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第5章:お披露目の夜、崩れゆく仮面

この物語を読んでくださり、ありがとうございます!

 王宮最大の舞踏会場。黄金のシャンデリアがきらめき、絢爛な音楽と香の匂いが空間を満たしていた。

 国王主催のこの夜会は、「第2王子・レオンハルト殿下の新婚約者お披露目」として、数ヶ月前から国内外に告知されていた。

 ──そして今宵、ついにその幕が上がる。

「殿下のお相手は……イリーナ・グレイス嬢。学園でも生徒会活動に熱心で、王子殿下を陰から支えてこられた才女とのことです」

 進行役の言葉に、場内の一角で小さく拍手が起こる。

 王妃が満面の笑みを浮かべ、王子の隣で控えるイリーナも、少し過剰なほどにドレスを揺らし、頭を下げた。

「イリーナ様、まるで本物の王族みたい……」

「まあ、王妃さまの後押しもあるから、将来的には妃の座も……」

 一部の噂好きな貴婦人たちが囁き合う。

 ──だが、その時だった。

「おや……あれは……?」

 入り口の扉が開き、案内の声が響く。

「ルヴィア公国より、次期公爵カイル・リュグナー閣下並びに、婚約者・リュシエル・フェルナンデス嬢のご入場です──!」

 会場が凍りついた。

「ルヴィア公国……? あのルヴィア!? 隣国で、王族の血を引く次期公爵の……」

「ちょ、ちょっと待って! 婚約者って言った!? 誰が!? 今……なんて言った!?」

「フェルナンデス嬢……? まさか……あの……!!」

 振り返ったその先にいたのは、黄金の刺繍を施した深紅のドレスを纏い、まばゆいばかりの笑みをたたえる一人の令嬢だった。

 ──リュシエル・フェルナンデス。

 その隣に立つのは、次期公爵カイル。落ち着いた態度でリュシエルの手を取り、堂々とした足取りで舞踏会場の中央へと進む。

「まるで……舞台の主人公のようだわ……」

 誰かがぽつりとつぶやいた。

 イリーナの顔が、引きつる。

「な……どうして……? どうしてあの女が……!」

 彼女の必死の問いに答える者は誰もいない。

 リュシエルは、微笑みを浮かべたまま王族の面々の前に立ち、深く一礼した。

「お招きにあずかり、感謝いたします。リュシエル・フェルナンデスです」

 王妃の唇がわずかに震えた。王子は拳を強く握り締めている。

 ──そこへ、次なる来賓たちが口火を切る。

「フェルナンデス嬢、次回の航路交渉の際は、ぜひ我が国へもご助力を」

「外交の要職に就くご両親のご令嬢とあれば、これほど心強いご縁はありませんな」

「お噂以上に聡明な方だと、ルヴィアから聞き及んでおります」

 次々と声をかけてくるのは、各国の有力貴族たち。王族や高官たちまでが、次々とリュシエルに挨拶と談笑を交わしに来る。

 ──だが、その誰一人として、王子にもイリーナにも近づこうとはしなかった。

「……どういうことだ」

 王子が唇を噛みしめてつぶやく。

「どうして、あんな……!」

 その時、リュシエルが一歩前に出た。

「そういえば、殿下。以前婚約破棄の理由について、私が怠惰で礼を欠いているとということでしたわね。その件については謝罪を申し上げなければなりませんわ」

「……謝罪……?」

「ええ。いくら不本意とはいえ、婚約者となった以上、私の立場をご理解いただけていると信じておりましたの。まさか全く理解しておられないなんて思っておりませんでしたわ。申し訳ございません。私、殿下の婚約者として幼き頃より他国との外交に力をいれてまいりました。そのために両親の外交の手伝いで学園を休みがちでしたが、それを怠惰だと思われていたなんて不徳の致すところでしたわ」

 にっこりと、嫌味のように笑う。

「もっとも、私の今の婚約者は、私を理解してくれておりますので、私幸せですの。このドレスも彼からの贈り物ですのよ。これもすべて殿下が婚約破棄をしてくださったおかげですわ。感謝申し上げます」

 レオンハルトはぐっと息を呑み、言葉を返せない。

「ですから、殿下、そしてイリーナ様、心から婚約お祝い申し上げます」

 リュシエルはにっこり笑い、美しい礼をみせた。

 その横で、イリーナが震える声で叫んだ。

「私、私は……リュシエル様に助けていただいたことを感謝して……っ、でも、事実を言っただけですの!」

「“親友”として、でしょう?」

 リュシエルは冷たく笑った。

「あなたが誰よりも、私を陥れるために動いていたこと……他の皆様は気づかれていると思いますよ」

 視線が会場を走る。

 貴族たちの多くが、イリーナからそっと距離を取っていた。

 ──その距離こそが、彼女にとって最大の“社会的死”だった。

「……っ……うそ……!」

 イリーナはその場に崩れ落ち、王子は見向きもしなかった。

 リュシエルは舞踏会の中央へと戻り、カイルの手を取る。

「……さあ、始めましょうか。私の、本当の社交界デビューを」

 ──その夜、彼女の名は王国を超えて鳴り響いた。

お読みいただきありがとうございます。

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