝国から来たスパイで、本国へ帰還するための手段を目的として今回の事件を起こしたと考えている。
インターネット技術の発展した現代、国をまるまる覆うようなジャマ―を張ることも可能なわけで、帝国がスパイを派遣しても得た情報が本国へ渡らない。
そのためどうにかして帰還手段を探し出さなくてはならない。
当然侵入者たちが重要な情報を得ている可能性が高いため、警察は彼らの要求を呑むつもりはゼロだった。
この状況を打開する策はこれっぽっちも浮かんでいなかったが...




